腹心との衝突 その1


これまで、このブログに何度も登場し、大活躍してきたモウリド。従業員とトラブルを起こさない。お金の管理をしっかりする。外部からの訪問者がいたら、工場を案内し、ライフラインについてわかりやすく説明する。従業員との接し方について、私に色々アドバイスをする。治安悪化で、私が工場に行けない中、モウリドの様に、心の底から信頼できる存在というのは、とてつもなく大きな意味があった。

私にとっては、モウリドとの関係は、単なる部下と上司の枠を超えていた。援助機関に頼らない、難民自身による将来的なキャンプの自治運営を目指す同志として、休暇が重なれば、ナイロビで一緒にボウリングにも行ったし、治安が悪くなる前は、モウリドが私を彼の自宅に招き、ソマリア料理を御馳走になったりもした。ラクダ肉、野菜スープ、バナナを辛い調味料と一緒にご飯の上に載せたもので、これまでダダーブで食べた料理の中で一番美味しかった。
しかし、部下が親友の場合、組織の運営に支障をきたすこともある。親友の間で発生する「馴れ合い感」が、本来、上司が部下に指導すべきこと事柄を、「まあ、別にいいか」と曖昧にさせてしまうのだ。しかも、それが、日本人とソマリア人の間でできる「馴れ合い感」なのだから、一味も二味も違う。

ケニアでは、ミーティングに行ってみると、約束した相手が、別のミーティングに出席している場合がよくある。今日、ある援助機関の現地代表が一斉メールであるイベントの通知を流したのだが、肝心の時間と場所が通知から抜け落ち、英語の文法ミスが数多くみられた。

ケニアの大学を卒業し、援助機関の幹部でこれなのだから、高等学校を卒業しただけのモウリドに、日本レベルの勤務態度を期待することは、あまりにも酷なのだ。

私は、モウリドが、しっかり従業員の仕事ぶりをチェックできるよう、「工場で日々やるべき事柄リスト」を作り、2人でミーティングをし、今後の計画を話し合った時は、必ずメールで、概要を書き、「忘れました」と言われないよう、試みた。

しかし、何ヶ月経っても、「やるべき事柄リスト」に書かれてあることが、円滑に遂行されない。遂行されない度に、「これができていませんでした」と口頭で言い、さらにメールで伝えても、遂行されない。

例えば、毎月、モウリドには従業員の生い立ちをインタビューし、記事を2本作ってもらうことになっているのだが、昨年11月にライフラインに入って今年4月まで、一本も提出してこなかった。しかし、モウリド以外に、工場運営を任す事ができる存在がいない以上、少しくらいの怠慢は大目に見るようにしてきた。

次に、出勤簿。モウリドは、主任が出勤簿を正確に記しているかどうか、チェックする業務を与えられているのだが、真剣にチェックしている形跡がないのだ。 各従業員が、毎月、有給休暇や病気休暇を何日取得し、次の月に、休暇が何日取得できる権利があるかリストに記入するのだが、毎回の様に計算ミスがある。毎月の様に、「ちゃんとチェックしているのですか?」と尋ね、「これからちゃんとします」と返事をするのだが、次の月にチェックしても、同じ過ちが繰り返されている。

にも、かかわらず、「私がダダーブを去る時、あなたが、私の代わりに工場長になれると思う?」と尋ねると、「はい!」という、根拠のない自信を見せつける。私は、一体、どうすれば、モウリドの勤務態度を改めることができるのか、考え続けた。親友関係を壊したくない。壊れれば、工場運営も難しくなる。でも、部下が簡単に改善できることは、改善してほしいし、それが私の任務だ。
 
 8月1日、私は、メールで「あなたは、すでに、アシスタントとしてはとても優秀です。しかし、将来、工場長になりたいのなら、細かいところまで指導できるようにならないといけません。女性従業員が、病気休暇を取得したら、しっかり、次の月の休暇リストに正確に反映させなければなりません」などと、2、3点の注意事項を綴り、モウリドは「わかりました」と返答した。

しかし、8月20日、再び、いくつかの問題点が繰り返された。

1.従業員1人を午前8時半に国連事務所に来るよう、モウリドに伝え、国連事務所に行くと、従業員の姿が見えない。モウリドに電話をすると、「今から行かせます」という。工場から国連事務所までは徒歩20分。「なぜ、工場をもっと早くに出発させなかったのか?」とモウリドに尋ねると、「工場長が来るかどうか、定かでなかった」という。

2.七輪の説明会指導担当として、新しく雇った従業員7人に、指導の仕方を指導するようモウリドに指示。工場に午前11時に行ってみると、「皆、完璧にこなせるようになったので、家に帰しました」と言う。就業時間は午前5時まで。たまたま、まだ居残っていた1人の従業員に説明会の模擬指導をやってもらったが、マニュアル通りではなく、「完璧」とはほど遠かった。モウリドに、「これが、あなたにとって『完璧』なのか?」と尋ねると、「いいえ」という返事。「じゃあ、なぜ、こんな早い時間に帰宅させたのか?」と尋ねても、無返答。

3.病気休暇は年8日しか与えられておらず、8日以上取得する場合、病院からの診断書がなければならない。しかし、8月の出勤簿には4人の従業員が、病気休暇をすべて消化したにもかかわらず、診断書提出なしに、病気休暇を取っていた。

4.七輪配布後、七輪が実際にしっかり使われているか従業員が調査に行くのだが、毎回、その調査報告書の提出を求めているのだが、8月分の調査報告書が、工場になかった。

書類作成や整理、従業員の指導など、細かい部分でボロが出続ける。残念ながら、このままでは、モウリドを次期工場長として推薦することはできない。
しかも、3と4については、数ヶ月前から、何度も何度も、「出勤簿と従業員の休暇取得表を照らし合わせる」「調査報告書は日付順にまとめて管理する」と繰り返しメールと口頭で指摘し続けてきて、これなのだ。
私は、仕方なく、モウリドに、再びメールを書く事にした。

「細かくてすいませんが、いくつか、あなたが将来の工場長になるために、必要だと思う事を指摘させてください。これまでの私との付き合いで、私が細かい点を指摘する理由については分かっていただいていると信じています。私が気付いた問題点について指摘させて下さい。私は、いつ、ダダーブを去ることになるかわからない。だから、残された時間の中で、あなたを立派な工場長にするために、自分なりに貢献したいのです。」と、彼の誇りを傷つけないよう長い前置きを書いた上で、上記にある点を、「8時半に従業員を事務所に行かせるように指示したのに、実行しなかった」などと簡潔に記した。

そしたら、その日の夜、モウリドから返信が来た。

「アドバイスをありがとうございます。しかし、私が工場長の厳しい要求を満たすためにベストを尽くしているということを理解していただきたいと思います。小さな過ちを大目に見ようとしない工場長の指導方法は、私を圧迫し、さらなる業務の支障になりかねません!それにより、工場長の指導が、さらにきめ細かくなり、私の人材育成のためという当初の目標を達成することが難しくなるのではないでしょうか。これは、私たちの関係だけでなく、工場長と他の従業員との関係についての、私の気持ちです。

いつも、私の業務について褒めていただいていることには、感謝しています。先週は、本部から出張が来ていて多忙な上、ラマダン(断食の月)で、体力が落ちていました。それでも、何とか、与えられた任務を遂行しました。それにより、今週、やるべき任務を果たすことができなかったのです。だからといって、適切に任務を遂行できなかったことについて言い訳をするつもりはありません。ただ、とても、私がとても困難な状況にいたということをお伝えしたかったのです」

「!」マークが文面に使用されていることから、かなり感情的になっている。私は、これ以上メールでやり取りすることは得策でないと判断し、2人きりで話し合うため、工場へ向かった。これまで抱いてきた腹心との「モヤモヤ」を話し合うことで、すべて解消したかった。
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唖然

全然、工場任せられる要素ないよ。
貴方が、いてる時だけ頑張ってるし。
頑張りを評価するのは、本人ではなく、回りの人間。
貴方が、居なくなったとき、ボロボロに崩れていくでしょう。緊張感無くなるからね。
ラマダンを言い訳にするのも嫌です。私も、普通に外回りで、仕事してたし、去年まで!ラマダン行いながら!

精神的に弱い、と思っちゃう。男子やのに。。。。情けなー。

本音です。
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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