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腹心との衝突 その2

工場から少し離れた、別の団体の部屋で、2人きりになって話し合うことにした。一度、他の従業員がいる前で、モウリドと話し合いをした時、いつもの様に、私の声のトーンが上がり、「他の従業員の前で、声を上げるのはやめてもらえませんか?」とモウリドに指摘された経験を活かし、真剣な話は、必ず、2人だけで話せる環境にした。(当たり前といえば、当たり前か、、、)

私: 今回のメールについてだけど、改めて、モウリドの気持ちを聞かせてくれないか?

モ: 工場長が、私の過ちを指摘しなければいけないというのはわかります。しかし、私たちは、とても、困難な状況で働いています。日々の様々な困難を乗り越えるために、自分たちのベストを尽くしているのに、ああやって、細かい点を一つ一つ指摘されると、正直、辛いです。

私: これまで、モウリドは、私の「言い方」について改善を求めてきましたね。だから、メールの書き方も、話し方も、極力、和やかにしているつもりです。今回の件は、私の「書き方」が問題だったのでしょうか?それとも、過ちを指摘すること自体が、問題だったのでしょうか?

モ: これまで、私たちが働いてきた10ヶ月を総括して、私の想いを伝えたつもりです。

私: でも、10ヶ月前と今では、私の話し方、書き方、伝え方は改善されていませんか?あなたの仕事ぶりも、10ヶ月前とは、見違えるほどになった。

モ: はい。

私: だったら、過去をさかのぼるのではなく、今、現在、私たちのコミュニケーションにどんな問題があるのかについて、話し合った方がいいのではないだろうか。もし、あなたが、私だったら、今回の件については、何も言わないという処置を取るのか、それとも、伝え方を変えるのか。

モ: そうですね。私は、別に病気休暇を無限に従業員たちに与えているわけではないのです。ただ、先週、忙しかったから、チェックできなかっただけです。だから、伝えるタイミングでしょうかね。

私: 出勤簿をチェックするのは、そんなに時間を必要とすることなのかな?

モ: いえ。

私: 最後にチェクしたのはいつ?

モ: おとといです。

私: その時に、病気休暇が与えられた日数以上に取得されていることに気付かなかった?

モ: 気付いたけど、後で、言えばいいと思っていました。

私: できたら、気付いた時に言ってほしいね。それに、本来は副主任がやるべき仕事なのに、彼は、全く気付いていなかったようだね。(主任は他の援助機関との二股行為で解雇されたため、空席になっていた)

モ: はい。

私: この数ヶ月間、ずっと、出勤簿のチェック指導をお願いしてきたのに、なぜ、未だに、副主任が理解できていないのだろう。

モ:、、。

私: 七輪の説明会指導を担当する従業員を11時に帰宅させたことについては?

モ: それについては、自分たちで勉強すべきであって、彼らがマニュアル通りにできないからといって、私が非難されるべきではないとい思いました。それに、彼らも、なぜ、こんなたくさん指導を受けなくてはならないのか、理解できていない様子でした。工場長の前で模擬試験をすれば、細かい過ちを指摘され、試験を通らなければ、解雇されると恐れる従業員までいるくらいです。

私: もし、従業員が、そういう考えを抱いているなら、私たちライフラインが、どういう考えで、模擬試験をやっているのか、説明してあげてくれませんか?試験は、彼らの尊厳を根こそぎ奪うためのものではない。七輪の使い方が周知されなければ、七輪を配る意味はなくなる。そうなれば、森林伐採は歯止めがかからず、結局、そのツケは、あなたたちソマリア人に回ってくるのです。私は、それを何としても防ぎたいから、七輪の説明会が、しっかり実地されるよう、従業員たちに模擬試験を課している。

モ: わかりました。

私: 今回のモウリドからのメールをもらって、改めて、今の仕事の難しさを知りました。確かに、私には、あなたたちが乗り越えなければならない日々の困難について、知ることはできない。私は、国連の敷地で、セキュリティーガードに囲まれて暮らし、あなたたちは、完全無防備状態で、いつ、武装集団に襲われてもおかしくない状況で暮らしている。それだけでも、かなりの差があるのに、私とあなたたちとの生い立ちなんて、比べるまでもありません。
 
だから、指導する私も辛い。あなたたちが、とても苦しい体験を乗り越えてきたということを知っているから。できることなら、あなたたちの過ちをすべて見逃してあげたい。でも、果たして、それが、将来的にみて、ベストなのかどうか。私は、工場長として、どんな些細な事でも、過ちは指摘しなければならない。そうしなければ、いつまでたっても、「難民=助けられる存在」というイメージでみられてしまう。伝えるのはとても辛い。でも、伝えなきゃいけない。ジレンマですね。

モ: そうですね。ジレンマですね。以前、私が働いていた機関では、上司と対立することなんてありませんでした。就業時間なんてあってないようなもので、9時に来ようが、10時に来ようが、何も言われない。その日与えられた任務が終われば、11時でも帰ることができた。任務が全くない日もありました。上司がいないことも多く、彼の関心は、プロジェクトを無事終了させることだけでした。

私:つまり、彼がライフラインにいたら、七輪が難民に配布されさえすれば、それでいい。従業員が、どう働こうが、知った事ではない、ということですね。

モ:はい。従業員の勤務態度だけでなく、七輪が、キャンプでどういうインパクトを与えているのか。難民がしっかり七輪を使っているのかも、あまり気にしないでしょう。

私:どちらの上司がいいですか?私みたいなのか、彼みたいなのか?

モ:、、、。なぜ、そんなこと聞くのですか?

私:とても、重要な質問だと思います。

モ:あまりに厳しい上司の下で、働くのを好む人はあまりいないと思います。

私:もし、君が、私に前の上司みたいになってほしいなら、簡単なことだよ。仕事をさぼればいいだけの話だからね。とても簡単だ。アメリカの本部だって、そこまできめ細かに、チェックはしないだろうからね。

モ:そうですね。今のライフラインのやっている業務を考えるなら、工場長の様な、上司じゃないと、難しいかもしれませんね。

結局、お互い、感情的にはならず、話し合いは友好的に終わった。

「難民」を指導、監督する難しさを肌で感じる。紛争や飢饉で祖国を追われ、難民キャンプに閉じ込められた生活を10年、20年と余儀なくされた人たちは、その困難を乗り切って生活を送っているということ自体を、誇りに思っている。実際、彼らは私の想像を絶する世界を生き延びてきたのであり、日本という先進国の一市民として生まれてきた私より、何倍も強い魂を持ち合わせている。

遅刻や無断欠勤すれば、減給。上司の指示に従わなければ、口頭注意。自分が、彼らの人材育成のためにやっていると思っても、やり方を間違えれば、彼らのその「誇り」を傷つけかねない。「恵まれた暮らしをしているあなたに、何がわかるのか?」と気分を逆撫でするかもしれない。

その気持ち自体は、痛いほど分かる。私は15歳で米国に留学し、言葉が通じないから、同級生から馬鹿にされることもあった。その度、「言葉が通じない環境に放り込まれる辛さをあなたたちはわかるのか?」といつも感じていた。

それでも、私は、工場長としての任務を果たさなければならない。米国留学先の高校では、言葉がわからない留学生に対し、どんなにテストの点数が悪くても、「C」以上の評価を与えるという、特例制度があった。そのおかげで、私は、授業を真剣に受ける動機を失い、無駄な1年を過ごすことになった。

だから、「難民」だからといって、特別扱いをしたくない。20年以上、援助物資が与え続けられてきたキャンプなら、なおさらだ。彼らの「誇り」に最大限の敬意を払いつつ、任務に徹する。それが、今、私にできることだと思う。

そんなことを考えつつ、次の日、モウリドに電話をしたら、電話が通じない。充電中なのかと思い、数時間後に電話をしても、「電源が入っていません」と音声案内が流れる。ファラに電話をしたら、「モウリドは、今日、工場に姿を見せなかったようです」と言う。次の日も、モウリドは工場に姿を見せず、モウリドの友人に電話をしても、「わからない」という返答だった。まさか、前日のやりとりで、仕事を辞めたのだろうか?いや、そんなことはない。

じゃあ、なぜ、突然、姿を消したのだろうか?私は、モウリドの安否を心配し始めた。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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