武装した若者、工場訪れる (その6)

地元住民側からの金銭の要求に対しては、本部も即断を下すことはできなかった。「8月に本部の者がダダーブを訪れる時まで待てないのか?」と尋ねてきた。

それをアヤレに話したら、「そんな時間はありません。これでも、かなり金額は抑えられているのですから」と、私をせかした。アヤレが何故、そこまで焦っているのか理解ができず、何かしっくりこなかった。

そしたら、3日後、アヤレから電話があった。「今度は別の地元住民グループが工場を訪れてきました。同じ様に、仕事をくれと要求しているようです。後、金銭を支払うなら、その分け前を欲しいとも言っています。もう、私は、何が何だが、わからなくなりました」と疲れきった声で話した。

謝罪してきた地元住民の代表は、「もう、活動の邪魔はしない」と約束したはずなのに、なぜ?彼らがメンバーを統率できていないのか、それとも、金銭の要求に私たちが応じないことへの嫌がらせなのか。とにかく、従業員の安全を第一に考え、「明日から工場は閉鎖してくれ。君と私の2人でゆっくり話をさせてくれないか」とアヤレにお願いをした。モウリドは長期休暇に入っており、不在だった。

工場が再開できたと思ったら、再び閉鎖することになり、私の精神的疲労はピークに達していた。これでは、体がもたないため、それまでの「1日でも早い再開を」というスタンスを変え、気持ちを落ち着けることを優先させた。1ヶ月、2ヶ月、工場が稼働しないからといって、損をするのは、私でなく、地元住民自身なのだ。

私は、アヤレに改めて、事の経過を詳しく尋ね、これからの作戦を練ることにした。

私: 謝罪してきた地元住民を交渉相手に選んだ経緯について聞かせてくれ。

ア: 私の知っている地元の青年組織の友人らに誰に話を通せばいいのか聞き、紹介してもらった長老たちです。ファフィ地区は四つの町があり、各町選出の地方議員が1人ずついるのですが、謝罪したのは、工場がある町と隣の町の2人の議員、そして青年組織の幹部たちです。

私: 謝罪の後、彼らとは接触はあったのか?

ア: 2回、会いました。謝罪した日の午後と、その3日後です。『私たちの要求について、どういう回答なのか?』と聞かれました。私は、『工場長に話はいっているから、待ってくれ』とお願いしました。

私: 彼らと接触する際は、私に必ず連絡をしてくれ。それで、昨日、訪れたグループというのは?

ア: 会ったことのない、若い男性2人が、『ライフラインの工場が、私たちの地方議員の力で再開されたと聞いたけど、あの地方議員を選出したのは俺たちだ。だから、俺たちには、ライフラインから仕事をもらう権利がある。私たちを雇用しれくれたら、誰もライフラインに嫌がらせはしないよ』と私に言ってきました。

私: それで、彼らについて、その謝罪した地方議員には連絡したの?

ア: いえ。

私: その地方議員は、工場の邪魔は誰もしない、と約束したのだろう?だったら、何かあったら、その地方議員に頼むのが筋なのじゃないかな?

ア: わかりました。

アヤレはすぐに電話をした。

私: 何だって?

ア: 『心配するな。彼らはどの組織にも属さない、関係のない人間だ』と言っています。

私: そんなこと言われても、また、従業員に何かあったら、困る。その地方議員が、本当にこの土地の有力者なら、私が直接話しをさせてもらえないだろうか?

ア: わかりました。(電話をする)明日の朝に国連事務所で会えるとのことです。

私: 問題は、彼らの現金の要求に対して、何の結論も出ないまま、会っていいのだろうか、ということなのだけど。

ア: 議員は、間違いなく、お金の支払いを期待して来るでしょう。

 私は、一連のアヤレの言動について腑に落ちないものがあった。なぜ、こちら側が現金を支払うか支払わないか名言もしていないのに、そこまで確信を持ったことが言えるのだろうか?さらに、なぜ、その地方議員は、金銭の要求をし、それを受け取る前に、謝罪をし、工場再開に同意したのか?私は、アヤレに、聞きたかった質問を、ストレートにぶつけてみた。


私: なぜ、そんな確信がもてるの?まさか、支払いの約束なんてしてないよね?

私の質問に、アヤレは目をそらした。それは、私の質問が核心を付いていることを意味するものだ。

私は、アヤレの返答に、自分の聴覚を集中させた。アヤレがうつむきながら発したその答えは、私の想定の範囲を大きく超えるものだった

「実は、もう、2万シリング支払っているのです」

私は、自分の耳を疑った。これまで一生懸命、完成しようと努力してきたジグソーバズルが、一瞬にして破壊されたような気分だった。

本部でさえ即断することができない、とても敏感な対外交渉について、先月工場に入ってきたばかりのアヤレが個人の判断で、相手側からの金銭要求に応じていたとは、夢にも思わなかった。

私: なぜ、そんなことをした?

私は、半分理性を失い、声のトーンが格段に上がっていた。

ア: 。。。。工場を再開するために、自分が出した決断でした。

私: 誰のお金なんだ?組織のお金を自分の判断で使っていいのか?そのお金はどこから手に入れたのだ?

ア: 友達から借りました。

私: なぜ、そこまで急ぐ必要があった?

ア: 支払わなければ、工場が再開されないのですよ?工場長はそれでもいいのですか?

私: 組織としての判断が出るまで、工場を閉鎖することに、何の問題があるのだ? (私は、興奮してテーブルを手で叩いた)

ア: 。。。。

私: 君がした対外交渉が、今後、私たちの組織にどんな影響を与えうるかわかっているのか?別のグループが、従業員たちや別の団体を脅すことだって、ありえる。

ア: あくまで、私は、自分の個人のお金で支払ったつもりです。

私: そんな言い訳は通用しない。君はライフラインの代表として彼らと交渉をしていた。君が支払ったお金について、相手側は、君個人のものと受け止めるのか、組織のものと受け止めるのか?

ア: 、、、、、。組織のものと受け止めるでしょう。

私: もう、明日のミーティングはキャンセルだ。向こうが、お金を要求してくるのは明白で、私たちにはその用意はないからだ。アヤレ、教えてくれ。なぜ、そんなに急ぐ必要があったのか?

ア: もう、この話はやめましょう。これは私個人のお金で支払ったということにして、忘れましょう。私は、モウリドが工場長に報告しているものだと思っていました。

私: モウリドは関係ない。これは、君が交渉役を努めると言って、やったことだ。工場Aは君の担当でもある。

声のトーンが次第に大きくなり、周りのテーブルに座っている人たちの視線を感じたため、私は、私の宿舎に場所を移した。

 私は、アヤレが憎くて仕方なかった。出口のない迷路に投げ出された気分だ。一体、アヤレと地元住民の間で、どんなやりとりがあったのか。詳細について、アヤレに話してもらう必要があった。



私:支払いは、いつ、誰に、どこで行ったのか?

ア:まず、6月11日、最初に、この地域を統括する地方議員Sを紹介されました。そしたら、「10万シリングくれたら、地元の若者たちが工場に手を出さないよう、指示するよ」と言われました。私は「10万シリングなんてありません。どうにかなりませんか?」と何度もお願いし、5万シリングまで要求額は下がりました。それで、私は、一日も早く工場を再開できるように、友人からお金を借り、1万シリングを彼に支払いました。そして、工場で謝罪した日、Sから「もう1万シリング必要になった」と言われ、再び、友人からお金を借り、支払いました。私は、「これは、私個人として支払うものです」と念を押しました。

私:Sから脅されたりはしなかったのか?お金を支払わなければ、身の危険を感じたりはなかった?

ア:それはありませんでした。話し合いはいたって冷静に進みました。

私:じゃあ、なぜ、支払う前に一言相談することができなかったんだ?そこが理解できない。なぜ、そんなに焦る必要があったのか?

アヤレは、答えることができなかった。彼は6月1日からライフラインに見習いとして入り、工場Aの統括主任として適切なようなら、7月1日から正式に雇用するという契約だった。だから、考えられる原因は、アヤレが、見習い期間に成果を出そうと、工場再開を急いでいたということか。

私: モウリドは、支払いに立ち会ったのか?

ア: いえ、支払う時は、私1人でした。

私: じゃあ、モウリドは、あなたが支払うことを事前には知らなかったのだな?

ア: はい。でも、支払った後に、モウリドに報告はしています。

つまり、モウリドは事前相談をすることはできなかったが、事後報告を私にすることができたとうことだ。私は、休暇中のモウリドに電話をした。

私: アヤレがお金を支払ったことは、君は知っていたのか?

ア: はい。でも、それは、あくまで、彼個人のお金だという認識でした。

私: わかった。また、連絡する。

休暇中のモウリドに電話で小言は言いたくなかった。事後報告をしなかったモウリドの失態は、現金支払いを事前に相談しなかったアヤレの失態とは、比べ物にならないくらい小さい。

間違いないことは、今回、工場に来た別のグループは、アヤレが現金支払い要求に応じた事を聞きつけ、「ライフラインに要求すれば達成される」と勘違いしたに違いない。

これにより、交渉の継続どころか、交渉窓口の一本化さえ困難になった。一番最初、地元住民との接触後、アヤレが「彼らは私の知り合いです。ここは私に任せてください」と力強く言った言葉を、私は簡単に信じすぎていた。私は早速本部に連絡し、「アヤレは見習い期間が終わり次第、契約を打ち切る方向にします」と伝えた。本部は、「とにかく、時間を置いて様子を見よう。工場閉鎖期間が長引くことは、特に問題じゃないから」と言ってくれ、少し気が楽になったが、出口が見えない迷路に入り込んだことだけは確かだった。
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Re: No title

心温まるコメント、ありがとうございました。ブログを始めてから、こうやって知人以外の方からコメントを頂くのは初めてで、感動しました。

ダダーブに来て2年以上になりますが、まだまだ、彼らの本音を聞ける機会というのは少ないです。結局、私は、外部者で、どんなに入り込もうと思っても、壁にぶつかってしまいます。

「自分たちでやっていかなければいけない」という思い、確かに、彼らから感じることはそんなに多くありませんが、心の奥底では、難民みんな、自立したいという思いはあるのだと思います。でも、私たち援助関係者がこれまで関わってきたやり方などが原因で、そういう思いを形にする方法を学ぶ機会がなかったのかなと、最近思ってしまいます。だから、「難民の人は支援に依存しているからだめ」という援助関係者には、逆に、こちらが「じゃあ、あなたは、これまで、彼らの自立心を芽生えさせようと、どれだけ努力してきたのか?」と聞きたくなってしまいます。

「国際貢献のウソ」という本を東京外語大の伊勢崎教授が書いているのですが、とても共感しました。

もし、また、ケニアに来る機会がありましたら、連絡をください。FBでも友人申請していただけたらと思います。ソマリアの保健なら、ユニセフの國井先生など、お世話になっている方もいますので。

それでは、体に気をつけて、研究内容もシェアしていただけたら嬉しいです。

黒岩


> 友人からの紹介で黒岩さんのブログ、本当にさらっとだけ拝見させてもらいましたが、共感できること、すばらしいなと思うことがあったのでコメントさせてもらっています。
>
> 協力隊、NGOでの経験から、私も人や組織、地域の成長に関わるということの大変さと裏切りの数々とちいさな喜びの連続を味わっていました。同じように友人からのなぜ海外に、わざわざ危険なところに出るのか、の問いに対し、ただそこに自分のしたいことがあるから、なんだかんだ日本で仕事していたときよりも楽しい。と答えていました。
>
> 現在ソマリアの保健医療に関しての研究を大学院でしているために、先月ケニアに行き、何人かのソマリア人と、ソマリア政府の方、ソマリアに関わる国際機関の方々数人とお話させてもらい、その際にソマリア人の話し口調の特徴にやや苦しみました。私の英語自体にも問題はありますが、自分の国にとって悪いことは言わない、そらす、彼らの本当の思いがわからない、ということにです。もちろん初対面の私に素直に全部話してくれるなんて思ってませんでしたが、インタビュー中どのような質問をしたら彼らをtickできるのか苦しみながら考えていました。 なので黒岩さんの従業員の方との会話を読ませていただいて、相手の言葉に対して的確に質問していけるすごさをとても感じました。考えながら、相手や話の芯を突いた問いをタイミングよくするって、しかも相手がソマリア系であるとすると想像しただけですごいなぁと。もちろんそれなりの期間のかかわりがあったとしても。そしてたくさんの脅威のある中で。
>
> 現在インタビューを掘り起こしているところですが、結局governmentが存在しないということ、health systemがない(保健だけに限りませんが)ということに問題がたどり着き、研究自体もどう落とす、まとめるか悩みますが、それよりも、この国に関わって仕事をしている人たちについて考えてしまいました。自分や家族の身を削りながら仕事をして、時に命の危険にもさらしながら、ストレスを抱えながら、何を思うのだろうと。
> 結局自分達の足で立とうという気がなければ永遠にこれが続くんですよね。多くの途上国にこのような、類似した状況はあると思いますが、今回ソマリアに関わってより考えてしまいました。自分達でやっていかなければいけないと言う人にも出会いましたが、どこまでそれが実行されているのか見えないままです。
> すこしソマリアをかじっただけのものがこんなにコメントしてしまってすみません。
> 健康に気をつけて活動頑張ってください。
>
> 長文大変失礼いたしました。
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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