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難民のオーナーシップとは?

国際協力の現場で「オーナーシップ」という言葉がよく使われる。直訳すると「所有権」という意味だが、ここでは、支援される側の人間が、援助機関に頼らず、プロジェクトを自分たちのものとして「所有」(own)できるように促すこと。「主体性」や「当事者意識」とも訳される。援助機関が去ることで、そのプロジェクトが終わるようでは、結局、その支援に「持続性」がなかったことになる。


それこそ、私が2年半前にダダーブに来てから、ずっと取り組んできたことなのだが、20年間、緊急援助を受けてきた人々にとっては、なかなか難しい概念だ。9月26日、従業員全員を集めた合同ワークショップで、私は「オーナーシップ」について、話した。

私:私が座っているこのプラスチック椅子が壊れて、使い物にならなくなり、これが、皆さんの家の中に横たわっていたら、どうしますか?

従:捨てるか、別の場所に移します。

私:そうですよね。しかし、3ヶ月ほど前、私がこの工場に訪れた時、壊れて使えなくなった椅子が横たわっていました。私は、いつ、皆さんがそれを捨てるのかと期待していたのですが、結局、2ヶ月間、工場内に置かれっぱなしになっていました。もし、皆さんの家の中にあったら捨てるのに、なぜ、工場の中だと、ほったらかしになるのでしょうか?

従:この椅子は、組織に属するもので、私たちのものではないからです。私たちが勝手に捨ててしまったら、問題になりかねない。

私:でも、皆さんが、その椅子を不必要だと思い、それが、工場内に余計なスペースを占領してしまっているのだとしたら、「これを捨てた方がよいのではありませんか?」と尋ねることはできなかったでしょうか?

従:援助機関の所有物に対し、私たちが勝手に何かすることはいけないと思います。

私:私は、これまで、何度も「この工場は皆さんの工場です」と伝えてきました。それは、つまり、この工場を、あなたたちが自分たちの家を管理するように、管理してほしいのです。もし、あなたたちが「この椅子は要らない」と思うなら、援助機関に決断を任せるのではなく、いつでも、私に提案してきほしい。それが、本当の意味で「あなたたちが工場を所有する」ということだと思うのです

皆、頷いてくれた。

私:もう一つだけ、例題を上げさせてください。皆さんが、自分の父親から、ヤギ100匹の放牧を命じられたと仮定しましょう。朝早くに家を出て、一日中ヤギの群れと共に歩き回り、その辺の草を食べさせ、夕方、家に着きました。そしたら、ヤギ1匹がいなくなっていることに気付きます。その場合、あなたは、父親にそのことを伝えますか?それとも、父親がそれに気付くまで、待ちますか?

従:伝えます。

私:なぜ、父親が気付くまで待たないのでしょう?もしかしたら、父親は気付かないかもしれませんよ。

従:早く伝えれば、それだけ、そのヤギを探せるチャンスが増えるからです。まだ、そこまで遠くに行っていない可能性がある。

私:なるほど。それ以外はどうでしょう?もし、あなたが父親で、息子がヤギ1匹なくしたことを、自分から伝えてこなかったらどういう気分になりますか?

従:嫌な気分です。

私:それはなぜでしょう?

従:私が、息子に責任を与え、それを息子が果たせなかったからです。

私:そうですね。父親と息子の間で取り交わされた約束を、息子が破ってしまった。でも、大事な事は、それを、息子が正直に父親に伝えるのか、どうかじゃないでしょうか?もし、息子がそれを自分から伝えてこなかったら、父親は息子に対する信用をなくしませんか?

従:はい。

この瞬間、突然、副主任のアデンが「ちょっと、5分の休憩を入れませんか?」と尋ねてきた。私は、自分が真剣な話をしている時に、邪魔をされ、ひどく気分を害した。「今、私は重要な話をしているのです。できたら、静かに聞いていてほしいのですが?」と話すと、「お互い正直な気持ちを言い合うのが大事です。私は何か悪い事を言ったのでしょうか?」と聞き返してきた。私は「あなただけ休憩を取ってください」と伝えた。彼は、そのまま工場の外へ行った。通訳をしていたファラは、右手で頭を抱え、信じられないという顔付きで、首を横に降っていた。平の従業員ではなく、副主任がこういう行為に出るということに、私は腹が立った。

私は、何とか、気持ちを切り返して、話し始めた。

私:ヤギ1匹を放牧中になくした場合、それを自分たちの父親に報告することは、信頼関係を保つために大事だということでいいでしょうか?

従:はい。

私:それでは、ライフラインの活動に話を戻します。皆さんがサインした就業規則によると、皆さんは、毎朝、何時に工場に来る事になっていますか?

従:8時です。

私:はい。この工場に8時に来るということを、皆さんは私に約束したわけです。それは、あなたが、父親に100匹のヤギを責任を持って放牧するとい約束したことと同等のことです。ヤギを1匹なくした場合、父親に報告するはずの皆さんが、8時出勤という約束を果たせず、8時20分に来る場合、なぜ、私や主任に報告することを怠るのですか?電話もしない。工場に来ても、まるで、何もなかったかのように、業務に取りかかり始める。この違いは何なのでしょう?

従:父親と援助機関を一緒にはできない。ハイエナにヤギ3匹が殺されたら、父親や私を許してくれるだろうけど、援助機関は、許してはくれない。

私:ライフラインは、確かに出勤時間に関して、とても厳格です。それでも、遅刻や欠勤にやむをえない事情がある場合は、見逃してきました。従業員の友人が事件に巻き込まれて病院に運ばれ、その従業員が夜通し付き添った次の日は、特別に帰宅させました。問題は、その父親は、なぜ、ヤギ3匹がハイエナに殺されたという息子の弁明を信じるのでしょう?父親は、その現場を見ていないのに。

従:その父親が現場に行って、ヤギが殺されたのを見れば、大丈夫です。

私:あなたたちの父親は、実際、わざわざ見に行くのですか?

従:いえ。それは、父親と息子の関係次第です。息子が、それまでに一度も嘘をつかず、忠実に仕事に徹していれば、父親はそれを信じるでしょう。逆に、息子が、何度もハイエナに殺されたと言えば、見に行くかもしれません。

私:ありがとうございます。今、あなたは、今日の議論の核心を付きました。信頼関係というのは、普段のコミュニケーションから構築されます。遅刻するのに、連絡一つもせず、工場に来ても、何も報告をしないようでは、信頼関係は作られず、もし、やむをえない事情で欠勤したとしても、上司がそれを信頼することは難しくなります。だから、皆さんには、あなたの父親と信頼関係を作るように、私との信頼関係を作れるようにしてほしいのです。それが、皆さんにとっての「オーナーシップ」につながります。これは、皆さんの工場です。皆さんに所有してもらいたい。私たち外国人が、いつまでも、皆さんを管理、指導する必要は全くない。

従:私たちは、自分たちなりに工場を「所有」しようとしてきました。レンガを焼く窯が壊れた時は、自分たちで直しました。

私:はい。この1年で皆さんはとても努力してくれました。心から感謝しています。今回、私は、これから皆さんが工場を「所有」するということがどういうことなのか、話し合うために二つの例題を出しただけで、皆さんを批判するという意図は全くありませんでした。そもそも、私たち援助機関は、この20年、皆さんにどれだけ決定権を与えてきたのでしょう?あなたたちの能力を向上させ、あなたたちの意見をキャンプの運営にどれだけ反映させてきたのでしょう?皆さんが、工場の運営について決定権を持たないと思ってしまうのは、仕方のないことです。それについては、完全に私たちの責任です。しかし、もし、これから何かを変えていくとするなら、それは、援助機関と難民、双方から変わっていくしかないと思います。だから、私は、皆さんの潜在能力がキャンプ運営に最大限いかされるよう、努力してきたし、皆さんも、私の要望に応じて、一生懸命、働いてくれました。私たちは良い方向に向かっているのだと思います。

従業員たちは、私の目を見て聞いてくれた。「就業規則をもう一度読み直し、しっかり約束を守れるようにします」「考える機会をあたえてくれてありがとうございました」などと話していた。

 ソマリア人は、とても忠実で清潔な人たちだ。敬虔なイスラムで、毎日5回のお祈りは欠かさず、お祈りの度に、手足を洗い、整理整頓された部屋でメッカに向かってひれ伏す。そして、親戚や隣人に対してはとても忠実で、食べ物やお金を分け合い、薪集めや料理などは協力してやる。だから、家の中に壊れた椅子を放置しておくなんてあり得ないし、父親に財産を失った報告義務を怠ることもしない。しかし、それが、援助機関との関係になると、彼らの「良さ」が失われてしまうのだ。20年間、緊急援助を続け、難民のオーナーシップを促してこなかったツケなのかもしれない。

 ワークショップを解散すると、副主任のアデンが「工場長の話し中にあんなことを言ってすいませんでした。トイレに行きたかったのです」と謝ってきた。自分の犯した過ちを認め、謝ることができるということに、私は、自分が築いてきた従業員との信頼関係も、まだまだ捨てたものではないと、少し誇らしかった。
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No title

大の大人にも、このような目線に落として、あわせて、話し合い、思いを伝えないと、通じないってことですね。
でも、とても、良い例だし、理解しやすい、説明だと思います。

私たちにとっては、簡単なことでも、ちゃんと社会に対応できないまま育った大人たちは、こうなるってことですね。

この工場を通じて、社会教育、考え方の修正になってますね。

本当に、希望が持てる社会つくり、人間関係を築いていってほしいです。

本当、工場長は、大変ですねーー!!!
本当に、我慢してがんばってますよ!!!

No title

 
 身近な例を用いて、辛抱強く話す、工場長はすばらしい。
 わかりやすくて、ついつい、工場長のペースに乗せられていく彼らが眼に浮かぶようです。

 乳児の発達を見ていると、周りの大人が、根気よく繰り返し、話しかけたり、抱いたり、遊んだり、物事を示唆することで、豊かな発達をしていくように思います。それは繰り返し、繰り返しです。(お母様は教えない育児をしたのでしたね)
 
 彼らが乳児だということではなく、育ちも宗教も全く違う、互いに理解しにくい関係は、出発は似ているのではないでしょうか?

 それに人は、正当な理論や理屈には、頭では理解しても、心で納得できないという、やっかいな感情があります。感情はとても大事だと思います。
 
 正当すぎて、自分に反論の余地がないほど、反発したり、受け入れられない。最悪は窮鼠、猫をかむ ということが多々あります。
  私たち日本人には理解しがたい、彼らの理屈、訳もあるのでしょうね。 中々難しいですね。

 待ちの姿勢も大事です。自ら気づく、自主の萌芽を待つ。自ら納得することが、身についていく近道だと、私は思います。
  
 真摯で真面目に彼らに向かう、工場長の姿勢こそが、最大の武器かもしれません。
 大変ですが、あきらめないで、辛抱強く、彼らに接していかれることを願います。
 しんどくなったら、又食事にご招待しましょう。

 ところで、私のブログで、工場長の宣伝?? をしました。もし失礼があれば、お許し下さい。日本の報告会、成功されることを祈っております。






にこ生主と…

ux9993S0
にーっこにこ・・・
生主と、生○○中××
http://c497D8P0.2co2co.info/c497D8P0/
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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