腹心との対立 その3

モウリドの消息がわからなくなってから4日目、ファラの電話から、メッセージが届いた。「モウリドです。家庭内で問題が起きまして、仕事を休まなければなりませんでした。すいません。携帯電話が壊れて、連絡することができませんでした」

私は、とりあえず「無事で良かった」と返事を出した。「家庭内の問題」とは、どれほど深刻なものだのだろうか?電話一本かけることができないほどの状況だったのだろうか?色々な疑問が頭を駆け巡ったが、とりあえず、会った時に、事情を聞く事にした。

9月1日、またしても、モウリドは、毎月提出を求められているレポート 2本を提出できなかった。私は、モウリドに電話をし、「8月分のレポートが送られてきていないけど?」と尋ねると、「色々、忙しくて。1週間以内に送らせていただきます」と言う。私は、電話で小言を言いたくなかったため、「工場でゆっくり話しましょう」と伝えた。

突然、姿を消したと思ったら、今度は、レポート提出期限を守らない。ここまで話して、理解してもらえないなら、もう、最終手段をとるしかない。

9月3日、月例の全体ミーティング終了後、モウリドと2人きりになった。病気休暇を取得した従業員の診断書、休暇取得リスト、すべて、完璧に整理、記録されていた。「よく、やったね」としっかり、褒めれるところは、褒めちぎる。

その後、本題に入る。

私:君の8月分の給料についてだけど、先月、あなたは、就業規則を2度破りました。それについて、事情を聞いた上で、給料を支払わせてもらいます。(モウリドとの契約書には、「定められた業務を遂行しない場合、給料が差し引かれる場合がある」と記されている)

モ:なにでしょうか?

私:(モウリドの契約書を取り出し)ここを読んでください。就業規則12条。(特別な理由、または上司への報告なしに、欠勤することを禁ずる条項)

モ:、、、、。

私:先週、あなたは、私に報告することなく、仕事を欠勤し、4日間、音信不通になった。「家庭内の問題」というのは、どんな問題なのですか?

モ:兄の精神状態が悪く、家族に暴力に振るい、警察に届け出たのです。兄は、昔から麻薬に手を出し、最近は、マリファナを日常的に吸っていました。頻繁に暴力を振るうので、もう、私たちの手に終えない状態でした。

私:それは、大変でしたね。しかし、電話の一本もかけることができなかったのでしょうか?

モ:電話が壊れたのです。

私:この10ヶ月間、私たちは、従業員たちに、何と指示してきましたか?電話がない場合にそなえて、必ず、上司の電話番号をメモしておき、友人や家族の電話から、業務連絡をできるようにしておく、と指示してきたのではないですか?それを指示してきたあなたが、「電話が壊れたから、業務連絡ができなかった」という言い訳をするのですか?

モ:私は、家族を助けることで精一杯でした。規則違反をした事に関しては、悪いと思っています。それについて、罰則を受けることに、私は、何の不満もありません。

私:わかりました。さらに、もう一つあります。ここを読んでください。毎月、最低2本、従業員の生い立ちいついてレポートすることが義務づけられていますね。8月分はどうしたのでしょう?

モ:もともと、工場長は、8月分は、従業員の生い立ちではなく、七輪を受け取った難民の中で、特に、生活が向上した人にスポットを当てて、レポートするように指示しました。だから、その人を探すのに時間がかかったのです。

私:確かに。しかし、私は8月20日の時点で、「もし、適当な難民を見つけるのが難しいなら、通常通り、従業員の生い立ちでも良いとメールし、あなたは、それに『オーケー』と返事をしました。

モ:8月はラマダンで、しかも、本部からの出張もあり、その準備で忙しかった。月末は、新しい従業員への研修で、毎日時間が割かれました。

私:でも、8月27日と31日は、七輪が使われているかどうかの調査に行っていますよね?

モ:そうです。七輪を受け取って生活が向上した人を探していたのです。

私:でも、8月27日は、レポート提出締め切りの4日前です。そんな時に、探せるかどうかもわからない難民にスポットを当てるリスクを取るより、従業員の生い立ちをインタビューした方が、良かったのではないでしょうか?


モ:私は、コンピュータじゃない。人間なのです。人間だから、誰だった過ちは犯すし、忘れることだってあります。

私:だから、忘れない様に、私は、あなたにメールで「やるべきこと事項」を書いて出した。もし、その時点で、達成することが難しいなら、「すいません。今月は難しいです」と一言、返答することができなかったのか。

モ:その時点では、できるかもしれないと思ったのです。

私:じゃあ、8月31日は。その日が、提出締め切り期限ということはわかっていたはずです。なぜ、その日に、一言「すいません。期限内に提出することができません」と私に電話することができなかったのですか?あなたは、将来、ジャーナリストになりたいとい言っている。ジャーナリストが、原稿の締め切りを守れない時、編集者に詫びの一言を入れるのが筋ではないですか?‘

モ:ジャーナリストは、書くだけが仕事です。私は、それ以外にたくさんの任務を負わされている。工場長が私に託す任務は、私の能力では、遂行できないのです。

私:電話を一本いれる能力が、あなたにはないのですか?

モ:もう、疲れました。(イスラムの礼拝の時間である午後1時を過ぎていた)私の給料を差し引くなら、それで構いません。私は、あなたからの罰則を受け入れる心の準備はできています。

私:私だって、疲れている。私だって、こんなこと、言いたくて言っているのではない。いま、私がどれだけ、自分の気持ちを抑えて言おうと努力しているのか、理解してほしい。

モ:わかりました。私は、工場長が定めた給料を受け入れます。

私:8月分の給料から3000シリング(3000円)差し引きます。

モ:結構です。

私:領収書を準備するので、お祈りに行ってください。(すでに1時20分になっていた)。あなたのお祈りの時間を邪魔する事になって、すいませんでした。

約10分後、モウリドがお祈りから戻ってきた。「そういえば、レンガ作りに使う型のサンプルが届きました」と型を見せ、給料を差し引かれた事を、引きずることはなかった。

その後、モウリドの運転で、私はダダーブに戻った。車中、できるだけ、沈黙にならないよう、最近会った友達の話などで、時間を費やした。お互い、若干のぎこちなさを感じながらも、平静を装うとしていた。5キロ離れたダダーブに着くと、私は、「昼ご飯でもしよう」とモウリドを誘い、一緒に、ラクダ肉、ほうれん草、豆とご飯を食べた。ダダーブには、十数件のレストランがあるが、どこも、メニューは似たり寄ったり。「ダダーブで1年、2年と働いても、国連敷地外のこういったレストランで食べた事のない援助機関の従業員についてどう思う?」などと、たわいもない会話に終始した。

私は、レストラン近くの八百屋で野菜を買うため、モウリドに「もう、ここで、帰ってもらっていいですよ。ここからは歩けるので」と握手を交わした。モウリドには、いつもの、はじけた笑顔がなかった。

八百屋でピーマン、タマネギ、ジャガイモなどを選んでいると、突如の腹痛に襲われた。国連敷地外のレストランで食べると、1—2割の確率で襲われる腹痛だ。今回のは、いつものより激しく、前のめりになるほどの痛みだった。店員の男性に「トイレ、トイレ、、」と言い、隣の店の棚からトイレットペーパーを手に取り(「支払いは後で!」と言いながら)、店員が連れて行く方に必死に足を運び、何とか、用をたすことができた。2年半になっても、まだ、免疫がつかない。情けないなあ。ここで10年、20年生活している人たちへの敬意の気持ちが、また、一層強くなった。
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(^-^)/

最もな、最善の対処方法だったと思います。
ジャーナリストのしごとは、書くことだけではないと思います。
書くまでに、たくさんの準備、リサーチが必要だし。だから、彼にとって、今は修行の場になっており、何年か先に、今の経験に、感謝する時が来ますよ。

お腹、大丈夫ですか?
薬持ち歩いてますか?
お大事に!

No title

いつも、ありがとうございます。お腹は、一度トイレに行けば、治るたちなので、心配ご無用。おかげさまで、今のところ、彼との関係は順調にいっています。
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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