拉致未遂事件が私たち援助機関に突きつける問題

先月29日に武装集団に拉致された友人たちが、3日後、無事に生還した!ソマリア国内を歩いて移動している途中に、ケニア軍が見つけ、実行犯は銃撃戦の末、殺されたという。

友人らはそのまま直接ナイロビへ行き、母国へ戻ったため、私は会うことはなかったが、無事帰還の知らせを聞いた時は、皆、抱き合って喜んだ。ケニアの新聞は勿論、BBCやアルジャジーラなど大手メディアは、この「ミラクル救出劇」を大きく報道し、友人たちは一躍、有名人になってしまった。

しかし、無事生還したからといって、ダダーブの治安が良くなったわけではない。そして、今回の事件は、大きな課題を、私たち援助関係者に突きつけた。

まず、先進国出身のスタッフが人質に狙われやすいということ。実行犯は身代金目当てのため、比較的お金がある国の出身者を狙っていると思われる。今回は4人とも、非黒人で、しかも、彼らが所属する団体「ノルウェー難民委員会」(NRC)の事務総長(組織のトップ)を乗せていた車両群が狙われたことから、実行犯は、より地位の高い人物を狙うことで、より多くの身代金を要求しようとしていることがうかがえる。(だから、某国の政府系機関の方が、以前、ネクタイ、スーツ姿でダダーブに来られた時は、「なぜ、わざわざ、狙われるような格好をするのか?」と同僚は首をかしげていた。昨年、訪れた国連事務総長でさえ、ネクタイはしていなかったのに)

次に、NRCの事務総長を乗せた車両群を、実行犯は待ち構え、計画的に狙っていたことから、日帰りでダダーブを訪れていた一行の行程が、内部の者から漏れていた可能性があること。「内部の者」というのは、同団体で働く難民従業員の可能性もあり、何らかの「報酬」の見返りに、協力したのではないかと指摘されている。

最後に、拉致が実行された場所である。「ダダーブ難民キャンプ」という呼称は、しばし、東京ドームくらいの大きさに人が引き締め合って暮らしているというような、謝ったイメージを外部の人に与える。実際は、五つのキャンプが散らばっており、端から端までの距離は30キロ以上、車で1時間以上かかる。つまり、「ダダーブ難民居住地区」という呼称の方が適切なのだ。
なぜ、このことを、ここで強調する必要があるのかというと、拉致が実行された場所は、昨年設立されたばかりの「イフォ2」キャンプで、昨年の飢饉で逃れた人が主に住んでいるところだ。1991年からある、他のキャンプとは違い、大きな市場もなく、ほとんどが、その日食べる物を調達することで精一杯の日々を送っている。要するに、居住地区の貧困層が暮らしている地区なのだ。

「難民は皆、貧困なのではないの?」と思うかもしれない。しかし、他の古いキャンプには大きな市場が形成され、送金業者、インターネットカフェ、ホテル、レストラン、電気店などなどが並び、車やテレビを所有している難民も珍しくなくなっている。私のアシスタントのモウリドも、ライフラインで働く前からパソコンを所有していた。アメリカに住む友人たちにお金を借りたのだという。

昨年10月に起きた拉致事件も、同じキャンプで発生しており、貧困地区の方が、「協力者」が得られやすいからではないかと推測される。

新聞は、今回の拉致事件を「ソマリア南部を実行支配するイスラム武装組織『アルシャバブ』のシンパによる犯行」と書いている。「シンパ」とは、「同調者」を意味する。しかし、ダダーブに住んで2年以上になるが、アルシャバブの過激的な「イスラム」の解釈に不満をぶちまけるソマリア人には大勢会ったが、それに同調するという人に会ったことはなく、もし、協力する人がいるとしたら、それは、食べるものがない故、数少ない収入源を確保するためだと、私はみている。

もし、このダダーブ内にできた難民間の「格差」が、今回の拉致事件と関連があるとしたら、私たち援助機関はこの格差是正のために何をしてきたのだろうか?食料配給は、20年間、すべての難民に一律に支給されており、平均月20日分の米、豆、トウモロコシ、油などが支給されるのみで、野菜や肉はなく、10日分は、自分たちのお金で購入しなければならない。自分が、貧困な難民で、テレビを所有している人が同じ分の生活保護を受けていたら、どんな思いがするだろうか?

それだけじゃない。援助機関が実施する若者対象の職業訓練や研修は、本来、文字の読み書きができない貧困層の難民が優遇されるべきなのだが、現実は全く逆だ。募集の張り紙が英語で書かれていたり、研修自体が英語で行われたり、援助機関で働くエリート層の難民従業員を通して告知がされる傾向があるため、自動的に、学校に行けず、日々、肉体労働でわずかな賃金を稼ぐ若者たちには、そういった機会が与えられないのが現状である。昨年2月に私が実施した調査では、若者全体の2割にも満たない高等学校卒業者の9割が、何らかの研修を受けた事があるのに対し、文字の読み書きができない人に限れば、1割だけだった。

本来、弱者に寄り添うべき、私たち援助機関が、逆に格差拡大に貢献してしまっている実態があるのだ。そして、そこから取りこぼされた人たちが、貴重な収入源確保のために、テロ行為に加担しているのだとしたら、自分のダダーブでの存在意義って、何なのだろう。

20年間、「緊急援助」の現場とダダーブは位置づけられてきた。だから、「難民」にはすべて、食料、医療、教育が一律、無料で提供され続けている。一方、その間、ダダーブは大規模の経済活動の拠点となり、貧富の格差が拡大した。それでも、果たして、一律に支援し続ける必要ってあるのだろうか?

今回の事件を受け、すべての援助機関の代表が集まって対策を練った。誰も、私が指摘する「格差問題」について言及する者はおらず、私自身、言うことができなかった。同僚が拉致されショックを受けている時に、「悪いのは私たちです」と言えるだけの度胸は私にはなかった。結局、何も言えない私は、誰を責める権限もなく、ただ、大きな流れに身を委ねたまま、日々を送っている。

人を「助ける」って、一体、何なのだろう。
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¡Animo!

門外漢ですが失礼。とてもいい考察だと思います。疑問に思うことがまずはスタート。「急いてはことをし損じる」ということわざもある。今後に期待します。

No title

ありがとうございます。焦らずじっくりとやっていければと思います。アニモって、何ですか?

No title

なるほど.考えさせられました.
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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