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簡単な計算はできないけれど


新しいプロジェクトの取り仕切り役になったファラ。工場Bの主任から昇格したわけだが、与えられる責任の大きさに、少々戸惑い気味だ。最大の課題は、お金の管理。

治安悪化で、難民キャンプに頻繁に行けない私の代わりに、従業員の給料や、工場で使う物品購入、交通費などの支払いをやってもらい、領収書を作成し、財務ノートに正確に記録してもらう。簡単な業務に聞こえるが、一筋縄ではいかない。

7月10日、私が、財務ノートをチェックすると、記録された支払いの領収書がないなどの間違いがいくつか見られた。ファラは、「領収書を取り忘れました。もう、このような間違いは、二度と起こしません!」と潔く過ちを認めた。私は、「これは、組織にとって、とてもとても重要な事です。本当に、これで最後にしてください」と伝えた。

7月17日、基本的に、財務ノートには支払いだけが記録されるから、残額は、毎回、減っていくはずなのだ。しかし、ノートには、7月12日の500シリングの支払いで、なぜか、残額が500シリング増えるという珍現象が記録されていた。「ここで、なぜ、残額が増えるのかな?」と尋ねると、ファラの表情は引きつり、「私の過ちです、、、」と言う。

私:この前、「もう二度と間違いは起こさない」と言いましたよね?

ファ:はい、、、。

私:この任務がこなせないのでは、残念ながら、この仕事をあなたに任せることはできません。なぜ、この様なミスが起きるのですか?

ファ:ちょっと、急いで記入していたからだと思います。妻が病気で、忙しく、携帯電話の電池切れで、電卓が使えませんでした。

私:毎回、何度も入念にチェックしながら、記入してください。もう、本当に、これで最後にしてくださいね。

ファ:わかりました。これが最後です。

こんな基本的なミスを連続で犯して、なぜ、ここまで自信に満ちあふれた表情ができるのか、私には理解しかねた。

7月25日、三度目の正直はあるかと期待しながら、財務ノートをめくった。しかし、7月20日、400シリングの支払いが記録されているのに、残額は200シリングしか差し引かれていなかった。私の期待は、見事に裏切られた。

私は、財務ノートを差し出し、「自分でもう一度、確かめてみてください」と伝えた。ファラは、1分ほどノートとにらめっこをしたが、過ちを見つけることができなかった。仕方なく、私は、「この項目、差し引かれる額に間違いはありませんか?」と尋ねた。

ファラは、電卓を取り出し、計算し始めた。差し引かれている額が200か400かを見分けるのに、電卓が必要だということに、私は、ショックを隠せなかった。

私:これで、三度目です。まだ、「これが最後です」と言うことができますか?

ファ:これが最後です!

私は、彼の根拠のない自信が、滑稽に思えた。

私:何度も言いますが、これは、とても簡単な算数です。これができないなら、今の仕事から降りてもらうしかありません。どうすればいいでしょうか?

ファ:今は、ラマダン(イスラムの断食の月)なので、頭の回転が遅いのだと思います。

私:もし、それが理由なら、この仕事から降りてもらうしかありませんね。毎年、決まった月に、計算ができなくなるようでは困りますから。

ファ:いえ。工場長が、いつも、財務ノートをチェックするのを知っているので、乗り合いバスを待っている時間にノートを記入していたので、正確な計算ができなかったのだと思います。

私:事務所に戻ってから、ゆっくりやればいいじゃないですか。

ファ:わかりました。それを聞いて安心しました。もう大丈夫です。

どうすればいいのか?私は、彼の能力以上の業務を要求しているのだろうか?いや、それはない。簡単な足し算、引き算さえできれば、こなせる業務だ。決まった額を支払い、領収書を取り、それを、一つ一つ財務ノートに記入し、前の残額から差し引いて、残額をはじき出す。難民キャンプの高等学校を卒業し、教員養成専門学校を卒業し、ソマリアの大学で英語を教えていた者なら、これくらいはできるはずだ。

では、何が足りないのか?私の言っていることを真剣に聞いていないのか?もしかしたら、ファラは、この業務は「そんなに、大事なことではない」などと思っているのかもしれない。だとしたら、この業務の重要性を、身をもってわかってもらうしかない。

私:この業務は、あなたにとって難しいですか?

ファ:いえ。簡単です。できます。
私:それでは、こうしましょう。これ以降、私がノートに過ちを見つける度に、あなたの次の月の給料を差し引くというのは?

ファ:、、、。そうですね。500シリングくらいですか?

私:2000シリングです。

ファ:それは、大きいですね。

私:でも、簡単な業務なのだから、特に問題はないはずでしょう?

ファ:、、、、。わかりました。

新たな契約書に、「与えられた業務を遂行できない場合、給料が差し引かれる」という一文を加え、ファラにサインしてもらった。

まともに計算すらできない人間を、なぜ、重要な地位にとどめておくのか、疑問に思う人もいるかもしれない。しかし、治安悪化で、工場長自らが工場に行けないという状況で、ファラに求められる最も重要な資質は「誠実さ」だ。ファラは、確かに、小さな過ちは犯すが、少なくとも、彼は自分の過ちを認めることができる。だから、私は、彼の言っていることが信頼できるし、3度犯した過ちも、過ちの度合いは小さくなっている。その部分は、毎回、褒めるように心がけ、「君がいてくれるおかげで、ライフラインの活動を続けることができるのだよ」と伝えている。

ダダーブに来て2年半になるが、私が心から信頼できるのは、モウリドとファラの2人だけだ。援助提供者と受益者の間には、様々な利害関係が発生し、信頼関係を作るのは、とても難しい。でも、難しいからこそ、得られた時の達成感は大きいものがある。果たして、次の財務ノートは完璧に記録されているのだろうか。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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