武装した若者、工場訪れる (その5)

次の日の朝、アヤレ、モウリド、そして工場Aの従業員全員が工場に集まり、地元住民代表6人と面会した。地元住民側が、「この度は、申し訳ないことをしました」と謝罪し、「もう、この様なことは起きません。何の心配もせずに、仕事に取り組んでください」と従業員たちに語りかけた。腕を掴まれ、引きずり回された女性従業員に対しては、「怖い想いをさせてしまいましたね。申し訳ありませんでした」と個別に謝り、工場は無事、7日ぶりに再開された。

本来、工場長である私も出席すべきところだったが、アヤレから「地元住民側から何人くるのかもわかりませんし、中には暴力行為に出る若者もいるかもしれない。ここは、私たちだけでやらせてください」とお願いされ、仕方なく、1人、事務所で工場が再開されることを祈っていた。

午後、モウリドとアヤレが事務所に来て、私に報告してくれた。2人は、最初、長老たちとの話し合いを試みたが、全く取り合ってもらえず、青年組織の幹部たちにアプローチをかけた。「私たちの工場の活動が停止すれば、地元住民が損をするだけです」と若者たちに呼びかけ、彼らを通して長老たちに話を通してもらったという。

長老たちは、いくつかの要求をし、アヤレとモウリドは、「できるだけ協力します。とりあえず、工場を開かせてほしい」とお願いし、了承されたという。

地元住民からの要求は四つ。

1.現金5万シリング (5万円)

2.地元住民の雇用

3.七輪の部品や土などを地元住民から購入

4.地元住民への七輪配布

 一番重要なのは、何と言っても「現金」。アヤレとモウリドは、「どの団体も、色々な形で、地元住民には便宜をはかっています。税金みたいなものです」と私を説得しようとした。これから、工場が安全に稼働されることを保障するためのお金だという。


私は、「お金については、本部と話し合う必要があります」と2人に伝えた。

しかし、なぜ、支援するのにお金を払わなければいけないのか。しかも、ナイフで脅されたあげく、お金を払うなんてことをすれば、それこそ相手の思うつぼではないか。私たちが支払うことで、他のグループから揺すられる可能性もある。

日本だったら、近所の家の周りを掃除するために、その近所の人にお金を払うことは想像できない。でも、東京の歌舞伎町で新しい居酒屋を始めるとしたら、その縄張りを仕切るヤクザに謝礼を払うのは、何となく想像できる。

ダダーブの場合、活動が、近所の掃除よりも「緊急性」があり、少しくらいのお金を払ってでも、活動をしなければいけない援助機関側の事情と、援助機関が団体登録する際にケニアの中央政府に支払う「税金」の恩恵を被ることができない地元住民側の事情が交錯している。

また、歌舞伎町で居酒屋を始める人のように、ダダーブの援助機関で働く人も、自分たちの利益を追求したいという思惑も少なからずある。日本で支援団体で働くというと、ボランティアか最低限の手当しか出ないイメージがあるが、ダダーブの援助機関で働くケニア人は少なくとも月4万シリングは稼いでおり、ケニアの1人辺りの国民総生産の5倍近くだ。極端な例を挙げるとすると、ある援助機関の運転手が、ナイロビの医師よりも2倍以上稼いだりしている。

しかし、私の場合、日本の会社員時代よりも給料が半減しており、賄賂を払ってまで活動を続ける個人的動機はない。ただ、ライフラインの目的である森林保全を達成するため、そして、従業員の安全を守るためなら、慣習になっている「非正規な納税義務」を果たすのは、仕方のないことなのかなとも思ってしまう。

うーん。難しい。モウリドとアヤレが頑張って交渉に臨み、工場再開させた努力を無駄にさせたくもない。しかし、援助をするために、お金を払うということを、どうやって本部に納得させるのか。一難去って、また一難だ。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR