堪忍袋の緒が切れる

他の援助機関で働いていたことが発覚し、解雇された前主任のアデン(仮名)(8月17日付けブログ参照)。解雇されたのが8月8日だったため、「8月に7日分働いた給料をください」とモウリドにお願いしてきた。私を騙したあげく、7日分働いた給料を要求する図々しさには、心底、辟易させられる。私は、モウリドに「一度、彼と直接会って話したい」と伝えた。

9月5日、工場で会う約束をした。ところが、アデンはモウリドに電話で「今日は忙しくて工場には行けない。お金を代わりにもらってくれないか?」と頼んできた。私は、モウリドに、「私と直接会うまでは、お金は払えない」と伝えた。そしたら、モウリドは、私に電話を差し出し、アデンと直接、話すよう促した。

ア:ヨーコー。アデンです。元気ですか?8月分の給料をもらいたいのだけど。

私:とりあえず、会って話をしましょう。

ア:でも、今日はちょっと忙しいのです。今、どうしてもお金が必要なのです。モウリドに渡してくれませんか?

私:いや。君と直接話すまでは、お金は出せない。

ア:でも、あなたと会う時間はいつ作れるかわからない。

私:それでは、明日午後にダダーブに来てください。

ア:交通費がありません。

私:じゃあ、次に私が工場に来る時に連絡します。

ア:わかりました。

そこで電話を切ると、数分後、「10分後にそちらに伺います」と電話が来た。

明らかに、私と直接対面することを避けようとしている。でも、私は、彼が私を騙した事に対し、どんな説明をするのか、どうしても、聞きたかった。

アデンは、笑顔で工場に入ってきた。他の従業員に「サラマレークン」(ソマリア語の元気)と大きな声で挨拶し、私にも握手を求めてきた。私とモウリドと3人で、工場の外に行き、椅子に腰をかけて、私が単刀直入に切り出した。

私:あなたは、別の援助機関で働いているのですか?

ア:いいえ。

私:でも、私が、ある援助機関に行って、現地代表にあなたの写真を見せたら、間違いなく、その機関の職員だと言っていましたが。

ア:働いていません。

アデンは、私の目をまっすぐに睨みつけていた。彼の鋭い声のトーンから、私の前で屈する気は毛頭ないということが伺え、好戦的な表情は、礼儀正しくライフラインの主任として働いていた、私の知っているアデンのものではなかった。私が、この後に及んで、あからさまな嘘をつくアデンに唖然としていると「なぜ、そんな驚いた表情をしているのですか?」と、さらに挑発的な視線を私に向けてきた。

私:それでは、もう一度、その機関の人事部に行って、確認してみますね。

ア:そんなことしてどうするのですか?私は、ここにお金をもらいに来たのです。そんな話をするためにきたのではない。

私:あなたは、私との面接で、他の援助機関では働いていないと言った。だから、私は、あなたに騙されたという思いがある。それについての、あなたの想いを聞きたかっただけです。

ア:そんなことをあなたがする必要はない。私とあなたには、何の雇用契約も存在していない。あなたは、私に相談する前に、私を解雇した。そして、あなたは、今、そんな質問を私にしている。とても不愉快です。

私が、どんなに和やかなトーンで話そうが、アデンの挑発的な態度は一向に軟化する様子がなかった。

私: 私が、何をするべきかどうか、あなたから言われる筋合いがあるのでしょうか?あなたは、私の上司なのですか? 私もあなたも同じ人間です。騙されたら、誰だって、良い思いはしない。だから、それについて説明を求めるのは、自然なことです。

ア:人間?あなたは、私を人間として扱わなかった。あなたは、私に何の相談もなく解雇したのです。それなのに、あなたは、今、私たちが人間だと言っている。

本当に、これが私の知っているアデンなのか、と問いかけたくなるくらいの変容ぶりだった。私の知っているアデンは、通訳を辛抱強くやり、「謝礼は要りません。また、何か必要なことがあったら言ってください」と言い、ミーティングでは積極的に発言し、真面目に人の言うことに耳を傾ける人間だった。そのアデンが、今は、嘘を平気で付き、自分の主張を通すためなら、他の人の気分を害しても構わない人間になってしまった。一瞬にして、人間とはここまで変わってしまうということに、私は、ショックを隠す事ができなかった。

ア:なぜ、そんな驚いた表情をしているのですか?

私:驚いていません。ただ、悲しいだけです。私はあなたを信頼していました。あなたはとても礼儀正しい人間で、仕事に真面目に取り組む人だった。それが、、

ア:今もそうです。

私:私の話を最後まで聞いてくれませんか?

ア:、、、。

私:私とあなたは、同じ組織で働いた、元同僚です。一度は信頼した同僚に裏切られたら、その信頼を取り戻すために、事情を聞きたいという私の気持ちを理解してほしい。そして、あなたが、もし、そうやって嘘を突き通し、人を騙すということに、何の罪悪感もないのなら、あなたのコミュニティーに将来はない。

ア:一つだけ言わせてください。私の「将来」はあなたが決めるものではない。唯一神だけが決められる。

私は、お金を取り出し、彼に差し出した。彼からサインをもらい、彼の豹変した表情を見つめ続けていると、再び、「なぜ、そんな驚いているのですか?」と尋ねてきた。ここで、私の堪忍袋の緒は切れた。

私は「あなたの顔が世界で一番醜く見えるから、つい、見続けてしまいました」と答えた。

アデンは、「私の表情が何だって?」

私:『醜い』と言いました。

ア:あなたの顔の方が醜いですよ。

私:そうですか。それでは、醜い顔同士、もう、見合うことはなさそうですね。

ア:、、、。

私:それでは、もう、行ってください。

ア:感謝の言葉もないのですね。

私:ここから出て行けー!!

ア:私が、出て行かなかったら、どうしますか?

私:そうですか。それでは、ここに、気が収まるまでいてください。

私がそう言うと、アデンは、そのまま出て行った。私は、人の顔を見る事が、ここまで苦痛なことだとは知らなかった。誰かに対し、ここまで嫌悪感を抱いたことが、これまであっただろうか?私は、しばし、呆然とし、モウリドに「なんだ、あれは?」と尋ねた。

モウリドは、「自分の過ちを認めることができませんでしたね」とだけ答えた。

私は「彼が私に謝罪して、握手して別れることができると信じていたのだけど、それは、あまりに期待が大きすぎたのかな?」と尋ねると、モウリドは何も答えなかった。

ダダーブを去りたい衝動にかられた。もう、人を信用するのが怖くなった。こんな裏切られ方されてまで、仕事を続けたいなんて思えない。アデンは、今頃、友人らと集まって、「あの日本人はこんな驚いた表情してやがったぜ!」なんて言いながら、笑いのネタにでもしているのだろうか。自分が情けなく、悔しかった。一体、何が彼をここまで追いつめているのだろう。援助機関に対する不信感か。内部の者に密告された事に対する悔しさか。

ダダーブに戻った後、ファラに報告し、「人間不信に陥った」とこぼすと、「人は人です。皆が皆、一緒ではありませんから」という彼の一言で、少し、気が楽になった。

ここで、私は、この事を密告してきた人物のことが心配になった。アデンが私に対して、あそこまで攻撃的になるということは、おそらく、密告者探しにもかなり力を入れ、もし、見つけた場合、かなりの制裁が加えられるはずだ。このことを私に報告しうる人間なんて、そんなたくさんはいない。

私は、その人物に電話をかけた。今日の事を説明し、誰から何も聞かれていないか尋ねると

密:何度も聞かれました。でも、私じゃないと伝えました。見習い期間で、そういう身元チェックをするようになっているから、工場長が独自に入手してきた情報だと伝えました。それでも、私に対する不信感はあるようです。

私は、自分が正しい事をしようとしているツケを、この人物に負わせているような気分になり、心苦しかった。

私が、アデンからいくら嫌われようが、結局、私は外部者だから、生活に大きな支障をきたさない。しかし、この人物は、アデンと同じコミュニティーに住まなくてはならない宿命なのだ。「裏切り者」のレッテルを張られ、居場所をなくした時、私に、その責任は取れるのだろうか?自分が正しいと思っていることを貫く難しさを肌で感じた。
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ひどい

同じ、ムスリムとは、思えない。
ヨーコさん、嫌な思いをしちゃったねー。ポーレ。

その、アデンさんは、罰を受けるでしょう。

アフリカ人って、特に、男子、絶対、
謝らないですね。
くだらないプライドを捨てれないレベルの人が、多いですね。

私も、何度も何度も同じ様な体験しました。だから、凄くわかる。

阿呆な人格は、直りません。
なので、相手にせず一切甘えを見せない態度でいたら良いですよ。

私も、辞めたいって、何度も考えました。
おもいっきり、黒人嫌になりました、その時期は。

ずっーと、死んでしまえ!って心の中で、叫んでましたよ。笑
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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