腹心の失踪 (その5)

ファラを電話で脅迫していたという人物はハガデラキャンプ(ダダーブにある5つのキャンプの一つ)にいるという。そこで、私は、ハガデラにいる従業員に話を聞くことにした。ハガデラには、工場Aがあるのだが、現在閉鎖中。世界食料計画(WFP)との新しいプロジェクト担当の従業員4人がいるだけだ。

失踪前、ファラは、主に、ハガデラの従業員と交流があった。別のキャンプはモウリドが担当していたからだ。だから、失踪寸前の様子についても、彼らなら、何か知っているかもしれない。

4人中、1人は風邪で来られず3人が来た。

私:ファラが行方不明になっています。皆さんが最後にファラを見たのはいつですか?
従:10月1日。9月の給料を受け取る時です。
私:最後に話したのはいつですか?
従:10月12日です。電話で業務連絡が来ました。
私:七輪の配布についてですか?
従:はい。

 丁度、この時期、七輪2万個を配布するというWFPの大プロジェクトが開始されていた。ライフラインは、配布する際の説明会を担当し、ファラはその取り仕切り役だった。従業員たちに七輪についての研修をし、彼らがしっかり説明会を開いているかどうか、チェックする役割だ。

私:ファラは、七輪の説明会を視察には来なかったのですか?
従:来ませんでした。
私:給料を支払った後、なぜ、一度も皆さんに会いに来なかったのでしょう?
従:わかりません。
私:10月10日に七輪の配布が始まった時も視察に行っていなかったのですか?
従:はい。来ませんでした。

 大プロジェクトが開始される、一番大事な日さえ、ファラは仕事をしていなかった。失踪する2日前のことだ。

私:ただ、電話は来ていたのだね?
従:はい。プロジェクトが始まる知らせが来ました。
私:それで最後に電話が来たのが12日か。実は、その日以来、ファラの行方がわからなくなっています。ファラが管理していたお金もなくなっています。約50万シリング。今の所、ファラがお金を持ち去ったのか、事件に巻き込まれたのかは、わかりません。家族はイフォに残っています。皆さんはどう思いますか?

ある従業員の1人コーレ(20代男性、仮名)は、「南アフリカなら10万シリングあれば行ける。持ち逃げたのだと思います」。別の従業員バレ(仮名、30代男性)は、「その額で、仕事も家族もすべて投げ出すとは思えません」と話した。

ファラの失踪について、新しい情報が得られる様子がなかったので、私は、別の議題に移った。ファラが失踪する前の10月2日、私の休暇中に送られて来たメールについて思い出した。メールには、コーレがライフラインと別の援助機関を二股して働くという規則違反をしていることが報告されていた。メールを受け取った時は、私が休暇を終えてから応対するつもりだったので、特に返答もしなかった。

私:コーレが別の援助機関でも働いているという報告を受けているのですが?
コ:(「他の従業員もやっていたことです」などとごちゃごちゃ話した後)はい。9月末まで働いていましたが、もう辞めました。確認してもらって結構です。
私:なぜ、ライフラインで働きながら、別の機関で働いていたのですか?
コ:お金に困っていたからです。すいませんでした。
私:ファラは、どうやって、あなたが二つの機関で働いていることを知ったのでしょう?
コ:私が伝えたからです。
私:え?いつ?
コ:9月7日。

 月日の質問に対し、コーレが即答で返してきたことが引っかかった。普通、こんな細かいことまで覚えていないだろう。

私:あなたがそれをファラに伝えて、ファラは何と言ったのですか?
コ:「とりあえず、9月中は二つの組織で働いて、10月からライフラインだけにしろ」と言いました。
私:本当に、ファラがそんなことを言ったのですか?もし、あなたが嘘をついていることがわかったら、すぐ解雇しますよ。

私は声の調子を上げた。援助機関の二股行為は固く禁じられている。ブログにも書いたが、9月中旬に1人解雇したばかりで、それを良く知っているファラがそんな返答をするわけがない。コーレは、気まずい表情を見せながら、わけのわからない弁明を始めた。

そうすると、それまで黙っていたドウボウ(男性、仮名)が話し始めた。

ド:実は、10月1日の給料支払いの日、小さなトラブルがありました。コーレが、別の友人にファラの電話番号を教え、その友人が、ファラに電話をし、ファラに対して「バカ」「くそったれ」などの暴言を吐いたのです。さらに、その友人は、私の名前を名乗って、ファラに電話をしたのです。私も、かなり苛立ちました。
私:ファラに電話をしたのは、あなたの友達なのですか?(コーレを見ながら)
コ:いえ、知りません。私の電話が誰かに取られて悪用されたのだと思います。
ド:いえ。ファラは、その電話を受け取った時、最初出たのはコーレの声だったそうです。その後、友人に変わり、私の名前を名乗って、暴言を吐いた。そして、そのかかって来た電話番号にファラが電話をし直して、「君はコーレを知っているか?」と尋ねたら、「私の友達だ」と答えたのです。
私:コーレ。君は、この人のことを知っているのか、どうか答えてください。
コ:私は、電話をなくして、、、
私:これは、イエスかノーの質問です。あなたは、ファラに暴言を吐いた人間を知っているのか、どうか。
コ:知っています。
私:その人の名前は?
コ:、、、。バレと言います。
私:少し前、あなたは、この人のことを知らないと答えた。今は、違うことを言っている。
コ:2度しか会ったことがないので、、、。

ファラが受けていた脅しの電話。そして、従業員とのトラブル。「10月1日を境にファラと連絡がしづらくなった」と他の従業員からの証言。私は、いくら探しても見つからなかったジグゾーバズルの一片が見つかったような気分になった。私は、コーレに部屋から出てもらった。ドウボウとバーレと3人になり、詳細を尋ねた。

私:ファラとコーレのやり取りについて詳しく教えてくれないか?
ド:ファラは、9月分の給料の支払いを拒んでいました。それでも、私たちは、その月分だけは払って上げてくださいとお願いをして、渋々払ったのです。でも、「10月はとりあえず停職処分にし、工場長が戻ってから、相談して今後について決める」とコーレに話していました。
私:なるほど。それに腹を立てたコーレが復讐として、そんな電話をかけたということか。君たちは、この件についてどう思う?
バ:ファラは怒って当然です。コーレは、平気で嘘をつく。
ド:私の振りをしてファラに電話をするなんて心外です。コーレはこれまでも、いくつか問題を起こしています。10月12日、七輪配布の時に、配る七輪を盗もうとして、一緒にプロジェクトをやっている他の援助機関職員から注意されています。その職員は、すぐにファラに電話をして報告していました。
私:君たちは、ファラが失踪した件と、このコーレとの問題と、何か関係があると思う?
バ:あるかもしれません。今日、コーレは私たちに「ファラはもう仕事を辞めた」と言ったのです。ファラが辞めたかどうか、工場長にさえわからないことを、なぜ、コーレが言うのか理解できませんでした。
私:でも、私から見たら、これはとても小さい「いざこざ」です。これが、失踪事件に発展するのでしょうか?
バ:今、この辺の治安はものすごく悪化しています。どんなささいな事が、事件につながるのかわからない。死体が見つからないのだって、ソマリアへ越境したら、事件は永遠に闇に葬られるでしょう。

確かに、ダダーブの治安は日に日に悪化していた。9月末、アルシャバーブの拠点となってきたソマリア南部の湾岸都市、キスマヨが陥落し、多くのメンバーがケニアに逃れたとされる。2日前は、従業員の弟が薪集めの最中に銃で射殺され、別の従業員も一月以上音信不通になっている。

私:ファラは、とても忠実で仕事熱心な人間だった?
2人とも、深く頷いた。
私:そんな彼が、お金を盗んで逃走するなんてありえない?
2人とも再び深く頷いた。そして、最初にファラが逃走したと主張していたのが、3人の中で、唯一、コーレだったことを思い出した。
私:もう一度、事実関係を確認させてほしい。コーレが援助機関を二股していることがわかり、ファラが処分を下した。私にも報告した。それに腹を立てたコーレが、ファラに嫌がらせ行為をし、さらに、ファラを怒らせた。

バ:はい。

私:もし、これが、今回の失踪事件と関係しているとしたら、ファラが、自分の信念を貫き、同胞の不正を暴いたことが原因ということになるね。

私は、そこまで言ったところで、言葉に詰まった。いつの間にか、目に涙が溜まっていた。妻の前でも泣いたことがない私が、従業員の前で涙を見せるわけにはいかない。ドウボウとバレに気付かれないよう、必死に自分の感情を押し殺そうとした。

私は日々、「同胞だからって甘くみたらいけない。馴れ合いを生んだら、長期的発展はありえない。同胞の過ちを罰することができるようになったら、君も立派な経営者だ」とファラやモウリドに伝えてきた。私の教えに忠実に従ったばかりに、ファラが危険な目に遭ったのだとしたら、やりきれないものがある。

前のブログでも書いたが、援助機関を二股していた別の従業員を解雇した時、それを私に告げた密告者は、報復を恐れ「絶対に、私が密告したことは誰にも言わないでくださいよ」と話していた。それだけ、同胞の過ちを外部者に伝えるということは、危険を伴う行為なのだ。

難民キャンプでは、ケニア警察や援助機関と協力して、治安対策を任された難民が殺される事件が相次いでいる。本来、敵対関係にあるケニア軍や国連と協力することは背信行為とみなされ、それをアルシャバーブが見せしめとして罰していると、ほとんどの人は見ている。すでに脅しをかけられていたファラが、アルシャバーブと敵対するアメリカの援助機関で働き、さらに、同胞の過ちをその機関に報告していることが公然となれば、何かしらの制裁が加えられても、おかしくないのかもしれない。ワールドカップを「西洋のスポートの祭典」とみなし、それを観戦した者を処罰してしまうような組織だ。何がきっかけで殺されるかなんて全くわからない。

私が騙されたのか、彼が殺されたのか。私は、自分のプライドを守るというためだけに、前者であってほしくないと願っていた。しかし、後者の場合、ファラが生存している可能性は極めて低く、少なからず私に責任がある可能性もある。改めて、自分の身勝手さと、この探偵ゲームの不毛さに気付く。

本当にファラのことを思うなら、彼が私のことを騙していても、無事でいてくれることを願うべきだった。生きてさえいれば、どんな過ちだろうと、いつか償うことはできるのだから。

全従業員を集めて経過を報告し、探偵ゲームに終止符をつけよう。おそらく、真相究明が、ファラの生還の可能性を高めるとは思えず、逆に、自分を含む別の誰かが事件に巻き込まれてしまう可能性を高めてしまいそうだ。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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