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工場長と主任の全面対決

遂にこの日がやってきたか。指導方針が全く異なる工場長と主任の全面対決。
 ダダーブには難民キャンプが三つあり、そのうちの二つのキャンプに私の工場はある。無断欠勤や成果の水増しなどの問題があった工場Aに対し、前任者のJからは、「工場Bは、最高のチームワークだ!」と引き継ぎを受けていた。確かにBの従業員はよく働く。毎週150のコンロを生産し、生産量は半年前に比べたら2倍に増えていた。
 主任のハサン(仮名)は、責任感が人一倍強く、誰よりも早く出勤し、時間外労働も全くいとわない。そして、今年1月に主任に就任してから、一度も有給休暇を取らず、仕事に専念してきた。
 しかし、私は、最初からハサンの指導方法に疑問を抱いていた。まず、自分の部下に対する悪口が多い。「あんなダメな奴は初めてです!」「こいつがこれまでしてきたことは、前任者に聞いてもらえばわかります」などなど、私からみたら、「文句があるなら、その人に直接話せばいいのに」と思うようなことばかりだった。
 そして、新人に対しては特に厳しい。「新米のくせに、何言ってんだ?」という、私の一番嫌いなセリフを平気で口にする。このセリフは、私が3年半在籍した日本の会社に最後まで馴染めなかった大きな理由の一つだ。「新米のくせに」ではなく、「新米だからこそ」意見に耳を傾ける価値がある。「こんな企画どうでしょうか?」と先輩や上司に言って、「お前一年生のくせに何言ってんだ」という様な目で見られ、何度、涙を流したことか。誰でも短所長所はある。1人1人の長所を引き出していける組織こそ、伸びていくと思うのだが、「新米のくせに」と特定のグループにレッテルを張ることで、伸びる芽もの育たなくなってしまう。
 ある日、ハサンから携帯メッセージが届いた。「アブディを15日間の停職処分にしました」という。本来、停職処分は私が下すもので、主任にその権限はない。「3人で話をさせてくれ。それまで待ってくれ」と返答した。
 次の日、工場でハサンから話を聞いた。ハサンによると、金曜日の午後2時、キャンプ内の市場で、ハサンがアブディにお使いを頼んだら、断られたために、停職処分にしたという。
 金曜の午後2時は勤務時間外だ。しかも、金曜日はイスラム教にとっての休息の日。その時間に、主任からお願いされた仕事を断っただけで、停職処分は、少し厳しすぎる。しかも、12人いる従業員の中でなぜアブディにお願いしたのか、ハサンに聞いても、はっきりとした答えは返ってこない。アブディは少し生意気なところがあり、ハサンは、よくアブディの事を悪く言っていたから、気に入らない部下をターゲットにしたのだろうか?だとしたら、むしろ、そちらの方が問題だ。
 ハサンは、私のあいまいな表情に気づき、さらに続けた。「今朝、そのことで彼に話したら、彼は私に『馬鹿』と言ってきたのです」。私は、「馬鹿」という言葉には、反応せざるをえなかった。従業員が上司に、そんな口を叩いたとしたら、それは問題だ。
 早速、アブディを呼び、一対一で話した。しかし、アブディは「『馬鹿』とは言っていない」、と言う。ハサンを呼び、3人で話す。突っ込んで話を聞いてみると、ソマリア語が適切に通訳されていないということに気付いた。
 アブディが何と言ったのか、ソマリア語でノートに表記してもらった。「バララクレ」。「意味のわからない事を話し続ける人」という蔑視的な表現で、「馬鹿」とも解釈できなくもないが、少し意味が異なる。日本語だと「やかましい!」みたいなもんか?「馬鹿」ほど、蔑視的ではないように思える。
 私は、従業員全員を集めて、「勤務時間外に、主任から仕事をお願いされたら、もちろん、できる限りの範囲で協力してほしいですが、無理なら、はっきりと断る権利があります。ただ、お互いを尊重し合うことが大事なので、蔑視的な表現は避けましょう」と伝えた。アブディは、自らの過ちを認め、ハサンと拍手をした。その日は、和解の意味を込めて、従業員全員を連れて近くの食堂で昼ごはんをした。ハサンは、初め、皆と同じテーブルには座らず、私が「なんで1人で座っているの?」と言い、「混んでいるようだったので」と言いながら、私たちのテーブルにやってきた。ハサンと従業員の間に、もやもやしたものがあると、肌で感じた。

 2週間後、ハサンが久しぶりの休暇を取った日、工場を訪れると、従業員の1人、ノアが話しかけてきた。ノアが私と直接会話するのはこれが初めてのことで、事の重大性を悟った。主任代理のアブデュラヒの通訳で、ノアは、これまで胸の中に溜まっていたものを吐き出すように話し始めた。

 「先週金曜日、土を混ぜる作業をハサンに指示されて、『ちょっと疲れているから明日の朝やらせてくれ』とお願いしたら、『犬』と呼ばれた。ここにいる皆がそれを聞いていた。もう、彼の下で仕事をするのは無理だ。主任を代えてくれ」

 「犬」とは、イスラム教で「不浄」の意味を持ち、これ以上、人の尊厳を傷つける言葉はないのではないか。他の従業員、全員が聞いている中で、ノアが、初対面同然の私に「主任を代えてくれ」と請願するということは、事態は、私が予想していた以上に深刻だった。
 
 私は、「ハサンにも事情は聞いてみる。それで、全員でミーティングをしよう。英語とソマリア語ができる通訳を連れてくるから、ハサンも話し合いに参加できるようにする」と告げた。

 初めから分かっていたことだが、私の工場には、大きな構造的問題がある。私と従業員の間には言語の壁があり、ソマリア語と英語ができる主任を通さない限り会話ができないということだ。これは、自然と、主任に大きな権力がもたらされる。なぜなら、工場長は主任の報告を通してしか従業員の様子がわからないからだ。だから、主任の都合で、「あいつはだめだ、あいつはやくやっている」と言えば、それに従って評価が決まってしまう。従業員が何か言いたくても、通訳するのが主任だったら、「バララクレ」が良い例だが、主任の都合よく通訳されるだろうし、主任に対する文句は言いづらくなる。

 3日後、まず、ハサンと2人きりで話す。ハサンは、自分がノアに対して、「ひどい事は言ってません」と断言し、ノアが指示通りに動かず、ハサンに対して、「俺に、ファックしろって言ってんのか?」と暴言を吐いたと言った。

 その後、外部の通訳者を招き入れ、全体ミーティングを開いた。外部の通訳を入れることで、ハサンも話し合いに参加できるようになるし、従業員もハサンに対して正直な事を言いやすくなる。ハサンが、自分の都合の良いようにソマリア語を英語に訳す心配もなくなる。

私「これまで、従業員同士の問題を数多く聞いてきました。このミーティングで、すべて、出し合いましょう。今日は、特別に通訳をお願いしました。これで、ハサンもソマリア語で話し合いに参加できるようになります。私たちは、人間なのですから、問題があるのは当然です。その問題に対して、正直に話し合うことが大切です。暴言は慎み、お互いの言っていることを尊重しながら、話し合いましょう。それでは、まず、ノアから始めましょう。」

ノ「これまで、ハサンからは、様々なパワハラを受けてきました。一度、遅刻した時は、『首にするぞ!』と脅されました。職場で少しふざけ合っていたら、『お前は臭い』と言われました。前の主任を引っぱたいて、大問題になったこともありました。彼が主任になってから、事態はさらに深刻になりました。彼は、自分の指示を強制します。私が、今は疲れているからできないと言っても、『これは義務だ』と言い張ります。だから、私は『俺にファックしろって言っているのか?』と暴言を吐きました。先週の金曜日も、土を混ぜろと指示され、他の従業員がやればいいと思い、別の事をしていたら、『犬』『馬鹿』と呼ばれました」

私は「他にはありますか?」と尋ねた。

アブディラフマンが手を挙げた。

ア「職場の人間関係が悪くなっているのは感じています。おそらく、今は一番悪い状態でしょう。何か私たちが気に入らないことをすれば、『工場長に報告する』と脅されます。ある日、私が働いていたら『家に帰れ』と言われました。主任は、もっと私たちのことを尊重しなければいけません。別の日に、携帯電話を充電しに市場に行きたかったのですが、それも許されませんでした」

他にも数人がコメントをした後、私は、「それでは、ハサンにも主張する機会を与えましょう」と言った。

ハ「私は、前の主任を引っぱたいていない。誰の事も、臭いとは言っていない。誰の事も犬とは言っていない」

と、すべて否定した。

私「ノアは、ハサンが『犬』と呼んだと言って、ハサンは言っていないと言っていますが、誰か他に聞いた人はいますか?」

お互いの表情を見あいながら、3人の男性従業員が「私は『犬』とハサンが言ったのを聞きました」と証言した。おそらく、女性従業員も聞いていたのだろうが、主任の手前、それを言うことはできないのだろう。女性従業員の1人が、「『馬鹿』と言ったのは聞こえましたが、『犬』は聞いていません」と言った。そしたら、ハサンは、「『馬鹿』とは確かに言った』と認めた。

私「ノアを含めて4人が、あなたが『犬』と言ったと証言していますが」

ハ「彼らの受け止め方次第だと思いますが、私は言っていません」

私「わかりました。では、主任は『馬鹿』と言ったと言っていますが、それについてはどう思いますか?適切だったと思いますか?」

と皆に尋ねると、2~3人の女性従業員が「不適切だったと思います。そんな言葉づかいはすべきじゃない」と言った。


ハ「説明させてください。私は、彼が、自分の過ちに気付き、言動を改めてほしかっただけです」

私「あなたは、誰かに『馬鹿』と言われて、自分の言動を改めようと思えますか?もし、言動を改めてほしいと思うのなら、しっかり向かい合って話し合ったらいいじゃないですか?君はこういうところがいけないと思うのだけど、君はどう思うか?『馬鹿』とののしれば、相手の言い分を聞く機会を失ってしまいます」

私は、4人の目撃証言がありながら、『犬』と言ったことを否定し続けるハサンの姿勢が、どうしても許せなかった。

私「もう一度、ハサンに聞かせてください。4人の従業員はあなたが『犬』と呼んだと証言しているのですが、あなたは言っていないのですね?」

ハ「わかりましたよ!みんなで、私に『言った』と強制的に認めさせたいなら認めますよ!」

私「それは違います。私たちは、あなたの正直な気持ちを聞きたいだけなのです。私たちから強制されているとは思わず、自分の胸に手を当てて、正直に言ってください」

ハ「私はジェントルマンです。そんなことは言いません」

これについてはもう諦めよう。これ以上詮索する価値もない話だ。しかし、もう一つ、私は引っかかるところがあった。

私「一時間前、私はハサンと二人きりで話しました。その時、ハサンは、『自分はノアに対しては何も暴言は吐いていない』と断言しました。しかし、今は、『馬鹿』と言ったと言っていますが、どうしてでしょうか?」

ハ「私も人間ですから、忘れることはあります

私は、この言葉を聞いて、思わず、空を見上げて落胆を露わにした。ノアが彼に言ったことは覚えているくせに、自分の言ったことは忘れたと??どこまで、自分の都合の良い方に、話を進めようとすめば、気が済むのか。

ハサンは続けた。

ハ「私が、主任になってから、工場の生産量は飛躍的に上がりました。それは私の指導力あってのことです。」

彼がこう開き直るのは、想定の範囲内だった。

私「工場の生産量よりも、1人の従業員の尊厳の方が大事です。それを忘れないでください」

ハ「私がこれまでやった功績はゼロということですか?」

もう、こんな議論はしたくない。私は、ノアに目を向けた。

私「ノア。君は、自分がハサンに言ったことについて申し訳ないと思っている?」

ノ「はい」

私「ハサンには謝った?」

ノ「いえ。他の従業員が私の代わりに謝ってくれました。私が謝っても受け入れられないと思ったので。」

私「謝るというのは、結果が大事じゃない。あなたの謝るという気持ち、努力が大事なのです。」

ノ「あなたが、謝れというのなら、謝ります」

私「いや。謝罪というのは人に言われてやるものじゃない」

ノ「わかりました。」

ノアは立ち上がって、ハサンと握手をし、抱き合った。

私は「ハサン。あなたは、ノアに対して謝りますか?」

ハ「もちろんです」

ハサンは立ち上がって、ノアを抱きしめた。

とりあえず、この場は、これで一件落着させよう。ハサンは、もう、十分に制裁を受けた。従業員全員の前で、多くの批判を受け、謝罪したのだから。彼なりに、かなり譲歩をした。そして、従業員たちも、良く話してくれた。上司の悪口を公然の場で、冷静に話すことは難しい。

私は最後に、「何か問題があったら、その人に直接話してみてください。もしだめなら、チーム全体でミーティングを開いて話し合ってみてください。それでもだめなら、私を呼んでください。できるだけ、自分たちで解決できるようにしたら、このチームはますます、結束されていくと思います」と締めた。

 ミーティングは2時間続いた。通訳に謝礼を払って、工場に戻ると、みんな和気あいあいと話していた。ハサンを批判した、アブディラフマンが笑顔で私に握手を求め、「ありがとう」と言った。そしてハサンとも握手をし、お互いの頭をなで合って、抱き合っていた。女性従業員のゾウトは、お腹をさすりながら、「お腹に溜まってモヤモヤが、このミーティングで、一気に出た感じでスッキリしました。いつも、問題ばかりですいません」と謝ってきた。私は「これが私の仕事だから。みんなが正直に話してくれてうれしいよ」と伝えた。

 ハサンも、普段通り、私と、次の日の仕事の段取りの打ち合わせをした。このミーティングを契機に、何か変わってくれたらいいのだが。

 しかし、前工場長のJは、工場の生産量を上げたハサンに全幅の信頼を置いていた。ハサンが、従業員の事を犬とか馬鹿とか言っていたことを知ったら、さぞ、驚くことだろう。生産量を上げることよりも、大事なことがあるということ。これからも、色々衝突はあるかもしれないが、ハサンに分かってもらえたらうれしい。
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No title

めっちゃ大変そうだな!

日本人しかいない職場でも価値観の違い?とか、色々と人間関係が難しいのに・・・

それにしても謝罪した後に握手して、抱き合うってなんか良いね。

では、からだに気をつけて!!

Re: No title

コメントありがとう!そうそう。彼ら自身の問題処理能力にはいつも脱帽です。日本も暑いらしいね。そちらも夏バテ注意。
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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