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腹心の失踪 (その6)

工場の従業員を全員集めて、ファラの失踪について事の経過を説明し、「皆さんがファラを見たのはいつですか?」と尋ねた。

皆、「10月1日」「10月11日」などの返答だった。と、思ったら、1人、「10月13日」と言う者がいた。

10月13日は、家族がファラを最後に見た日の翌日だ。アブデュラヒ(仮名、男性)は、その日の様子を話してくれた。

「キャンプの市場で、私が親戚の携帯電子マネー専門店(ケニアでは「MPESA」という携帯電話でお金を送金できるシステムがある)で店番をしていたら、ファラが入店してきました。午後2時半ごろだったと思います。『携帯からお金を引き出したい』と机を手で叩きながら言いました。とても焦っている様子でした。普通なら『仕事はどうだ?』などと世間話をするのですが、そんな余裕もない様子でした。私が、自分がただの店番で、お金を引き出すやり方を知らないと伝えると、ファラは店内の椅子に座り、店主が来るのを待ちました。ファラは誰かからの電話に出て『もう少し、待ってくれ』と伝えていました。そして、数分して、私に『まだか?』と尋ねてきました。しばらくして、店主が来たので、私は店を出ました。ファラがどれだけお金を引き出したのか、わかりません」

これが、私の知っている限り、ファラの姿が目撃された最後の時だ。誰かに脅されてお金をかき集めていたのか、 お金を持ち出して逃げ出そうとしていたのか、どちらとも解釈できる行動だ。

その後、私は、全従業員に「ファラに変わった様子はなかったか?」「ファラはお金を持ち去って逃げるような人間だと思うか?」など、お決まりの質問をぶつけ、「特に変わりはなかった」「その人次第で、わからない」というお決まりの答えが帰って来た。

 さらに、「あなたがもし、月3万シリング稼いでいて、50万シリングの管理を任されたら、家族や親戚、仕事をすべて投げ出して、そのお金を盗んで逃走するか?」などと、何の生産性もない質問までしてしまった。従業員たちが「逃走します」なんて、答えるはずもないし、答えたとしても、何の解決にもならない。疲労で、頭の回転が鈍っているのかもしれない。

他の従業員がファラを最後に見たのは5月11日。ファラは、その日、七輪の説明会で使う鍋を工場に取りにいき、説明会の会場まで持って行ったという。説明会が終わった後は、鍋を再び工場まで返しに行ったが、工場の中までは入らず、門番に預けたという。「私たちを避けていたのか、急いでいたのかわからないけど、今考えると、不自然な行動だった」と従業員たちは振り返った。

ファラの行動を振り返ると
9月25日:長期休暇に入る私から82万シリングを受け取る。
 10月1日:従業員に給料を支払う。従業員と小さな「いざこざ」がある。
10月2日:私にメールで、従業員の規則違反を報告。この日以降、携帯電話での連絡がとりづらくなり、仕事をしている形跡もなくなる。
10月11日:七輪の説明会に鍋を持ってきて、説明会の様子を視察。この日前後で、50万シリングを預けていた店から引き出す。
10月12日:朝、いつもの様に「仕事に行く」と家を出たまま、戻らなくなる。メールで説明会の進捗状況を私と私の上司に報告。
10月13日:キャンプの市場で携帯電話からお金を引き出そうとしているところを従業員に目撃される。

うーーん。全くわからない。11日にのみ出勤した理由は何なのか?13日に、そんなにあからさまに、焦った態度を見せた理由は何なのか。その時点で、アブデュラヒは、まさかファラが行方不明になるとは思っていないはずだから、もし、お金を持ち出そうと考えていたなら、できるだけ平静を装うとしないだろうか。本当に誰かに脅されているなら、誰にも相談しなかった理由は何なのか?考えれば、考えるほど、深い迷路の中に入り込んでいく。全く違う思考回路があるのか、私たちの知らない事情があるのか、、、。

私は、従業員たちに「今は、ライフラインにとって一番、困難な時です。治安も悪化していますし、お互いのことを気にかけ合いながら、仕事に取り組んでください。ファラは10月1日以降、行動が不自然になっていました。誰かがその事に気付いて、自宅を訪問するなどしていれば、同じ結果にはなっていなかったかもしれない。これ以上、問題が起こらないよう、就業規則に沿って行動し、お互いに言葉を掛け合いながら仕事して下さい」

皆、こわばった表情をしていた。ファラを心配しているのか、お金がなくなったことで、工場運営への影響を心配しているのか。質問などはほとんどなく、リーダー格のレゲが「ファラが無事に戻って来てくれる事をねがっています」とだけコメントした。

その後、ナイロビからスーツケース満杯にして持って来た私の古着を従業員たちに配った。 ズボン、シャツ、帽子、靴などなど。時間厳守を奨励するため、この日のミーティングに早く到着した従業員から一つ一つ選んでもらった。毎日、ダダーブで、テニスやバスケをして穴が空いたナイキの運動靴は、さすがに拒まれると思ったが、何と、一番先に取られていった。中には、10年前に買ったズボンなどもあったが、皆、大喜びで、その場で身に付けて帰っていった。よく見ると、ほとんどの衣類が、妻に買ってもらったものか、義父から譲り受けたものか、ラクダレースなどの大会の参加賞で、自分で買った物が2、3個しかなかった、、、。たまには気分転換に買い物でもしないとな。
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腹心の失踪 (その5)

ファラを電話で脅迫していたという人物はハガデラキャンプ(ダダーブにある5つのキャンプの一つ)にいるという。そこで、私は、ハガデラにいる従業員に話を聞くことにした。ハガデラには、工場Aがあるのだが、現在閉鎖中。世界食料計画(WFP)との新しいプロジェクト担当の従業員4人がいるだけだ。

失踪前、ファラは、主に、ハガデラの従業員と交流があった。別のキャンプはモウリドが担当していたからだ。だから、失踪寸前の様子についても、彼らなら、何か知っているかもしれない。

4人中、1人は風邪で来られず3人が来た。

私:ファラが行方不明になっています。皆さんが最後にファラを見たのはいつですか?
従:10月1日。9月の給料を受け取る時です。
私:最後に話したのはいつですか?
従:10月12日です。電話で業務連絡が来ました。
私:七輪の配布についてですか?
従:はい。

 丁度、この時期、七輪2万個を配布するというWFPの大プロジェクトが開始されていた。ライフラインは、配布する際の説明会を担当し、ファラはその取り仕切り役だった。従業員たちに七輪についての研修をし、彼らがしっかり説明会を開いているかどうか、チェックする役割だ。

私:ファラは、七輪の説明会を視察には来なかったのですか?
従:来ませんでした。
私:給料を支払った後、なぜ、一度も皆さんに会いに来なかったのでしょう?
従:わかりません。
私:10月10日に七輪の配布が始まった時も視察に行っていなかったのですか?
従:はい。来ませんでした。

 大プロジェクトが開始される、一番大事な日さえ、ファラは仕事をしていなかった。失踪する2日前のことだ。

私:ただ、電話は来ていたのだね?
従:はい。プロジェクトが始まる知らせが来ました。
私:それで最後に電話が来たのが12日か。実は、その日以来、ファラの行方がわからなくなっています。ファラが管理していたお金もなくなっています。約50万シリング。今の所、ファラがお金を持ち去ったのか、事件に巻き込まれたのかは、わかりません。家族はイフォに残っています。皆さんはどう思いますか?

ある従業員の1人コーレ(20代男性、仮名)は、「南アフリカなら10万シリングあれば行ける。持ち逃げたのだと思います」。別の従業員バレ(仮名、30代男性)は、「その額で、仕事も家族もすべて投げ出すとは思えません」と話した。

ファラの失踪について、新しい情報が得られる様子がなかったので、私は、別の議題に移った。ファラが失踪する前の10月2日、私の休暇中に送られて来たメールについて思い出した。メールには、コーレがライフラインと別の援助機関を二股して働くという規則違反をしていることが報告されていた。メールを受け取った時は、私が休暇を終えてから応対するつもりだったので、特に返答もしなかった。

私:コーレが別の援助機関でも働いているという報告を受けているのですが?
コ:(「他の従業員もやっていたことです」などとごちゃごちゃ話した後)はい。9月末まで働いていましたが、もう辞めました。確認してもらって結構です。
私:なぜ、ライフラインで働きながら、別の機関で働いていたのですか?
コ:お金に困っていたからです。すいませんでした。
私:ファラは、どうやって、あなたが二つの機関で働いていることを知ったのでしょう?
コ:私が伝えたからです。
私:え?いつ?
コ:9月7日。

 月日の質問に対し、コーレが即答で返してきたことが引っかかった。普通、こんな細かいことまで覚えていないだろう。

私:あなたがそれをファラに伝えて、ファラは何と言ったのですか?
コ:「とりあえず、9月中は二つの組織で働いて、10月からライフラインだけにしろ」と言いました。
私:本当に、ファラがそんなことを言ったのですか?もし、あなたが嘘をついていることがわかったら、すぐ解雇しますよ。

私は声の調子を上げた。援助機関の二股行為は固く禁じられている。ブログにも書いたが、9月中旬に1人解雇したばかりで、それを良く知っているファラがそんな返答をするわけがない。コーレは、気まずい表情を見せながら、わけのわからない弁明を始めた。

そうすると、それまで黙っていたドウボウ(男性、仮名)が話し始めた。

ド:実は、10月1日の給料支払いの日、小さなトラブルがありました。コーレが、別の友人にファラの電話番号を教え、その友人が、ファラに電話をし、ファラに対して「バカ」「くそったれ」などの暴言を吐いたのです。さらに、その友人は、私の名前を名乗って、ファラに電話をしたのです。私も、かなり苛立ちました。
私:ファラに電話をしたのは、あなたの友達なのですか?(コーレを見ながら)
コ:いえ、知りません。私の電話が誰かに取られて悪用されたのだと思います。
ド:いえ。ファラは、その電話を受け取った時、最初出たのはコーレの声だったそうです。その後、友人に変わり、私の名前を名乗って、暴言を吐いた。そして、そのかかって来た電話番号にファラが電話をし直して、「君はコーレを知っているか?」と尋ねたら、「私の友達だ」と答えたのです。
私:コーレ。君は、この人のことを知っているのか、どうか答えてください。
コ:私は、電話をなくして、、、
私:これは、イエスかノーの質問です。あなたは、ファラに暴言を吐いた人間を知っているのか、どうか。
コ:知っています。
私:その人の名前は?
コ:、、、。バレと言います。
私:少し前、あなたは、この人のことを知らないと答えた。今は、違うことを言っている。
コ:2度しか会ったことがないので、、、。

ファラが受けていた脅しの電話。そして、従業員とのトラブル。「10月1日を境にファラと連絡がしづらくなった」と他の従業員からの証言。私は、いくら探しても見つからなかったジグゾーバズルの一片が見つかったような気分になった。私は、コーレに部屋から出てもらった。ドウボウとバーレと3人になり、詳細を尋ねた。

私:ファラとコーレのやり取りについて詳しく教えてくれないか?
ド:ファラは、9月分の給料の支払いを拒んでいました。それでも、私たちは、その月分だけは払って上げてくださいとお願いをして、渋々払ったのです。でも、「10月はとりあえず停職処分にし、工場長が戻ってから、相談して今後について決める」とコーレに話していました。
私:なるほど。それに腹を立てたコーレが復讐として、そんな電話をかけたということか。君たちは、この件についてどう思う?
バ:ファラは怒って当然です。コーレは、平気で嘘をつく。
ド:私の振りをしてファラに電話をするなんて心外です。コーレはこれまでも、いくつか問題を起こしています。10月12日、七輪配布の時に、配る七輪を盗もうとして、一緒にプロジェクトをやっている他の援助機関職員から注意されています。その職員は、すぐにファラに電話をして報告していました。
私:君たちは、ファラが失踪した件と、このコーレとの問題と、何か関係があると思う?
バ:あるかもしれません。今日、コーレは私たちに「ファラはもう仕事を辞めた」と言ったのです。ファラが辞めたかどうか、工場長にさえわからないことを、なぜ、コーレが言うのか理解できませんでした。
私:でも、私から見たら、これはとても小さい「いざこざ」です。これが、失踪事件に発展するのでしょうか?
バ:今、この辺の治安はものすごく悪化しています。どんなささいな事が、事件につながるのかわからない。死体が見つからないのだって、ソマリアへ越境したら、事件は永遠に闇に葬られるでしょう。

確かに、ダダーブの治安は日に日に悪化していた。9月末、アルシャバーブの拠点となってきたソマリア南部の湾岸都市、キスマヨが陥落し、多くのメンバーがケニアに逃れたとされる。2日前は、従業員の弟が薪集めの最中に銃で射殺され、別の従業員も一月以上音信不通になっている。

私:ファラは、とても忠実で仕事熱心な人間だった?
2人とも、深く頷いた。
私:そんな彼が、お金を盗んで逃走するなんてありえない?
2人とも再び深く頷いた。そして、最初にファラが逃走したと主張していたのが、3人の中で、唯一、コーレだったことを思い出した。
私:もう一度、事実関係を確認させてほしい。コーレが援助機関を二股していることがわかり、ファラが処分を下した。私にも報告した。それに腹を立てたコーレが、ファラに嫌がらせ行為をし、さらに、ファラを怒らせた。

バ:はい。

私:もし、これが、今回の失踪事件と関係しているとしたら、ファラが、自分の信念を貫き、同胞の不正を暴いたことが原因ということになるね。

私は、そこまで言ったところで、言葉に詰まった。いつの間にか、目に涙が溜まっていた。妻の前でも泣いたことがない私が、従業員の前で涙を見せるわけにはいかない。ドウボウとバレに気付かれないよう、必死に自分の感情を押し殺そうとした。

私は日々、「同胞だからって甘くみたらいけない。馴れ合いを生んだら、長期的発展はありえない。同胞の過ちを罰することができるようになったら、君も立派な経営者だ」とファラやモウリドに伝えてきた。私の教えに忠実に従ったばかりに、ファラが危険な目に遭ったのだとしたら、やりきれないものがある。

前のブログでも書いたが、援助機関を二股していた別の従業員を解雇した時、それを私に告げた密告者は、報復を恐れ「絶対に、私が密告したことは誰にも言わないでくださいよ」と話していた。それだけ、同胞の過ちを外部者に伝えるということは、危険を伴う行為なのだ。

難民キャンプでは、ケニア警察や援助機関と協力して、治安対策を任された難民が殺される事件が相次いでいる。本来、敵対関係にあるケニア軍や国連と協力することは背信行為とみなされ、それをアルシャバーブが見せしめとして罰していると、ほとんどの人は見ている。すでに脅しをかけられていたファラが、アルシャバーブと敵対するアメリカの援助機関で働き、さらに、同胞の過ちをその機関に報告していることが公然となれば、何かしらの制裁が加えられても、おかしくないのかもしれない。ワールドカップを「西洋のスポートの祭典」とみなし、それを観戦した者を処罰してしまうような組織だ。何がきっかけで殺されるかなんて全くわからない。

私が騙されたのか、彼が殺されたのか。私は、自分のプライドを守るというためだけに、前者であってほしくないと願っていた。しかし、後者の場合、ファラが生存している可能性は極めて低く、少なからず私に責任がある可能性もある。改めて、自分の身勝手さと、この探偵ゲームの不毛さに気付く。

本当にファラのことを思うなら、彼が私のことを騙していても、無事でいてくれることを願うべきだった。生きてさえいれば、どんな過ちだろうと、いつか償うことはできるのだから。

全従業員を集めて経過を報告し、探偵ゲームに終止符をつけよう。おそらく、真相究明が、ファラの生還の可能性を高めるとは思えず、逆に、自分を含む別の誰かが事件に巻き込まれてしまう可能性を高めてしまいそうだ。

腹心の失踪 (その4)



ファラの妻、ソウド(仮名、20代)とは、難民キャンプの国連事務所で会った。通訳として、英語を話せる親戚を連れ、待ち合わせ時間通りにやって来た。私の顔を見るなり、軽い会釈をした。通訳の男性はカシムと名乗り、30代。英語は流暢とまではいえないが、私がゆっくり話せば、大体の会話はできるレベルだ。

モウリドに通訳をお願いすることもできたが、別件の用事があり、また、面識のないモウリドより、親戚が通訳した方が、ソウドも話しやすいのではないかと思った。簡単に自己紹介をした後、早速、本題に入った。

私:ファラから連絡はないですか?
ソ:ありません。(涙ぐむ)
私:ファラを最後に見たのはいつですか?
ソ:前の金曜日ではなく、その前の金曜日。
私:10月12日ということでいいですか?
ソ:、、、、。
私:先々週の金曜日ですね?
ソ:はい。
私:その日は、どんな会話を?
ソ:普通に、「仕事に行く」と言って出て行きました。それっきり、戻ってきませんでした。(再び、全身を覆った布で涙を拭う)
私:最近、ファラに変わった様子はありませんでしたか?
ソ:いいえ。
私:何か、いつもと変わった話をしているとか?
ソ:ありませんでした。
私:12日に行方が分からなくなってから、どうしていましたか?
ソ:最初は、仕事で帰ってこないものだと思っていました。最近は、ダダーブの宿舎に泊まることが多かったので。ただ、仕事がない日曜日に帰ってこなかったので、心配し始めました。普通なら、毎日の様に電話で連絡もきていましたから。月曜朝、マサラニ(約100キロ離れたケニアの地域)に住むファラの両親に電話をし、周辺に住む親戚に連絡をして、手分けして行方を探しました。心配した両親もダダーブに来て、ファラを探しました。

ここから、私は、ファラが家族や生い立ちについて話していたことを思い出しながら、ソウドの供述と一致するか試してみた。

私:いつ、ソマリアからキャンプに来たのですか?
ソ:昨年10月です。
私:なぜ?
ソ:ファラがアルシャバーブ(イスラム武装組織)に脅され始めたからです。
私:なぜ、脅されていたのですか?
ソ:彼がケニアの市民権を持っているからです。
私:ケニアの市民権を持っているとなぜ脅されるのですか?
ソ:彼みたいに英語が話せる人はあまりいません。アルシャバーブは英語を話せる外国人をターゲットにし始めました。
私:子供は何人いますか?
ソ:6人です。
私:最後の子供はいつ生まれましたか?
ソ:、、、。8月初旬。(何月何日という単位を普段使わないためか、返答に時間がかかる)
私:一度、難民キャンプからソマリアへ1人で帰ろうとしたことがありますか?
ソ:はい。
私:それはなぜですか?
ソ:キャンプの治安が悪くなったため、ソマリアにいても、ここにいても、変わりがないと思いました。

ファラとソウドの供述はほぼ一致している。2人が私に嘘を付いている可能性は、少し下がった。

私:あなたは、ファラの最初の妻ですか?
ソ:いいえ。2人目ですが、最初の妻とはすでに離婚しているから、今の妻は私だけです。
私:最初の妻はどこに?
ソ:ソマリアです。
私:最初の妻との子供たちは?
ソ:3人の男の子がいますが、3人ともファラの両親が面倒を見ています。

 ソマリアの私立大学で英語を教えていたというファラは、それなりの収入があったらしい。それを投げ捨てなければいけなかったファラの心情はどんなものだったのだろう。一人目の妻をソマリアに残しているという点が少し気になった。私は、さらに、本題に踏み込んだ。

私:ファラの行方がわからなくなったと同時に、私たちの団体のお金も紛失しました。ファラが管理を任されていたお金、約50万シリングです。

ソ:、、、、。どういうことですか?ファラが奪ったとでも言うのですか?

私:いいえ。それを今、調べているのです。今、わかっていることは、ファラとお金が同時に行方不明になっているということです。
ソ:、、、。私は、てっきり、ファラの居場所について何らかの情報が入ったから、今日、呼ばれたのだと思っていました。そんなことがあるなんて知りませんでした。

親戚のカシムも驚いた様子で、「そんな事、聞いていなかった」と言った。

私:モウリドから聞いていませんでしたか?
ソ:お金を管理している店と連絡をとっても、確かな情報がもらえないということだけは、聞いていました。
私:ファラは、ダダーブから出て、どこか別の所に住みたいとかは話していませんでしたか?
ソ:いいえ。
私:ライフラインの仕事に何か不満を持っているとかは?
ソ:仕事の話は家ではしませんでした。とにかく忙しそうにしていましたし、それにやりがいを感じている様に見えました。
私:私については何か言っていましたか?
ソ:「ようこう」という名前の人と電話で話しているのは何度か見ていますが、それ以上のことは、何も話していませんでした。
私:ファラがダダーブの生活に特に不満を感じている様子はなかったのですね?
ソ:ありませんでした。
私:それでは、ファラがお金を使って、どこか遠くの国へ逃走するということはあり得ませんね。
ソ:あり得ません。50万シリングくらいでは、何もできませんし、私に連絡をよこさないのもあり得ません。もう消息がわからなくなって12日。これだけ長い時間、連絡がないということは、彼の身に何か起きたとしか考えられない(涙を拭きながら)。
私:ファラが家族をこんな形で見捨てることはしないと信じていますか?
ソ:はい。
私:一人目の妻はソマリアにいるのですよね?
ソ:あれは、双方の同意のもと離婚したのです。相手は子供の世話はできないといい、ファラが子供たちの世話をすることになった。だから、ファラが彼女を見捨てたわけではありません。
私:ファラは、これまで人を騙すようなことはしませんでしたか?
ソ:ありません。彼は、決して人のお金を取るような人じゃありません。

ソウドの気持ちは痛いほどわかる。ファラを信じたい気持ちは私も一緒だ。しかし、肝心のファラが事件に巻き込まれる要因が見当たらない。もう、あきらめかけようとしたところ、ふと、自分の質問を振り返った。もしかしたら、「最近、ファラに変わった事はなかったか?」という質問が漠然としすぎたのかもしれない。カシムの通訳もどこまで正確かわからない。もっと、直接的な質問に変えてみることにした。

私:キャンプで、ファラが脅される様な事はなかった?
ソ:ありました。
私:え?
ソ:これまで、ファラは2人の人間に脅されていました。
私:もうちょっと、詳しく説明してくれますか?
ソ:1人はイフォ。2人目は、ハガデラです。(いずれもダダーブに五つあるキャンプの名前)
私:それでは、まず、イフォから。
ソ:アルシャバーブに関連している男で、ソマリアにいる時から、ファラを脅していました。それが理由で、ダダーブに逃げて来たのですが、最近の、内戦の激化で、この男もまた、ダダーブに逃れて来ていたのです。それで、キャンプの市場でたまたま、ファラとすれ違った時、脅されました。
私:それはいつ頃?
ソ:9月ごろ。2回に分けて脅されました。
私:何て言って脅されたのですか?
ソ:「お前がここで生きていくのは不可能」と。
私:何も、危害は加えられていないのですね?
ソ:はい。言われただけです。
私:ハガデラは?
ソ:こっちの方が深刻です。電話で何度も何度も、脅迫されていました。
私:電話だけ?実際に会ってはいない?
ソ:はい。電話だけです。
私:電話で何と言われたのですか?
ソ:イフォと同じようなことです。
私:いつから?
ソ:、、、。時期はよく覚えていません。
私:正確な日時じゃなくていい。数ヶ月前とか、数週間前とか。
ソ:、、、2−3ヶ月前からだと思います。
私:最後に電話が来たのはいつ?
ソ:1ヶ月前くらいですかね。
私:9月下旬か。それについてファラは何って言っていたの?
ソ:「言わせたいように言わせておけばいい」と意に介していない様子でした。
私:このことを国連とかには報告しなかった?
ソ:いいえ。夫は強がる所があったので。
私:どれくらい頻繁に電話は来ていたの?
ソ:数日起きくらいだったでしょうか。
私:名前とかはわからない?
ソ:いいえ。ハガデラの人間ということしかわかりません。
私:イフォの方は、対面しているわけだから、連絡取れないの?
ソ:連絡先がわかりません。
私:じゃあ、ファラが失踪したのは、この脅迫してきた人物と関係していると思う?
ソ:間違いないと思います。お金を管理していたお店の人と、脅迫した人物が繋がっているかもしれません。ファラが12日間も連絡してこないなんて、あり得ません。

ソウドは、何度も、涙を拭っていた。「ハガデラの人物からは電話だけ」「イフォの人物は2回対面」など信憑性を漂わせる詳細さがあるように感じた。通訳のカシムは「最近の治安悪化で、電話での脅しもよく聞かれます。実際、脅しを受けた後に殺されるケースもあるくらいです」と話した。

ソマリアの内戦激化で、アルシャバーブの支配地域が次々に、アフリカ連合軍に侵攻され、元兵士がダダーブに逃れて来ているという情報は入って来ていた。ソマリア国内で狙われていた人物が、国境を超えて、難民キャンプで狙われても、おかしくはない。

 探偵ゲームは新たな局面を迎えた。これまで、ファラが事件に巻き込まれた可能性があるとしたら、ファラの管理していたお金目当ての殺人か誘拐だろうと想定していた。しかし、ファラが、個人的に狙われる可能性があったのなら、話は別だ。その人物たちが、何らかの方法で、ファラが大金を管理していることを知り、ファラを消し去るついでに、お金も奪ったということも考えられる。

彼が殺されたのか、私が彼に騙されたのか。一度は、後者に傾きかけていた針が、また中央に戻されていった。

腹心の失踪 (その3

その後、モウリドと2人きりになって、事情を聞いた。

私:失踪する前、ファラに変わった様子はなかった?
モ:10月に入ってから、連絡が取りにくくなりました。それまで毎日、電話で話し合っていましたが、ファラの電話が繋がらない事が多かったです。新しいプロジェクトが始まり、かなり忙しいのだと解釈していました。
私:最後にファラと話したのは?
モ:10月9日ころだったと思います。
私:他の従業員は何て?
モ:10月13日に、従業員の1人がキャンプの市場でファラを目撃しています。送金業者の店の前で、何やらお金を預けるか引き出すかしているようだったということです。従業員が声をかけても、返事することなく、そのままタクシーに乗って、どこかへ行ってしまったということです。
私:家族が最後にファラを見たのが10月12日。つまり、その日は、どこか別の所で泊まっていたということか。
モ:そうなりますね。
私:他の従業員は、今回の件についてどう話しているの?
モ:最近の治安悪化で、最初は、皆、ファラが事件に巻き込まれたのではないかと心配していました。でも、私が、ファラが管理していたお金がなくなっている可能性について話すと、お金を持ち出したのではないかと言う者も出てきました。
私:「ファラがお金を盗むなんてするわけがない」と擁護する従業員はいないの?
モ:、、、。いませんでした。
私:ファラの家族はなんて?
モ:事件に巻き込まれたと信じきっています。お金がなくなっている可能性について話しても、「そんな小さな額で、すべてを放り出すわけがない」と言っています。
私:こういう失踪事件はキャンプではよくあるの?
モ:ありません。
私:君が十数年前からキャンプにいて、1件でもあった?
モ:ありません。とても珍しいことです。
私:もし、援助機関のお金を盗んだとしたら、彼は、同胞たちからどういう目で見られるの?
モ:村八分です。私たちにとって、窃盗は、最悪の罪です。しかも、妻と6人の子供の扶養義務を怠ることも、最低最悪です。もし、ファラが盗んでいたとしたら、もう、ダダーブに戻ることは不可能でしょう。ダダーブはおろか、ナイロビやモンバサなど、ケニアのソマリア人コミュニティで暮らすことは難しいでしょう。ファラが失踪してから、ファラの親戚と名乗る複数の人物から何度も電話をもらいました。「ファラはどこだ?」「同じ組織で働いているのだから知っているだろう?」と。自分たちの親戚が、窃盗と家族の扶養放棄をしたということはとても恥じる行為なのです。

私:難民が行方不明になって、その後で、死体となって見つかるような事件はある?
モ:最近の治安悪化で、たまに起こります。薪を集めにいった難民が行方不明になり、2日後に遺体で見つかるなどです。しかし、ファラが姿を消してからすでに12日。ここまで長い間行方がわからなくなるのは聞いた事がありません。この辺り一帯の人々は遊牧民です。毎日、家畜と共に、縦横無尽に数十キロ歩きます。だから、死体がどこにあろうと、数日以内には見つかる可能性が高いのです。

私:死体がどこか遠くで埋められていたら?

モ:死体が埋められていたというのは聞いた事がありません。そういう習慣がないし、そもそも、これだけ殺人事件が日常的に起こっている中で、犯人が死体の発見を遅らせる理由があるとも思えません。もし、ソマリアのイスラム武装組織が関与しているのだとしたら、彼らの罰則手法は基本、公開処刑です。

私:なるほど。ファラに個人的恨みを持つ様な人物はいたのだろうか。
モ:知りません。
私:事件に巻き込まれたとしたら、お金も紛失しているわけだから、ファラが大金を管理していたことを知っている人物の可能性があるのだけど、これを知っているのは、私とあなた、そして「ビューパーク」の関係者くらいだね?
モ:はい。

私: 店の関係者の可能性はどうだろう?「ファラがお金を引き出した」という事実がなく、ファラを消し去ることで、預けたお金を手に入れようとしているという可能性はないだろうか?

モ:額が少なすぎます。「ビューパーク」はダダーブでかなり大規模な店でレストランも経営しています。おそらく、50万シリングとは別単位の売り上げを毎月出しているでしょう。殺人事件を犯し、顧客からの信頼を失うリスクを犯してまで、盗む額ではないと思います。

私:なるほど。私もそう思うな。と、なると、やはり、ファラがお金を持ち出して逃げた可能性が高くなるのだけど、それでは、なぜ、ファラは、従業員の給料を支払う前に失踪しなかったのだろうか?

モ:ファラが工場長からお金を預かったのは9月25日。給料日まで数日もありませんでした。どこかに逃走するとしたら、それなりの準備が必要になります。給料を支払わなければ、従業員から不審に思われ、準備するのに支障が出ると思ったのかもしれません。それに、ライフラインの従業員は、様々な部族の人がいて、すべての部族から睨まれたくないという思いもあったかもしれません。これから、ファラがどの国で暮らそうとも、間違いなく、そこにいるソマリア人コミュニティの支援を頼ることになるからです。

私:ファラは君にとってどういう人物だった?お金を盗むような人間だった?

モ:難民キャンプで長い間付き合いがある友人ならまだしも、私とファラはライフラインで知り合った仲です。1年弱の付き合いで、一体、どこまでその人のことを知ることができるのでしょう。ファラはとても仕事熱心で、従業員との関係も良好だった。でも、それがただの演技だったのかもしれない。事件に巻き込まれた可能性もないわけではありませんが、彼がお金を盗み出した可能性の方が大きいと思います。それを考え始めたら、私は、彼が憎くて仕方ない。誰かをこんなに憎むのは初めてくらいです。彼はライフラインが、難民の自立支援のために、これまでやろうとしてきたことをすべてぶち壊した。彼は昨年、ソマリアから逃れて来た時、ほとんど何もない状態だった。ライフラインに入り、収入源が生まれ、2度、昇進され、収入も5倍に増えた。これから、ライフラインを基盤に、自分のキャリアを作っていくものだと思っていた。うまくすれば、将来、ライフラインが活動する他の地域(ウガンダやハイチ)で仕事ができるかもしれない。自分で勝ち取ったこの仕事を無駄にすることなんてしないと思っていた。だから、とても残念です。


私は、自分の目頭が熱くなった。それまで自分の中に抑えてきた心の内を代弁されることで、わらにもすがりたい想いになった。「私は、何があってもライフラインで働き続けたい」そう笑顔で話していたファラの表情を思い浮かべたら、涙が出そうになった。

私:ちなみに、お金を持ち出したと仮定して、ケニア国内に居残ることが難しい場合、どこに行く事が考えられるだろう。

モ:アメリカ、ヨーロッパ、南アフリカ、、、。ソマリア人コミュニティは世界中どこでもあります。ここから一番近い所だと南アフリカ。友人によると、2000ドル(約16万円)あれば、業者に頼んで、密入国することができるそうです。

必死に、これまでのポイントを頭の中で整理した。

●失踪10日前ほどからファラとの連絡がとりづらくなっていた
●失踪4日前に、50万シリングを引き出すのを目撃されている
●13日に、お金のやり取りを市場でしているところを従業員に見られても、話をせず、タクシーに乗ってどこかへ行った
●失踪から12日経つが、死体が発見されず、事件に巻き込まれた可能性が低い
●紛失した額は、国外逃亡するには十分のお金

以上の点から、私がファラに裏切られたという可能性の方が大きくなっていた。
しかし、まだ、モウリドと店主に話を聞いただけだ。2人とも、ファラとの関係はそこまで深くはない。一番、ファラの事を良く知っている人物に話を聞くまでは、安易な結論を出したくなかった。

私:明日、ファラの家族に会わせてくれないか?通訳もつけてほしい。

モ:わかりました。連絡してみます。

腹心の失踪 (その2)

10月21日、大韓航空でソウルからナイロビに到着。私の孤独な探偵ゲームが幕を開けた。ファラは無事なのか?ファラに渡したお金はどうなったのか?モウリドや他の従業員、お金を管理していた店の関係者、そしてファラの家族などに話を聞き、腹心の失踪の裏に何があったのか、なんとしても突き止めたかった。団体の資金運用の透明性を確保するという大義名分はあったにせよ、実際に私を突き動かしていたのは、「腹心に騙されたという可能性を取り除きたい」という自尊心だけだった。

早速、モウリドに電話をした。

私:ファラの件だけど、特に、新しい進展はない?
モ:はい。特にありません。
私:お金がなくなっているということだけど、モウリドは、実際に、その店に行って、確認したのかな?
モ:いえ。電話で店の主人と話しただけです。
私:いくら預けられて、いつ、引き出されたのかとか聞いた?
モ:聞いても、教えてくれません。

 お金はファラが個人的に預けたことになっている。預かった方としたら、顧客の個人情報の守秘義務がある。まして、誰からもわからない電話での問い合わせに応じるとは考えにくい。

私:モウリドは、ファラがお金を持ち出したのか、それとも事件に巻き込まれたのか、どっちだと思う?
モ:お金を持ち出した可能性の方があるような気がしてきました。もし事件に巻き込まれたのだとしたら、すでに、何らかの情報が入ってくる様な気がします。(すでに失踪してから10日が経っていた)
私:でも、お金目当ての失踪なら、なぜ、従業員の給料を支払う前に失踪しなかったのだろう?
モ:、、、、。
私:給料を差し引けば、残りの金額は約50—60万円。ファラの給料は月3万円。数百万円ならわかるけど、果たして、この金額は親戚、家族をすべて投げ出して、逃走するような金額だろうか?
モ:確かに、そこまでの額ではないですね。ただ、今の段階で家族と音信不通になっているだけど、後からこっそり連絡する可能性もあります。今は、そのお金でどこか外国へ行き、新たな生活基盤を作ろうとしているのかもしれません。

私:なるほどね。とにかく、明日朝、ダダーブに着いたら、色々、聞かせてもらうよ。

22日午前9時半ごろ、国連機でダダーブに到着。約1ヶ月ぶりのダダーブは、雨期でまとまった雨が降ったようで、いつもは赤土の地面一面に草が生えていた。まず、モウリドと、ファラがお金を預けていた店に向かった。

 ファラがお金を預けていたのは、ダダーブの国連敷地の入り口門のすぐそばにある、「ビューパーク」という総合スーパー。コーラやスプライトなどのジュース、牛乳、トイレットペーパー、砂糖、小麦粉、お米、野菜、電池、ペンなどが棚に並ぶ。 子供から大人まで、様々なお客が出入りした。

オーナーの男性は40代くらいのソマリア系ケニア人。私は、「ひょっとして、まだお金はあるのではないか」というひそかな期待を胸に、オーナーに歩み寄った。

次々に商品を持ってくるお客に対応しながら、オーナーは私に目を向けた。

私:私の部下がここにお金を預けたのだと思うけど。
オ:はい。
私:それについて、色々聞きたいのですが。
オ:、、、、。
私:すいません。大事な顧客情報を渡したくないのはわかりますが、あのお金は私たち団体のものなのです。これは、私たちの団体の存続に関わる大事な情報なのです。
オ:わかりました。
私:ファラは、いつ、いくら、ここに預けたのですか?
オ:9月の終わり、82万シリングを預けた。
私:そのお金は、もうここにはないのですか?
オ:ない。
私:ファラは何回に分けて、そのお金を降ろしたのでしょう?
オ:2—3回だったかな?
私:最後はいつ?
オ:うーん。2週間前くらいだったかな。
私:何か、記録に残ってないのですか?
オ:ないよ。私たちソマリア人は、すべて信用でやっているからね。いくらでもお金を預かるし、いくら引き出したいっていったら、その額を渡す。アメリカにいようが、ヨーロッパにいようが、電話一本で、親戚にお金が送れるのも、この信頼関係に成り立っている。
私:なるほど。最後にファラが引き出した金額は?
オ:50万シリング。
私:2週間前ということは10月8日くらいということですか?
オ:そうですね。
私:彼は10月12日から行方不明になっているのです。何か心当たりはありませんか?
オ:ないね。もともと、私たちは彼のことはあまり知らないんでね。一ヶ月ほどまえ、10万シリングを借りたいと言ってきたけど、特に親しい仲でもないので断ったよ。
私:10万シリング?何に使おうとしたのでしょう?
オ:そんなの知らないよ。
私:彼の家族も心配しているのです。
オ:しかし、50万シリングなんて小さな額で消えてしまうなんて信じられないね。それで外国へ逃れたとしても、すぐ使い切るだろうよ。
私も、そこは引っかかっていた。彼の給料は月に3万シリング。1年働けば、それに近い額は稼げたし、ケニアの国家公務員並みの給料の仕事をどこか他で探すのはかなり難しいだろう。家族や親戚関係をすべて投げ出してまで、欲しい額なのだろうか。


私:ファラは1人でお金を引き出しに来たのですか?
オ:そうだと聞いている。
私:誰かに脅されていたという可能性はないでしょうか?
オ:そんなの、彼の背中に銃を突きつけない限り無理だろう。それか、家族を誘拐するとかね。

やはり、お金はなくなっていた。何かの誤解で、実はお金があるなんてことを期待していた自分が惨めだった。この店主が嘘を言っている可能性はゼロではないが、約50平方㍍の店内にありとあらゆる品物を揃える店の店主が50万シリングのために殺人を犯す可能性は、そこまで大きな収入基盤がないファラが私に嘘をついてお金を奪う可能性よりもはるかに小さく感じた。

お金が紛失したということを確認した上で、今度は、モウリドと2人きりになって事情を聞いた。

腹心の失踪 (その1)

「ファラが行方不明」という最初の一報を受けたのは10月16日。久しぶりの長期休暇で、その日は、妻の韓国の実家を訪れていた。ダダーブの国連事務所で働く友人からのメールで、私は、すぐモウリドとファラに確認のメールを送った。

ファラは、私が不在中、工場長代理として現場を仕切っていた。そして、1ヶ月間の運営資金約80万シリング(80万円)もファラに手渡してあった。だから、ファラが突然消息を絶ったという知らせには、少し胸騒ぎがした。

10月18日、モウリドから「ファラが行方不明」という題名のメールが入った。

 「先週からファラが行方不明です!私のパソコンの調子が悪く、連絡が遅くなり申し訳ありませんでした。ファラは先週土曜日から行方がわかっておりません。数日前にファラの家族からの問い合わせがあり、一緒に行方を探しました。携帯電話は通じません。

組織の運営資金を預けているお店にも連絡しましたが、もう、資金はすべて引き出されているということです。ファラの家族は安否を心配しています。私は、ファラがお金を持ち出して逃走したのだとは思えません。おそらく、何らかの事件に巻き込まれた可能性が高いと思います。

先週から、新しいプロジェクトが始まり、ファラが忙しそうにしており、あまり密に連絡を取り合っていませんでした。彼は私の9月分の給料(約4万円)も支払っていません。彼が忙しそうにしていたので、給料の支払いを後回しにしていましたし、私も、最近の治安悪化で、あまり大金を家で管理していたくなかったという事情もありました。さらに9月に購入した七輪の鉄枠の支払い約20万シリングも滞っています。」


モウリドのメールの宛先は、私と、私の直属の上司で、団体の事実上のトップであるバヒドも含まれていた。

バヒドは早速、メールに返信し、「ファラの無事を心から願います。どういう体制でお金を管理していたのか、教えてもらえますか?」と私に尋ねてきた。

私はすぐ返信した。「治安悪化で、モウリドもファラも自分の家に大金を管理することを拒みました。私たちの団体は事務所も金庫もないため、どこか安全にお金を管理できる場所を、モウリドとファラの3人で考えた所、ファラが、知り合いがやっているお店なら無料でお金を預かってくれるということだったので、そこに預け、管理はファラに任せることにしました。

もし、ファラがお金を持ち出して逃走したのだとしたら、これは完全に私の責任です。ファラと一緒に仕事をして1年になり、私は彼に全幅の信頼を寄せていました。お金を管理してもらうことに何のためらいもありませんでした。

私は10月22日にダダーブに戻ります。現場でもう少し事実関係を調べてから、報告させてください。

モウリドにいくつか質問です。ファラは他の従業員たちの9月分の給料は支払ったのでしょうか?ファラの妻子はキャンプにまだいるのですか?もしいるのなら、ファラを家族が最後に見たのはいつなのか、など詳細を調べておいてもらえると助かります。

もし、長老や他のリーダーに相談してもいいかもしれません」


モウリドもすぐ返信した。「他の従業員の給料は支払われています。妻子もまだキャンプにいます。ファラを最後に見たのは先週金曜日、10月11日だということです」


私は、少し救われる思いだった。「もし、ファラがお金を持ち出したいのなら、給料を支払う前に失踪することができたはずです。しかし、それをしなかったということは、ファラが何かしらの事件に巻き込まれた可能性が高いのではないか」と返信した。


お金を持ち出して失踪したか、事件に巻き込まれたかで、今後の対応は大きく変わるが、いずれにせよ、最悪の形で腹心を失ったという事には変わりがなく、私は胸が引き裂かれる思いだった。

前者なら、極度の人間不信に陥るだろうし、後者なら、ライフラインの資金管理を任されていたということで事件が引き起こされた可能性が高く、部下の身を危険にさらさせた罪悪感に悩まされるだろう。

後者はファラが生存していない可能性もあるわけだから、本来なら、前者であることを願うべきなのかもしれない。しかし、私は、心の奥底で、後者であることを願っていた。

私は、ダダーブの他の団体が難民従業員にお金の管理を任せていないことにずっと疑問に思っていた。キャンプには5000以上の自営ビジネスが展開されており、それ自体、難民の資金管理能力を示しているのだから、援助機関と難民の信頼関係さえできれば、お金の管理だって任せられるはずだと、ずっと思っていた。そして、ライフラインが難民従業員により多くの責任ある仕事を担ってもらえることを証明すれば、ダダーブの支援体制にも一石を投じ、難民の自立につなげようという目標を抱いていた。

 しかし、ファラがお金を持ち去ったということになれば、私がこれまで積み上げてきた実績も信念も目標もすべてがぶち壊される。私の存在自体が無意味になってしまうような、そんな妄想にさえとらわれた。

ファラは、昨年12月にライフラインに入った。「工場長と従業員が同じ椅子に座って話し合える援助機関なんて他にない」とライフラインでずっと働くことを熱望していた。流暢な英語を話し、就業時間後に他の従業員に読み書きを教えるなど、仕事に忠実で能力が高く、さらに他の従業員との関係も良好だったため、今年5月に主任に昇格。そして今年9月、新しいプロジェクトの取り仕切り役に昇進させると、ブルンジ人の女性従業員が「ファラが工場に来なくなって、本当に寂しい」と話していた。

とにかく、今はファラの無事を願うしかない。これまで何度もモウリドとファラには伝えてきた。「もし、君たちが私を騙す様なことがあったら、もう、私はここで働くことはできなくなるだろう」。その度、2人は「それだけは安心してください」と私の目を直視しながら言ってきた。その言葉を頭の中で何度も呼び覚まし、私はダダーブに戻る日を複雑な心境で待ち構えた。

(ファラの生い立ちに関しては、http://adventurebyyoko.blog3.fc2.com/blog-entry-62.html を参照)
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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