スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ギャクギレする人たち

 停職処分2人を出して以来、特に大きな問題がなかった工場Aに、再び波が襲ってきた。コンロを難民に配布する際、コンロの使い方を約1時間かけて説明してから配布することになっているのだが、私が従業員の配布する現場に立ち合った時は、なんと、コンロの持ち方や置く場所について1分ほど説明するだけで終わっていた。しかも、工場Bで使われている、コンロと木材の図柄で詳しく使い方が説明されている解説シートも使っていなかった。
 私は、何か事情があるのかと思い、NGOの本部や前任者のJにメールで「コンロについての説明が1分ほどで終わっているのだけど、これは何か事情があるのでしょうか?」と問い合わせた。そしたら、滅多にメールの返信をしない代表理事から「それは信じられない!!説明は1分より長いのが当たり前だ!」というショッキングなメールが来た。前任者のJは「普段は1分より長くやっているはずだよ。Yokoが新しいボスだから、なめてかかっているだけでは?」と返事をした。
 なめてかかられているとは思えない。停職処分を出してから、従業員は彼らなりに成果を出していた。コンロの基盤となる粘土レンガを作る数が、それまで一日平均200個前後だったのが、230まで増えていた。つまり、私が工場長になる前から、常態化していたということではないだろうか?
 私は早速、次の日、主任のラホに尋ねた。「工場Bでは、コンロの使い方を説明するのに解説シートを使っているのだけど、ここにはないのかな?」。ラホは「ありますよ」と即座に答え、道具箱の奥底から解説シートを取り出してきた。
 それを持ち、前回、コンロ配布の作業をした従業員のキモ(仮名、男性)に見せたら、「こんな解説シートは見たことがありませんでした」と言う!キモは今年2月からこの工場で働いている。つまり、解説シートは今年になってから一度も使われてこなかったということだ。
 コンロを配布する目的は、料理に使用する木材の量を減らすことにある。あまりたくさんの木をコンロに入れたりしたら、コンロを使う意味がなくなってしまうため、工場の活動事態が無意味なものになる。そのために必要不可欠な解説シートが長い間、道具箱の奥底に眠っていたのだとしたら、それはかなり深刻な職務怠慢だ。
 主任のラホに説明を求めても、「コンロのタイプが変わったから」とかはっきりした答えが返ってこない。
 私は、ラホに警告文を書いた。「あなたがコンロの配布する作業に従事させたキモは、配布するためには必要不可欠な解説シートを見たことがなかった。しかも、あなたは、本来、コンロの使い方について1時間ほどしっかりとした説明が必要であることを知りながら、従業員が1分程度の説明しかしていないことに関して、何の注意もしなかった。これは私が就任してから早くも二つ目の警告文です。」
 一つ目の警告文は、彼女が主任代理に任命したアブラシードがレンガを作った数を水増しして報告書に記録し停職処分になった時、ラホの任命責任を問うものだった。
 私は次の日、彼女と、新しく主任代理になったアデンと3人で小さなミーティングを開き、ラホに「ちょっと深刻な話があります」と切り出した。
 「あなたは、コンロの使い方について、配布するまえにしっかりとした説明が必要だということは知っていたのに、なぜ、従業員が1分足らずしか説明していないのを知っていて、何も忠告をしなかったのですか?それと、今年2月から働いているキモが、なぜ、解説シートを見たことがなかったのですか?」と尋ねた。
 ラホは「これからしっかり説明しようと思っていたのです」と答えた。到底、納得できる説明ではなかったため、私は、警告文を取り出し、声を出して読み上げ、ラホに渡した。ラホは警告文を睨みつけるように覗き込み、「わかりました」と言って、手に取った。
 それでミーティングは終わり、全体ミーティングに移った。そしたら、従業員全員の前で、ラホが「私から話したいことがある」とソマリア語で言ってきた。アデンが通訳となり、ラホは、これまでたまっていたものを吐き出すように話し始めた。

「私は、この工場で4年働いてきた。前の工場長のJとも、その前のSとも仲良くやって来た。しかし、今は違う。アブラシードが報告書に偽った記載をしたという理由で、私は警告文を受け、さらに、今回二つ目の警告文をもらった。新しい工場長がこういった態度で接してくるとしたら、私は、これ以上一緒にやっていく自信がない!」

 彼女が犯した行為に関しての説明がない。しかも、私が警告文を手渡した時に言うのではなく、全体ミーティングになってソマリア語で言うというのは、他の従業員の支持を取り付け、私に対してプレッシャーをかけようとしているとしか思えなかった。工場の従業員の過半数はラホが選んで従業員になった。だから、ラホは彼らに絶対的な権力がある。

 私はできるだけ冷静に、声を上げずに説明した。「この工場にとって、コンロの使い方を難民に説明するというのは、活動の大きな柱です。これがしっかりなされないと、皆さんが毎日汗を出している作業の意味がなくなってしまう。それにとってとても重要な解説シートが、今年2月から働いているキモに一度も見せられなかった。さらに、7月初めから働いている主任代理にアデンにも共有されなかった。この責任は誰にあるのか?それは工場の活動をすべて取り仕切る主任のラホだと思います。だから、私は、ラホに警告文を出しました」と話した。

 他の従業員は黙ったまま。ラホは「私は新しい赤ちゃんに頭がいっぱいでそんなことまで考えられなかった」という。私は、「でも、解説シートについて説明するのなんて、そんなに時間がかかることだとは思えません。この数カ月間、全く時間がなかったということですか?」と尋ねた。

 ラホは「文書ではなく、口頭での注意でもよかったのではないか?」と言う。私は、よく違いがわからなかった。とりあえず、「この件については、私とあなたとの間の話です。他の従業員は直接関係ありません。だから、また、時間を作って話し合いましょう」と伝え、中断させた。

 自分が叱責された「行為」については何も言わず、叱責や罰則を受けたという事実に対して逆切れするというのは、無断欠勤や遅刻を数回して減給された工場Bのシナサンが先日、給料を机に投げつけた時と似ている。これまで、ラホには細かいミスを指摘することが数回あったが、いずれも、不快な表情を浮かべ、私が話している途中で、他の従業員に話しかけたりするなど、自分に対する批判を聞き入れるということができていなかった。おそらく、私の言い方にも問題はあるのだろうが、何かぎこちなさを感じていた。

 ラホの逆切れ具合に少し圧倒された私は、自分のしたことが少し厳しすぎたのかと思い、本部の人や、工場Bの主任のハサンらに相談した。

 本部は「ラホはとても重要な部族出身の人らしいから、コミュニティからは尊敬される対象。だから口頭の注意でもいいのではないか」と言う。ハサンも「従業員に忠告するべき立場の主任が、注意を受けるというのはとても辛いことです。だから、まず口頭注意でもいいのではないか」と言う。私は、口頭注意も文書での注意も、対して変わりはないと思っていた。文書だと、自分の言いたいことが、相手にしっかり理解してもらえるくらいのつもりだった。前任者のJからは、従業員が何か悪いことをした場合、「主任からの注意→工場長からの注意→停職→解雇」の順と聞いていた。

 とりあえず、もう一度、ラホと2人でじっくり話し合ってみることにしよう。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。