スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

次期工場長は誰か

18、19日と2日続けて、各工場の新しい主任との月例ミーティング。治安が悪いから、私が工場に行くのは控え、警察のガードが付く国連の事務所に主任に来てもらった。

活動報告書、出席簿、七輪の調査報告書などを点検する。仕方のないことかもしれないが、報告書には様々な間違いがある。

例えば、各従業員が毎月、いくつの年次有給休暇を取得できるかを示す表がある。4月1日時点で有給休暇が20あり、4月に休暇を10日取得した従業員が、5月1日時点で取得できる休暇日数が「12」と記載されている。そんな計算間違いが数多く見られ、私は、間違いがある従業員の欄に印をつけ、「もう一度、ゆっくり見直してみてもらえますか?」とその場での主任のファラに書き直しを命じた。

30分して、書き直されたチャートを見ても、まだ、間違いがあった。私は、仕方なく、ファラと一緒に、休暇取得数を声を出して数え合い、足し算と引き算をして、間違いを指摘した。英語をネイティブ並みに話せる主任が、こんな簡単な算数ができないということに、落胆を隠せなかった。「一つ一つ、ゆっくり確認しながら、記入するようにしてください」と話した。

問題は、ファラだけじゃない。本来、私の代わりに現場を仕切るはずのモウリドも、間違いを見逃しているのだ。

七輪を難民たちがどう使っているのかの報告書には、調査した七輪すべて「状態は良い」となっている一方、別の記載欄には、「壊れやすいと不満を述べる難民が多い」と記されている。七輪の状態が本当に良好なら、なぜ、壊れやすいという不満を述べる難民がいるのか?そういった矛盾を、モウリドも主任も、指摘することができない。

 報告書を細かくチェックするという習慣がないのか、同胞の過ちを掘り下げることに抵抗感があるのか、ただ怠慢なだけなのか。モウリドがライフラインに入って半年になるが、チェック機能がまだまだ弱い。

 そしたら、工場Aの新しい主任になったブラレ(男性、仮名)が「従業員が大学や専門学校に通えるような奨学金制度はないのでしょうか?」と尋ねてきた。要するに、何か学びたいから、その授業料を出してくれと言っている。「ライフラインが、本当に従業員の能力を伸ばしたいのなら、そういう奨学金制度が必要なのではないでしょうか?」と言う。

私は、「何も、学校に行くだけが能力向上の手段だとは思っていません。ライフラインは、実践方式で従業員の能力向上をしている。あなたが日々、一つの工場の運営を任され、こうやって、正確な報告書作成の指導を細かく受けているということが、どれだけ、あなたの能力向上につながっているのか、わかっていますか?」

ブラレは、まだ、納得していない様子だった。私は、彼に伝えた。「私が、ライフラインの工場を去る時、モウリドに自分の地位を引き継ぎたいと思っている。勿論、その時点で、モウリドにそれだけの能力があったらの話だ。そして、君の能力が上がれば、モウリドの地位を任せることだってありえる。本来、私たち外国人は、ダダーブに20年も居座るべきではなかった。難民の能力向上を20年やっていれば、外国人に頼ることなく、難民だけでキャンプの運営はできたと思う。でも20年経った今でも、難民従業員は、指導役になるために育成されることもなく、雑用を任され、キャンプ運営に口を出すことはできない。だから、モウリドもブラレも、報告書を細かくチェックする習慣が身に付かなかった。でも、正確な報告書を作るという能力は、君たちがこれから社会に出る時、必ず必要になるものです。だから、私は、細かくあなたたちの指導をしている」

ブラレの表情が少し柔らかくなった。ダダーブには約2000人の援助関係者と、約6000人の難民従業員がいる。ピラミッド式に、外国人スタッフが上、ケニア人スタッフが中、そして、底辺に難民従業員がおり、待遇も各階級で数倍の差がある。

難民従業員が、階級を二つ飛び越えて、外国人スタッフのポジションに就くというのは、前代未聞の話だ。でも、私は、モウリドならできると本気で信じている。「難民自身でできることは難民で」というライフラインのモットーを腐らさないためにも、私は、モウリドを立派な次期工場長に育てたい。そして、いつか、ワシントンDCで開かれるライフライン年次総会で、モウリドと再会を果たしたい。そんな日を思い浮かべたら、仕事へのやる気が湧いてきた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。