従業員とのお別れ会 (その1)


12月12日は、閉鎖された工場Aの従業員を含めた、全従業員を集め、私のお別れ会を開催した。私がダダーブを去るのは12月21日の予定だが、10—14日にかけて、ライフライン副代表のバヒドと、私の前任者のJが引き継ぎのためにダダーブを訪れていたことと、12日がケニアの祝日だったということもあり、この日の開催となった。(ちなみにJは、私の正式な後任が1月中旬に来るまでの、短期引き継ぎ役として来た)

国連敷地内にあるレストラン、プムジカ(スワヒリ語で「休息」)を借りきり、総勢35人が集まった。閉鎖された工場Aの従業員と会うのは4ヶ月振り。皆、笑顔でいつものように握手を求めてきた。

モウリドが司会を努め「皆さん、今日は工場長とのお別れ会です」と切り出した。まず、工場Bの従業員たちによる、歌、劇の発表があった。

15人の従業員が横一列に並び、「ライフライン、ライフライン」と、体を横に振りながら歌い出した。

そして、ブルンジ出身のレイチェル(40代、女性)が前に出て、自分で作詞した歌を歌い出し、他の従業員が連呼した。

ライフラインのすべての従業員に平和が訪れますように

最初に、大きな声で皆さんに伝えたい

ヨーコーがライフラインのためにした素晴らしい仕事

ヨーコーのおかげで、難民である私たちは成長した

ヨーコーは私たちと環境の架け橋になり、将来に役立つ知識を分け与えてくれた


ヨーコーは私たちを兄弟のように愛し、私たちは彼を模範にして生きていきたい

ヨーコー ジュー(スワヒリ語で「上」の意)ヨーコー ジュー

ヨーコーはどれだけ治安が悪くなろうとも、私たちに会いにきてくれた

私たちは、ヨーコーがここから去ることをとても悲しく思う

ヨーコー ジュー ヨーコー ジュー

でも、ヨーコーが私たちにかけがえのない知識と技術を与えてくれたから、私たちは何も心配はしていない

ヨーコー、さようなら

ヨーコー、あなたのスピリットは私たちの中にずっと残るでしょう




レイチェル

レイチェルは、胸にジーンと響く大きな声で、両手を大きく広げ、遠くを見つめながら歌った。紺色のワンピースには、自分で刺繍した『ライフライン』の文字が胸元にあった。

次に、ハナムが前に出て、自分が作った詩を読み上げた。

私は文字の読み書きができない

社会に何の役に立たない人間だと思っていた

ライフラインに入って、私は変わった

七輪の作り方を学び、環境保全の大切さを知った

普通の焚き火で料理することの危険性について学んだ

今は、自分の国のために何かできるという自信がある




後ろに並んでいる他の従業員たちが、大きな声で連呼した。

その後、演劇に移った。

劇では、まず、木を切る難民女性が地元住民に襲われるシーンから始まった。「俺の土地で勝手に木を切るな!」女性が悲鳴を上げて、逃げ回る。

そこにライフラインの従業員が仲介に入り「私たちの七輪を使えば、森林を保全することができます。どうか、私たちの工場に来てください」と地元住民の男性に伝えた。

男性は、「難民の大量流入で、ここ数年で木々が少なくなり、飼っていたヤギや羊が死んでいった。それで、収入が減り、子供に十分な食事を取らせることさえできなくなった」と嘆き、赤ちゃん役のファイサル(男性、仮名)が、栄養失調で痙攣を起こし、体をぷるぷる震わせ、会場の笑いを誘った。

そして、次に、ライフラインの従業員が七輪を配布する家族を選定するため、難民の住宅を訪れるシーン。最年長のマリヤン(40代女性)が難民の赤ちゃん役となり、焚き火に手を出し火傷をし、「ニャー、ニャー、ニャー」と猫の鳴き声の様にも聞こえる泣き声を上げた。マリヤンの演技に、再び会場は笑いの渦に包まれた。そこで従業員が「七輪を使えば、子供が火傷する危険性も下がりますよ」と母親に教えた。

次の日、工場に難民たちが集まり、七輪が配布される前の研修を受けるシーン。数人の難民が地面に座り、従業員からの指導に耳を傾けている。そしたら、時間に遅れて到着した難民女性に、工場長役のアデンが登場し、「チョン、チャン、チョン、チャン」(日本語を話すまね)と女性に指を指しながら話しかけ始めた。アデンは、私の青いリュックサックを背負い、モウリドが通訳となって「なぜ、遅れて来たのだ?研修を受けられない人に、七輪を配布することはできません。今日は帰ってください。そして、明日、研修があるのでそれに参加してください」と話した。アデンの日本語話しに、会場は大爆笑。私も、笑いをこらえきれなかった。

アデンは、他の従業員たちに、「チョン、チャン、チャン、チョン」と叫び、「難民の方たちに研修には時間通りに来るようにしっかり伝えてください」とモウリドが再び訳した。

そして、アデンは、研修を行っている従業員に、「チャン、チャン、チャン」とお金を差し出した。モウリドが「君の研修は素晴らしい。これは特別ボーナスだ」と訳した。

最後に、暫定的に後任者となったJ役が出て来て、背負っていたリュックサックをJに手渡して、劇は幕を閉じた。

私は、笑いと感動で、時間が過ぎていくのを忘れていた。上司として厳しく接しつつも、従業員が頑張れば、それを賞賛して、能力を伸ばしていこうとした私の姿勢が、コミカルに描かれていた。

1年8ヶ月、頑張ったかいがあった、としみじみと感じた。


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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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