腹心の失踪 (その2)

10月21日、大韓航空でソウルからナイロビに到着。私の孤独な探偵ゲームが幕を開けた。ファラは無事なのか?ファラに渡したお金はどうなったのか?モウリドや他の従業員、お金を管理していた店の関係者、そしてファラの家族などに話を聞き、腹心の失踪の裏に何があったのか、なんとしても突き止めたかった。団体の資金運用の透明性を確保するという大義名分はあったにせよ、実際に私を突き動かしていたのは、「腹心に騙されたという可能性を取り除きたい」という自尊心だけだった。

早速、モウリドに電話をした。

私:ファラの件だけど、特に、新しい進展はない?
モ:はい。特にありません。
私:お金がなくなっているということだけど、モウリドは、実際に、その店に行って、確認したのかな?
モ:いえ。電話で店の主人と話しただけです。
私:いくら預けられて、いつ、引き出されたのかとか聞いた?
モ:聞いても、教えてくれません。

 お金はファラが個人的に預けたことになっている。預かった方としたら、顧客の個人情報の守秘義務がある。まして、誰からもわからない電話での問い合わせに応じるとは考えにくい。

私:モウリドは、ファラがお金を持ち出したのか、それとも事件に巻き込まれたのか、どっちだと思う?
モ:お金を持ち出した可能性の方があるような気がしてきました。もし事件に巻き込まれたのだとしたら、すでに、何らかの情報が入ってくる様な気がします。(すでに失踪してから10日が経っていた)
私:でも、お金目当ての失踪なら、なぜ、従業員の給料を支払う前に失踪しなかったのだろう?
モ:、、、、。
私:給料を差し引けば、残りの金額は約50—60万円。ファラの給料は月3万円。数百万円ならわかるけど、果たして、この金額は親戚、家族をすべて投げ出して、逃走するような金額だろうか?
モ:確かに、そこまでの額ではないですね。ただ、今の段階で家族と音信不通になっているだけど、後からこっそり連絡する可能性もあります。今は、そのお金でどこか外国へ行き、新たな生活基盤を作ろうとしているのかもしれません。

私:なるほどね。とにかく、明日朝、ダダーブに着いたら、色々、聞かせてもらうよ。

22日午前9時半ごろ、国連機でダダーブに到着。約1ヶ月ぶりのダダーブは、雨期でまとまった雨が降ったようで、いつもは赤土の地面一面に草が生えていた。まず、モウリドと、ファラがお金を預けていた店に向かった。

 ファラがお金を預けていたのは、ダダーブの国連敷地の入り口門のすぐそばにある、「ビューパーク」という総合スーパー。コーラやスプライトなどのジュース、牛乳、トイレットペーパー、砂糖、小麦粉、お米、野菜、電池、ペンなどが棚に並ぶ。 子供から大人まで、様々なお客が出入りした。

オーナーの男性は40代くらいのソマリア系ケニア人。私は、「ひょっとして、まだお金はあるのではないか」というひそかな期待を胸に、オーナーに歩み寄った。

次々に商品を持ってくるお客に対応しながら、オーナーは私に目を向けた。

私:私の部下がここにお金を預けたのだと思うけど。
オ:はい。
私:それについて、色々聞きたいのですが。
オ:、、、、。
私:すいません。大事な顧客情報を渡したくないのはわかりますが、あのお金は私たち団体のものなのです。これは、私たちの団体の存続に関わる大事な情報なのです。
オ:わかりました。
私:ファラは、いつ、いくら、ここに預けたのですか?
オ:9月の終わり、82万シリングを預けた。
私:そのお金は、もうここにはないのですか?
オ:ない。
私:ファラは何回に分けて、そのお金を降ろしたのでしょう?
オ:2—3回だったかな?
私:最後はいつ?
オ:うーん。2週間前くらいだったかな。
私:何か、記録に残ってないのですか?
オ:ないよ。私たちソマリア人は、すべて信用でやっているからね。いくらでもお金を預かるし、いくら引き出したいっていったら、その額を渡す。アメリカにいようが、ヨーロッパにいようが、電話一本で、親戚にお金が送れるのも、この信頼関係に成り立っている。
私:なるほど。最後にファラが引き出した金額は?
オ:50万シリング。
私:2週間前ということは10月8日くらいということですか?
オ:そうですね。
私:彼は10月12日から行方不明になっているのです。何か心当たりはありませんか?
オ:ないね。もともと、私たちは彼のことはあまり知らないんでね。一ヶ月ほどまえ、10万シリングを借りたいと言ってきたけど、特に親しい仲でもないので断ったよ。
私:10万シリング?何に使おうとしたのでしょう?
オ:そんなの知らないよ。
私:彼の家族も心配しているのです。
オ:しかし、50万シリングなんて小さな額で消えてしまうなんて信じられないね。それで外国へ逃れたとしても、すぐ使い切るだろうよ。
私も、そこは引っかかっていた。彼の給料は月に3万シリング。1年働けば、それに近い額は稼げたし、ケニアの国家公務員並みの給料の仕事をどこか他で探すのはかなり難しいだろう。家族や親戚関係をすべて投げ出してまで、欲しい額なのだろうか。


私:ファラは1人でお金を引き出しに来たのですか?
オ:そうだと聞いている。
私:誰かに脅されていたという可能性はないでしょうか?
オ:そんなの、彼の背中に銃を突きつけない限り無理だろう。それか、家族を誘拐するとかね。

やはり、お金はなくなっていた。何かの誤解で、実はお金があるなんてことを期待していた自分が惨めだった。この店主が嘘を言っている可能性はゼロではないが、約50平方㍍の店内にありとあらゆる品物を揃える店の店主が50万シリングのために殺人を犯す可能性は、そこまで大きな収入基盤がないファラが私に嘘をついてお金を奪う可能性よりもはるかに小さく感じた。

お金が紛失したということを確認した上で、今度は、モウリドと2人きりになって事情を聞いた。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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