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腹心の失踪 (その4)



ファラの妻、ソウド(仮名、20代)とは、難民キャンプの国連事務所で会った。通訳として、英語を話せる親戚を連れ、待ち合わせ時間通りにやって来た。私の顔を見るなり、軽い会釈をした。通訳の男性はカシムと名乗り、30代。英語は流暢とまではいえないが、私がゆっくり話せば、大体の会話はできるレベルだ。

モウリドに通訳をお願いすることもできたが、別件の用事があり、また、面識のないモウリドより、親戚が通訳した方が、ソウドも話しやすいのではないかと思った。簡単に自己紹介をした後、早速、本題に入った。

私:ファラから連絡はないですか?
ソ:ありません。(涙ぐむ)
私:ファラを最後に見たのはいつですか?
ソ:前の金曜日ではなく、その前の金曜日。
私:10月12日ということでいいですか?
ソ:、、、、。
私:先々週の金曜日ですね?
ソ:はい。
私:その日は、どんな会話を?
ソ:普通に、「仕事に行く」と言って出て行きました。それっきり、戻ってきませんでした。(再び、全身を覆った布で涙を拭う)
私:最近、ファラに変わった様子はありませんでしたか?
ソ:いいえ。
私:何か、いつもと変わった話をしているとか?
ソ:ありませんでした。
私:12日に行方が分からなくなってから、どうしていましたか?
ソ:最初は、仕事で帰ってこないものだと思っていました。最近は、ダダーブの宿舎に泊まることが多かったので。ただ、仕事がない日曜日に帰ってこなかったので、心配し始めました。普通なら、毎日の様に電話で連絡もきていましたから。月曜朝、マサラニ(約100キロ離れたケニアの地域)に住むファラの両親に電話をし、周辺に住む親戚に連絡をして、手分けして行方を探しました。心配した両親もダダーブに来て、ファラを探しました。

ここから、私は、ファラが家族や生い立ちについて話していたことを思い出しながら、ソウドの供述と一致するか試してみた。

私:いつ、ソマリアからキャンプに来たのですか?
ソ:昨年10月です。
私:なぜ?
ソ:ファラがアルシャバーブ(イスラム武装組織)に脅され始めたからです。
私:なぜ、脅されていたのですか?
ソ:彼がケニアの市民権を持っているからです。
私:ケニアの市民権を持っているとなぜ脅されるのですか?
ソ:彼みたいに英語が話せる人はあまりいません。アルシャバーブは英語を話せる外国人をターゲットにし始めました。
私:子供は何人いますか?
ソ:6人です。
私:最後の子供はいつ生まれましたか?
ソ:、、、。8月初旬。(何月何日という単位を普段使わないためか、返答に時間がかかる)
私:一度、難民キャンプからソマリアへ1人で帰ろうとしたことがありますか?
ソ:はい。
私:それはなぜですか?
ソ:キャンプの治安が悪くなったため、ソマリアにいても、ここにいても、変わりがないと思いました。

ファラとソウドの供述はほぼ一致している。2人が私に嘘を付いている可能性は、少し下がった。

私:あなたは、ファラの最初の妻ですか?
ソ:いいえ。2人目ですが、最初の妻とはすでに離婚しているから、今の妻は私だけです。
私:最初の妻はどこに?
ソ:ソマリアです。
私:最初の妻との子供たちは?
ソ:3人の男の子がいますが、3人ともファラの両親が面倒を見ています。

 ソマリアの私立大学で英語を教えていたというファラは、それなりの収入があったらしい。それを投げ捨てなければいけなかったファラの心情はどんなものだったのだろう。一人目の妻をソマリアに残しているという点が少し気になった。私は、さらに、本題に踏み込んだ。

私:ファラの行方がわからなくなったと同時に、私たちの団体のお金も紛失しました。ファラが管理を任されていたお金、約50万シリングです。

ソ:、、、、。どういうことですか?ファラが奪ったとでも言うのですか?

私:いいえ。それを今、調べているのです。今、わかっていることは、ファラとお金が同時に行方不明になっているということです。
ソ:、、、。私は、てっきり、ファラの居場所について何らかの情報が入ったから、今日、呼ばれたのだと思っていました。そんなことがあるなんて知りませんでした。

親戚のカシムも驚いた様子で、「そんな事、聞いていなかった」と言った。

私:モウリドから聞いていませんでしたか?
ソ:お金を管理している店と連絡をとっても、確かな情報がもらえないということだけは、聞いていました。
私:ファラは、ダダーブから出て、どこか別の所に住みたいとかは話していませんでしたか?
ソ:いいえ。
私:ライフラインの仕事に何か不満を持っているとかは?
ソ:仕事の話は家ではしませんでした。とにかく忙しそうにしていましたし、それにやりがいを感じている様に見えました。
私:私については何か言っていましたか?
ソ:「ようこう」という名前の人と電話で話しているのは何度か見ていますが、それ以上のことは、何も話していませんでした。
私:ファラがダダーブの生活に特に不満を感じている様子はなかったのですね?
ソ:ありませんでした。
私:それでは、ファラがお金を使って、どこか遠くの国へ逃走するということはあり得ませんね。
ソ:あり得ません。50万シリングくらいでは、何もできませんし、私に連絡をよこさないのもあり得ません。もう消息がわからなくなって12日。これだけ長い時間、連絡がないということは、彼の身に何か起きたとしか考えられない(涙を拭きながら)。
私:ファラが家族をこんな形で見捨てることはしないと信じていますか?
ソ:はい。
私:一人目の妻はソマリアにいるのですよね?
ソ:あれは、双方の同意のもと離婚したのです。相手は子供の世話はできないといい、ファラが子供たちの世話をすることになった。だから、ファラが彼女を見捨てたわけではありません。
私:ファラは、これまで人を騙すようなことはしませんでしたか?
ソ:ありません。彼は、決して人のお金を取るような人じゃありません。

ソウドの気持ちは痛いほどわかる。ファラを信じたい気持ちは私も一緒だ。しかし、肝心のファラが事件に巻き込まれる要因が見当たらない。もう、あきらめかけようとしたところ、ふと、自分の質問を振り返った。もしかしたら、「最近、ファラに変わった事はなかったか?」という質問が漠然としすぎたのかもしれない。カシムの通訳もどこまで正確かわからない。もっと、直接的な質問に変えてみることにした。

私:キャンプで、ファラが脅される様な事はなかった?
ソ:ありました。
私:え?
ソ:これまで、ファラは2人の人間に脅されていました。
私:もうちょっと、詳しく説明してくれますか?
ソ:1人はイフォ。2人目は、ハガデラです。(いずれもダダーブに五つあるキャンプの名前)
私:それでは、まず、イフォから。
ソ:アルシャバーブに関連している男で、ソマリアにいる時から、ファラを脅していました。それが理由で、ダダーブに逃げて来たのですが、最近の、内戦の激化で、この男もまた、ダダーブに逃れて来ていたのです。それで、キャンプの市場でたまたま、ファラとすれ違った時、脅されました。
私:それはいつ頃?
ソ:9月ごろ。2回に分けて脅されました。
私:何て言って脅されたのですか?
ソ:「お前がここで生きていくのは不可能」と。
私:何も、危害は加えられていないのですね?
ソ:はい。言われただけです。
私:ハガデラは?
ソ:こっちの方が深刻です。電話で何度も何度も、脅迫されていました。
私:電話だけ?実際に会ってはいない?
ソ:はい。電話だけです。
私:電話で何と言われたのですか?
ソ:イフォと同じようなことです。
私:いつから?
ソ:、、、。時期はよく覚えていません。
私:正確な日時じゃなくていい。数ヶ月前とか、数週間前とか。
ソ:、、、2−3ヶ月前からだと思います。
私:最後に電話が来たのはいつ?
ソ:1ヶ月前くらいですかね。
私:9月下旬か。それについてファラは何って言っていたの?
ソ:「言わせたいように言わせておけばいい」と意に介していない様子でした。
私:このことを国連とかには報告しなかった?
ソ:いいえ。夫は強がる所があったので。
私:どれくらい頻繁に電話は来ていたの?
ソ:数日起きくらいだったでしょうか。
私:名前とかはわからない?
ソ:いいえ。ハガデラの人間ということしかわかりません。
私:イフォの方は、対面しているわけだから、連絡取れないの?
ソ:連絡先がわかりません。
私:じゃあ、ファラが失踪したのは、この脅迫してきた人物と関係していると思う?
ソ:間違いないと思います。お金を管理していたお店の人と、脅迫した人物が繋がっているかもしれません。ファラが12日間も連絡してこないなんて、あり得ません。

ソウドは、何度も、涙を拭っていた。「ハガデラの人物からは電話だけ」「イフォの人物は2回対面」など信憑性を漂わせる詳細さがあるように感じた。通訳のカシムは「最近の治安悪化で、電話での脅しもよく聞かれます。実際、脅しを受けた後に殺されるケースもあるくらいです」と話した。

ソマリアの内戦激化で、アルシャバーブの支配地域が次々に、アフリカ連合軍に侵攻され、元兵士がダダーブに逃れて来ているという情報は入って来ていた。ソマリア国内で狙われていた人物が、国境を超えて、難民キャンプで狙われても、おかしくはない。

 探偵ゲームは新たな局面を迎えた。これまで、ファラが事件に巻き込まれた可能性があるとしたら、ファラの管理していたお金目当ての殺人か誘拐だろうと想定していた。しかし、ファラが、個人的に狙われる可能性があったのなら、話は別だ。その人物たちが、何らかの方法で、ファラが大金を管理していることを知り、ファラを消し去るついでに、お金も奪ったということも考えられる。

彼が殺されたのか、私が彼に騙されたのか。一度は、後者に傾きかけていた針が、また中央に戻されていった。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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