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腹心の失踪 (その3

その後、モウリドと2人きりになって、事情を聞いた。

私:失踪する前、ファラに変わった様子はなかった?
モ:10月に入ってから、連絡が取りにくくなりました。それまで毎日、電話で話し合っていましたが、ファラの電話が繋がらない事が多かったです。新しいプロジェクトが始まり、かなり忙しいのだと解釈していました。
私:最後にファラと話したのは?
モ:10月9日ころだったと思います。
私:他の従業員は何て?
モ:10月13日に、従業員の1人がキャンプの市場でファラを目撃しています。送金業者の店の前で、何やらお金を預けるか引き出すかしているようだったということです。従業員が声をかけても、返事することなく、そのままタクシーに乗って、どこかへ行ってしまったということです。
私:家族が最後にファラを見たのが10月12日。つまり、その日は、どこか別の所で泊まっていたということか。
モ:そうなりますね。
私:他の従業員は、今回の件についてどう話しているの?
モ:最近の治安悪化で、最初は、皆、ファラが事件に巻き込まれたのではないかと心配していました。でも、私が、ファラが管理していたお金がなくなっている可能性について話すと、お金を持ち出したのではないかと言う者も出てきました。
私:「ファラがお金を盗むなんてするわけがない」と擁護する従業員はいないの?
モ:、、、。いませんでした。
私:ファラの家族はなんて?
モ:事件に巻き込まれたと信じきっています。お金がなくなっている可能性について話しても、「そんな小さな額で、すべてを放り出すわけがない」と言っています。
私:こういう失踪事件はキャンプではよくあるの?
モ:ありません。
私:君が十数年前からキャンプにいて、1件でもあった?
モ:ありません。とても珍しいことです。
私:もし、援助機関のお金を盗んだとしたら、彼は、同胞たちからどういう目で見られるの?
モ:村八分です。私たちにとって、窃盗は、最悪の罪です。しかも、妻と6人の子供の扶養義務を怠ることも、最低最悪です。もし、ファラが盗んでいたとしたら、もう、ダダーブに戻ることは不可能でしょう。ダダーブはおろか、ナイロビやモンバサなど、ケニアのソマリア人コミュニティで暮らすことは難しいでしょう。ファラが失踪してから、ファラの親戚と名乗る複数の人物から何度も電話をもらいました。「ファラはどこだ?」「同じ組織で働いているのだから知っているだろう?」と。自分たちの親戚が、窃盗と家族の扶養放棄をしたということはとても恥じる行為なのです。

私:難民が行方不明になって、その後で、死体となって見つかるような事件はある?
モ:最近の治安悪化で、たまに起こります。薪を集めにいった難民が行方不明になり、2日後に遺体で見つかるなどです。しかし、ファラが姿を消してからすでに12日。ここまで長い間行方がわからなくなるのは聞いた事がありません。この辺り一帯の人々は遊牧民です。毎日、家畜と共に、縦横無尽に数十キロ歩きます。だから、死体がどこにあろうと、数日以内には見つかる可能性が高いのです。

私:死体がどこか遠くで埋められていたら?

モ:死体が埋められていたというのは聞いた事がありません。そういう習慣がないし、そもそも、これだけ殺人事件が日常的に起こっている中で、犯人が死体の発見を遅らせる理由があるとも思えません。もし、ソマリアのイスラム武装組織が関与しているのだとしたら、彼らの罰則手法は基本、公開処刑です。

私:なるほど。ファラに個人的恨みを持つ様な人物はいたのだろうか。
モ:知りません。
私:事件に巻き込まれたとしたら、お金も紛失しているわけだから、ファラが大金を管理していたことを知っている人物の可能性があるのだけど、これを知っているのは、私とあなた、そして「ビューパーク」の関係者くらいだね?
モ:はい。

私: 店の関係者の可能性はどうだろう?「ファラがお金を引き出した」という事実がなく、ファラを消し去ることで、預けたお金を手に入れようとしているという可能性はないだろうか?

モ:額が少なすぎます。「ビューパーク」はダダーブでかなり大規模な店でレストランも経営しています。おそらく、50万シリングとは別単位の売り上げを毎月出しているでしょう。殺人事件を犯し、顧客からの信頼を失うリスクを犯してまで、盗む額ではないと思います。

私:なるほど。私もそう思うな。と、なると、やはり、ファラがお金を持ち出して逃げた可能性が高くなるのだけど、それでは、なぜ、ファラは、従業員の給料を支払う前に失踪しなかったのだろうか?

モ:ファラが工場長からお金を預かったのは9月25日。給料日まで数日もありませんでした。どこかに逃走するとしたら、それなりの準備が必要になります。給料を支払わなければ、従業員から不審に思われ、準備するのに支障が出ると思ったのかもしれません。それに、ライフラインの従業員は、様々な部族の人がいて、すべての部族から睨まれたくないという思いもあったかもしれません。これから、ファラがどの国で暮らそうとも、間違いなく、そこにいるソマリア人コミュニティの支援を頼ることになるからです。

私:ファラは君にとってどういう人物だった?お金を盗むような人間だった?

モ:難民キャンプで長い間付き合いがある友人ならまだしも、私とファラはライフラインで知り合った仲です。1年弱の付き合いで、一体、どこまでその人のことを知ることができるのでしょう。ファラはとても仕事熱心で、従業員との関係も良好だった。でも、それがただの演技だったのかもしれない。事件に巻き込まれた可能性もないわけではありませんが、彼がお金を盗み出した可能性の方が大きいと思います。それを考え始めたら、私は、彼が憎くて仕方ない。誰かをこんなに憎むのは初めてくらいです。彼はライフラインが、難民の自立支援のために、これまでやろうとしてきたことをすべてぶち壊した。彼は昨年、ソマリアから逃れて来た時、ほとんど何もない状態だった。ライフラインに入り、収入源が生まれ、2度、昇進され、収入も5倍に増えた。これから、ライフラインを基盤に、自分のキャリアを作っていくものだと思っていた。うまくすれば、将来、ライフラインが活動する他の地域(ウガンダやハイチ)で仕事ができるかもしれない。自分で勝ち取ったこの仕事を無駄にすることなんてしないと思っていた。だから、とても残念です。


私は、自分の目頭が熱くなった。それまで自分の中に抑えてきた心の内を代弁されることで、わらにもすがりたい想いになった。「私は、何があってもライフラインで働き続けたい」そう笑顔で話していたファラの表情を思い浮かべたら、涙が出そうになった。

私:ちなみに、お金を持ち出したと仮定して、ケニア国内に居残ることが難しい場合、どこに行く事が考えられるだろう。

モ:アメリカ、ヨーロッパ、南アフリカ、、、。ソマリア人コミュニティは世界中どこでもあります。ここから一番近い所だと南アフリカ。友人によると、2000ドル(約16万円)あれば、業者に頼んで、密入国することができるそうです。

必死に、これまでのポイントを頭の中で整理した。

●失踪10日前ほどからファラとの連絡がとりづらくなっていた
●失踪4日前に、50万シリングを引き出すのを目撃されている
●13日に、お金のやり取りを市場でしているところを従業員に見られても、話をせず、タクシーに乗ってどこかへ行った
●失踪から12日経つが、死体が発見されず、事件に巻き込まれた可能性が低い
●紛失した額は、国外逃亡するには十分のお金

以上の点から、私がファラに裏切られたという可能性の方が大きくなっていた。
しかし、まだ、モウリドと店主に話を聞いただけだ。2人とも、ファラとの関係はそこまで深くはない。一番、ファラの事を良く知っている人物に話を聞くまでは、安易な結論を出したくなかった。

私:明日、ファラの家族に会わせてくれないか?通訳もつけてほしい。

モ:わかりました。連絡してみます。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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