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感情的なメール

 前任者のJからは「最高のチームワーク」と評されていた工場Bで、主任のハサンが従業員を「犬」と呼び、工場長と主任の全面対決までに至った。Jのハサンの評価は特に高く、JはハサンにTシャツとか帽子とかをプレゼントしていた。Jとは昨年、とても仲良くさせてもらい、来月には彼の結婚式に出席するためにタンザニアまで行く予定だ。
しかし、仕事の上でのJの顔は全く知らなかった。それで、前任者と後任者という関係になって、様々な方針の違いに気づき、色々伝えたいと思うことがあった。でも、仲の良い友人の気分を害するような批判はしたくないし、もうすでに去った人の名誉を傷つけても仕方がないという思いがあった。

でも、今回は、ハサンの「犬」発言に私は怒り、Jの評価と現実とのあまりのギャップに私は戸惑いを隠せず、Jに少し感情的なメールを送った。

 「工場Bで、ハサンが従業員を『犬』とか『馬鹿』とか呼んでいたことを知ってた?ハサン自身が事実を認めた。それで、従業員の何人かが主任を代えてくれと申し出た。通訳を雇って2時間のミーティングを開いて、一応の和解には至ったけど、おそらく、しこりは残っているでしょう。
 ハサンはとても責任感がある反面、とても強権的だ。従業員は半年間で14日の有給休暇が取得できるはずなのに、ハサンは7日間しか認めていない。
 Jの一番お気に入りだったハサンに警告文を出さなくてはいけないかも。」

Jが気分を害するかもしれないとは知りつつも、ぶっきらぼうな書き方になってしまったことは否めない。Jからは、すぐ返信が来た。

 「ハーイ。ヨーコーの工場だから、ヨーコーの判断で好きにやればいい。でも、強権的な手法は、あの工場にとって必要だった。ハサンが主任になった当時、従業員の勤務態度はひどかった。それは、ハサンの前任の主任が、従業員に甘すぎた結果だった。もちろん、従業員を犬とか馬鹿とか呼ぶのは許されない。私がそう言ったとハサンに伝えてもらって構わない。でも、彼は、あの状況で必要なことをやろうとしていただけだった。従業員の規律を正し、生産量を一気に上げた。彼はよくやったと思う。
 有給休暇に関しては、私が彼の裁量に任せたから、私にも責任はある。主任を代えることに関してだが、考慮してもらいたいことは、今年2月、新しい主任を選ぶさい、7人の従業員が全会一致で彼が主任になることを決めた。ハサンがあまりに厳しく、これまでのような楽ができなくなったから、ハサンを代えようとしているだけなのかもしれない。
 最終判断はあなたに任せられているけどね」


Jは、私に「従業員が私を恐れていることは良いこと」と言っていた。確かに、「厳しさ」は必要だけど、それだけじゃないと思う。「上司が怖いから」という動機だけで仕事に取り組まれても、それは長続きしない。それに、「犬」と呼ぶことは許せないと書いている反面、主任を代えたいという従業員たちが、それまでの様な楽な日々を取り戻したいからそう言っているのだと書くところも、どこかスッキリしない。

 日本の会社にいた3年半で上司や先輩に「馬鹿」と呼ばれたことは3回ある。3回とも本気で仕事を辞めようと思ったし、実際一度は「こんな腐った会社辞めてやる!」と上司に言って、電話をこちらから切った。それが、「馬鹿」ではなく「犬」とかだったら、辞めるどころか、何か物を投げつけていたかもしれない。

 私は、できるだけ冷静に、今度はJの気分を害さないように配慮しながら、返事を書いた。

 「はい。Jの書いていることはよくわかる。従業員たちがサボろうとするのはよくわかるし、それに対して厳しく対処するのは当然です。私が、工場Aの従業員2人を停職処分にしたのも、私の厳しい一面だったと思うし、その後、工場の生産が上がったことも嬉しかった。
 Jの友人として、私が伝えたかったのは、生産の向上だけが、部下を称賛する理由になるべきではないということ。従業員がサボる時、ハサンのお決まりの言葉は「ヨーコーに通達するからな」だった。おそらくJが居たころは「ヨーコー」の部分が「J」だったのでしょう。ハサンは、工場長のJから常に称賛されていたから、従業員に対して何をしても大丈夫だと思うようになった。従業員たちは、Jがハサンに帽子とかTシャツとかを贈呈し、仲良くしていたから、どんな不満を漏らしたとしても、Jはハサン側に立つと思ったでしょう。
 これで、ハサンは、自分の言葉で従業員を説得する必要がなくなり、彼のマネージメント能力が伸びる機会は失われ、従業員とハサンの間に信頼関係ができずらくなってしまった。
 仕事を失う怖さから、自分の事を犬と呼ぶ上司に、忠誠心を誓わなければならないとうことは、とても辛いことです。
 Jが前のメールで書いているように、ハサンは、自分が主任になって工場の生産量が上がったことを示して、自分が従業員に対してしたことを正当化しようとしていた。私はハサンに「工場の生産性よりも、従業員の尊厳の方が大事」と伝えた。
 上司に対しての「恐れ」が、真面目に働く動機になるべきじゃないと思う。従業員たち自身が、自分たちのやっていることに意義を見出してもらわなければ、生産性も長続きしない。
 私はただの理想主義者なのかもしれない。今度、二つの工場の全従業員を集めて研修をする。そこで、従業員が出してきた意見をできるだけ工場の運営に取り入れたい。そうやって、彼らの意欲を高めていけたらと思う。
Jがこのメールを読んで気分を害したら謝る。でも、Jがこれから人道支援の道を進んでいくなら、大事な事だと思った。
いつも、アドバイスをありがとう。この仕事はとても自分に合っている。とても疲れるけどね。昨日は9時に寝てしまったよ。」

改めて読み返してみると、Jに対してかなり上から目線で、物事を決めつけて書いている。熱くなると、いつもこうなる。でも、Jはおそらく理解してくれるだろう。

Jの返信は再び素早かった。かなり長い文章で、すべてをここに綴ることはできないが、主な点は

1.工場運営に対する意見はヨーコーと同じ。
2.ハサンがそんな事をしているとは知らなかったし、知っていたら、しっかり批判はしていた。
3.工場の当時の状態を考えたら、ハサンの従業員に対する厳しい姿勢を称賛することは避けられなかった。

私の書き方に対する批判などは全くなく、逆に、「気分を害してなんかない。こういうことを考えさせてくれて感謝している」と書いてくれた。救われる思いだった。

私は「いつも、良い聞き役になってくれてありがとう。私はすぐ感情的になって、それを誰かに対して放出しなければすまない人なのです。もしかしたら、ハサンは、私が工場長になってから変わったのかもしれません。私が細かい事をいつも厳しく批判するから、ストレスがたまって、従業員たちに対してああいう行為に出たのかも(笑)」

Jは来週末、タンザニアで結婚する。私も妻と二人で結婚式に出席する。そんな忙し時期に、私のうだうだメールに付き合ってくれた友人に感謝したい。

3日後、工場Bを再び訪れたら、ハサンがすっきりとした表情で「工場があのミーティングで一気に変わりました。皆、私の言うことを素直に聞いてくれるし、お互いに配慮し合うようになった。仕事を楽しくやっている。何の問題もなくなりました」


そして、他の従業員たちも「ハサンが変わりました!」と興奮した表情で報告してくれた。ハサンに「犬」と呼ばれて憤慨していたノアが笑顔で、ハサンと話していた。こんな光景を見るのは初めてだった。

ハサンと、ハサンに対して暴言を吐いたノアとアブディ、合計3人に警告文を出そうかと考えていたが、彼らのすっきりとした表情を見たら、そんな気は失せてしまった。彼ら自身で解決できたのだから、「犬」の話を持ち出すのはよくない。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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