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武装した若者、工場訪れる(その7)


工場が再び閉鎖されてから3日後の6月20日、私は、工場Aの従業員全員を集めた。一連の事件が起きてから、従業員との初めての対面になった。

まず、「今回の件、何の罪もない皆さんを危険な目にあわせたことについて、とても申し訳なく思っています。私の工場長としての力量不足としか言いようがありません。これから、もう二度と、あんな事が起こらないよう、最前を尽くさせていただきます。特に、両手を掴まれて引きずり回されたマガラ(仮名、女性)には、本当に怖い思いをさせてしまいました」と、謝った。

マガラは、「けがもなかったし、大丈夫です」と淡々と答えた。

従業員たちも、今回の一連の事件の原因については、私の分析とほとんど同じで、「昨年まではライフラインの存在自体、誰も知らなかったけど、最近になって、知名度が上がったことで、地元住民が自分たちの利権を得ようとするようになった」と口を揃えた。「最近は、全く知らない人から、『ライフラインはどうだ?』と聞かれることがあるくらい、団体の活動が知れ渡るようになった」と従業員たちは誇らしげに答えた。

これからの事については、「地元選出の国会議員とか、有力者と話し合って、活動が継続できるようにしてほしい」との事だった。その後、全員を連れて昼ご飯を一緒に食べ、笑顔でしばしの別れを告げた。従業員たちは、そこまで気落ちしている様子はなさそうで、少し安心したが、今後、工場が再開されなければ、彼らの仕事がなくなる可能性を考えると、とても後ろめたい気持ちになった。

その後、アヤレと2人きりになった時、アヤレの電話が鳴った。「先日、工場を訪れてきた別の地元の若者が、工場に『鍵をかけた』と言っています」。

鍵??つまり、「鍵を開けてほしかったら、俺に仕事をくれ」ということか。とことん、舐められたものだ。もう、ここまでされて下手にでることはない。私はアヤレに伝えた。「この世界には、七輪が必要な人はたくさんいる。私たちは地元住民のため、森林保全をするためにこの活動を始めた。彼らがその工場に鍵をかけるということは、私たちの活動が必要ないということだ。だから、もし、このまま鍵がかかったままだというなら、私は、工場Aを閉鎖する。もし、彼らが私たちと話し合いをしたいというのなら、まず、工場の鍵を開けることが条件だ。アヤレ。君はこれ以上、交渉の窓口にはなるな。彼らには、『鍵を開けない限り、交渉はしない』と言い、工場に入れるようになった時点で私に電話をくれ」と伝えた。

そもそも、最初に謝って来た地元住民の代表とやらも、このグループの暴走を止めることができなかったのだから、「代表」とはいえないのではないか。つまり、結局のところ、アヤレから金を引き出すことしか頭になかったということか。援助依存症も、ここまで来たら、こっけいですらある。

その後、私の予想通り、こちらの持久戦に対し、地元住民側は焦りを見せ始めた。何度か私のところに電話があり、「1人か2人を雇用してくれるだけでいいんだ。そうしたら、工場を開くから」「郷に入ったら郷に従え、という諺を知らないのか?」「とにかく話し合いをして、それから、一緒に工場を開けよう」などなど、とにかく、地元住民に便宜をはかる約束を取り付けようとした。しかし、私は一切取り合わず、「とにかく、鍵を空けてくれ。話し合いはそれからだ。鍵が閉まったままなら、私たちは、どこか別の場所で活動をするから」と伝えた。

電話で、「それでは1人雇用します」と約束でもしたら、一体、何本の電話が私にかかってくることになるのか。さらに、『郷に入れば郷に従う』という諺を彼らは使ったが、気に入らないことがあったら、その人の家に鍵をかけるような『郷』なら、私は入ろうとは思わない。

アヤレの支払いのおかげで、地元住民を勢いづかせてしまった。今度は、こちら側が威勢を張る番だ。私たちが活動を取りやめれば、一番困るのは彼らで、それは本人たちが一番良く知っている。このまま工場に鍵がかかったまま時間が経てば、彼らは必ず折れる。私は、確信していた。

7月3日、アヤレから「今朝、彼らは、工場を開けると言っています」と報告があった。私は、「開いたことを確認してから、私のところへ来てくれ」とお願いした。そして、再びアヤレから電話があり、「これから工場を出て、そちらへ向かうところですが、地元住民も連れて行ってよろしいでしょうか?」と尋ねてきた。私は「だめだめ。その人たちが、本当に地元の代表なのか、吟味してからじゃないと」と伝えた。

そして、午後3時、アヤレは私の事務所にやってきた。私は第一声に、「鍵は開いたのだね?」と改めて尋ねた。そしたら、アヤレの表情が少し曇り、「今朝、地元住民3人と一緒に工場に行きました。鍵をかけた長老が、たくさんの鍵を持ってきていました。それで、扉の前で、その鍵の束から、一つ一つ鍵を取り出し、開錠を試みました。しかし、長老が持っている鍵は、どれも合いませんでした。どうやら、かけた鍵を家に忘れたとの事で、彼らは、『私たちはこの鍵を開けようとしたのだから、もう、開いたも同然だ。君が斧を持ってきて鍵を壊してくれても構わない』と言いました。だから、もう、工場を再開しても大丈夫です」と私に報告した。

私は、一気にうなだれた。もう、ほとんど笑い話の域に入っている。またもや、アヤレに裏切られた。椅子から立ち上がり、首を振りながら、私はアヤレを見下ろした。アヤレは、地元住民から完全に舐められているということを理解していない。

私: 私は、何度も、「鍵が開かない限り、話し合いはしない」と君に伝えた。

ア: 彼らは開けようとしたのだから、もう、開いたも同然じゃないですか。

私: 私は今、工場に入ることができるのか、できないのか?

ア: 、、、、。

私: 施錠されたままなら、なぜ、そうだと報告してくれなかった?

ア: 私の中では、もう、これで大丈夫だと思ったからです。

私: 大体、自分たちで斧で鍵を壊すくらいなら、始めからそうすれば良かったじゃないか。アヤレは、自分の家に鍵をかけてくる人と話し合いをしたいと思うのか?せめて、鍵を外してもらってから話し合いをしようとは思わないのか?

ア: 、、、、。

私: 鍵を彼らが忘れたのなら、出直して、開けてもらえば良かったじゃないか。なぜ、そんなに急ぐのだ?しかも、君は、鍵を開けていないのに、彼らをここに今日、連れてこようとした。それも、私には全く理解できない。

ア: 彼らは、地元住民代表たちと話し合い、鍵を開けることで合意したのです。

私: それは誰から聞いた?

ア: その長老からです。

私: その他の代表たちに直接、確認はしたのか?

ア: いえ。

私: 君が工場を再開したい気持ちはわかる。工場が閉まれば、君の仕事がなくなるわけだからね。だから、私は、君にもう交渉はするなと言った。君の役目は、工場が開いたかどうか確認することだけだった。しかし、君は、それさえできなかった。

ア: 私は、もう、すべてこれでうまくいくと、確信しているのです!

私: 私は、最初、あなたが言っていることを信じた。一番最初、君が大丈夫と言ったから、工場の活動を継続したけど、次の日、ナイフを持った人間が工場にやってきた。そして、彼らが謝罪してきた時。君はもう大丈夫だと言ったが、また、別のグループが尋ねてきた。君が「もう大丈夫」と言うことが、私にはどうしても信頼することができないのだよ。

ア: わかりました!私のことが信頼できないのなら、もう、私は、これですべて終わりにします。私は、工場のために自分の財布から2万シリング払ったのに、まだお返ししてもらっていません!もう、十分です!

 アヤレは、そのまま、テーブルの上に開いていたノートを閉じ、立ち去って行ってしまった。残念なことに、彼を追う気にはどうしてもなれなかった。本来なら、彼が勝手に2万シリング払った時点で、解雇するつもりだったが、私は「彼は悪気があってやったわけではない」と自分に言い聞かせ、注意文書のみで、起死回生のチャンスを与えた。しかし、今回の件で、私は、アヤレと一緒に仕事をしていく自信がなくなった。

もともと、交渉結果と利害関係があるアヤレを、交渉の窓口にさせたのが過ちだった。彼は、自分の仕事を守るために、なんとしても工場を再開しなければいけない立場にあった。そのある意味「弱い」立場を、地元住民たちに利用されていたのだ。「アヤレは、工場を再開させたいから、どんな要求でも飲むだろう」と。

だから、本来なら、アヤレではなく、全く、第三者か、工場Bで働くモウリドらを先頭に立たせるべきだったかもしれない。アヤレとは、国連勤務時代からの知り合いだが、モウリドと違い、一緒に密接に仕事をすることはなかった。ただ、工場長になってから、何度か、通訳をお願いしたことがあり、その時の振る舞いが頼もしかったから、一本釣りで雇ってみた。しかし、それが、完璧に裏目に出た。

とにかく、アヤレはライフラインを去った。これからは、新しい体制で交渉に臨むことになるが、まずは、工場の鍵を開けてもらってからだ。先は長いなあ。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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