難民支援と家庭の両立

難民支援に従事する者にとっての大きな課題は、家庭を維持すること。ダダーブを含め、現場の大半は治安が悪く、家族同伴が許されていない。配偶者や子供をナイロビなどの近くの都市に住まわせ、6−8週間に一度、家族同伴ができない現場のみ与えられる1週間の特別休暇で、家族との時間を楽しむ。

しかし、それは、無論、家族がいれば、の話。ダダーブにいる外国人スタッフの多くは独身者か離婚者。昨夜も、他の団体で働くカナダ人がピザを作り、アメリカ、ドイツ、イタリア、オーストラリア、ニュージーランド、フランスなどの出身の友人たち10人ほどで食べたが、平均年齢35−40歳で、既婚者は、私を含め4人。

私の場合、ナイロビで妻が働き、私が出張で毎月10日間はナイロビに行かなくてはならない(いや、行く様に「出張理由」を作っている)ので、他の同僚たちと比べたら、かなり恵まれている。しかし、6月末から、妻が昨年独立した南スーダンへの緊急援助隊員として送り込まれ、2ヶ月間、離れ離れになった。毎日、電話で話す様にはしているが、長距離になると、喧嘩の頻度が増え、改めて、難民と家族支援の両立の難しさを思い知らされた。

例えば、普段なら、聞き流すようなことでも、腹が立ってしまう。妻が、男友達とインターネットでチャットをし、その男友達が妻に「君は、夫にこれまでずっと『誠実』でいてきたのか?」(要するに『浮気はしたことあるか?』)と尋ねたという。その男友達は既婚者で、長い間、難民支援の現場で働いてきたから、「もう、この業界から足を洗って、家族と一緒にいたい」とこぼした後、そういう質問を妻に投げかけたという。

私は、その友達と面識もないから、色々、想像を膨らませてしまい、「彼がそんなことを聞くと言うことは、お前に気があるのではないか?」と妻に尋問。妻は、「自分の悩みを打ち明ける延長で尋ねてきたことだから」と擁護。妻が、彼を擁護することが、私をさらに腹立たしくさせ、勝ち負けモードの不毛な議論となり、最後は、妻が「もう電話を切る」と会話を打ち切った。

毎日、電話をするのも容易ではない。私がナイロビに出張する時は、妻がいない家に1人でいると、捨てられた気分になるから、できるだけ友人宅にお邪魔させてもらっている。ある日、妻から電話がかかってきた時は、友人3人と、「スクラブル」という英単語を使うボードゲームに没頭中で、集中力が勝負のゲームだから、負けず嫌いの私は「ごめん、今、電話、無理」とこちらから切った。

そして、その2日後も、運悪く、同じ友人宅で、同じボードゲームで、ほぼ同じメンバーと熱戦中で、話すことができなかった。

さらに、その次の日は、トランプのポーカー好きな別の友人宅にお邪魔し、7人でテーブルを囲んで、ポーカートーナメントに参加中で、携帯電話を車に置き忘れて、妻からの電話に出ることができなかった。

そして、次の日、私がダダーブに戻り、やっと時間ができたと思ったら、今度は、電話とインターネット回線が悪く、思い通りの会話ができなかった。お互い、苛々が募り、妻は「4日間で、3回も電話に出れないなんて、どういうこと?」と怒り、私は、「あなたが南スーダンに行かなかったら、こんな問題は起きていない。家に1人でいて、何をしろというのか?」と怒り、再び、勝ち負けモードの不毛な議論に。

ダダーブの生活環境は厳しい。気温は40度を超え、原則、周囲3キロの国連敷地外に出ることができない。体調を壊して、祖国に戻ってしまう人もたまにいる。しかし、妻がいる南スーダン北部は、さらにひどい。雨期で道路が遮断され、野菜などの物資が運送できなくなるため、毎日、ヤギ肉と米しか食べれない。今年だけで10万人以上の難民が流入し、援助機関スタッフの住居も整っておらず、妻は八畳一間のプレハブ小屋を3人で共有している。先週は、熱を出して、2—3日、横になっていた。

そんな環境で働いていると、「不毛な議論」が「不毛」だと気付くのさえ難しくなる。が、そこが妻の凄いところ。「昨日は、ごめんね。こちらでの仕事が色々大変で、苛立っていたの」と私より、一歩先に、議論の不毛さに気付くのだ。

難民と家族支援の両立。そばにいる家族1人幸せにできない人間が、難民を支援できるとは、到底思えない。これは、私たち夫婦にとっての永遠のテーマになるだろう。
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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