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難民不信

従業員を「犬」呼ばわりして全面対決になった工場Bの主任・ハサン。全体ミーティングで胸の内を明かしあった後、問題は解決されたと思っていた。
 8月10日、私は休暇でタンザニアのザンジバル島にいた。ハサンから携帯メッセージが届き、「従業員が毎朝6時から働き、今週はいつもより多くのコンロを生産しています」と書いてきた。通常は週に150個のコンロを生産するのだが、今週は300以上になるという。それに伴って、コンロを輸送する費用が通常よりかかるから、お金を送ってほしいという。
 私は休暇に出る前に、すでに前もってその週の分の輸送費は渡してあったから、それに上乗せしてさらに5000シリング(5000円)を送った。ケニアやタンザニアでは携帯電話を通じてお金を送ることができる「M-PESA」というシステムがある。
 普段の倍以上のコンロを生産したということに、喜ぶべきなのか、疑うべきなのか、少し迷った。でも、こんな簡単に発覚する嘘をつくとは思えないし、嘘と発覚したら職を失うことにもなりえるわけだから、5000円はその代償としては少なすぎる。私は、ハサンを信じてお金を送った。
 そして8月15日、休暇から戻った私は工場Bへ直行した。ハサンはその日欠勤しており、主任代理のアデンがいた。私は早速、生産表を見た。「8月9日、火曜日、150。8月12日、金曜日、配布」と記されていた。アデンに、「先週は2回、配布したのだね?」と尋ねると、「いや、一度だけですけど?」と返答した。
 私は、生産表を見せると、主任代理のアデンは驚いた様子で、「いや。ハサンは私にこういった物は見せてくれませんから。火曜日に、150個のコンロを配布したという記憶はありません」と言う。
 私は、他の従業員にも尋ねた。誰一人として、先週の火曜日に150個のコンロを配布したと記憶している者はいなかった。「一週間に300個も作れるわけがない」と口を合わせる。私は、これまでハサンに寄せてきた信頼が、崩れ落ちていくのを肌で感じた。
 そしたら、突然、工場に来訪者が。「6月にコンロの輸送を請け負ったのだがそのお金をもらっていない。7000シリング」と言う。そして、7月末に2週間、短期で雇用した門番も「2400シリングの給料をもらっていない」と言う。ハサンにすべて渡されているはずのお金である。私は、「私からはハサンにすべてお金は払っている。とりあえず、今日は彼がいないから、明日朝、彼と話し合うようにしたい」と伝えた。
 従業員たちも、ハサンが、私に300個のコンロを生産したと報告をしたことにショックを受けていた。主任が組織のお金を横領したという可能性を、受け入れることができない様子だ。私は「とりあえず、まだ、何も確定したわけではない。だから、このことは誰にも言わないで。間違っても、ハサンには言わないように」と口止めをした。
 その日、私は何度も何度もハサンに電話した。午後4時ごろ、ようやくハサンから電話が来た。「明日朝、話がしたいから、工場に来てくれ」とだけ伝えた。自分の頭の中は混乱していた。ハサンとは指導方針が違うことは分かっていたが、彼の仕事に対する真面目な姿勢には全幅の信頼を置いていた。主任になってから一度も休暇を取らずにいたし、時間外労働もいとわなかった。彼がこれまで私に話してきたことは、一体何だったのか。とにかく、彼の話を聞かなくてはならない。もしかしたら、何か誤解があったのかもしれない。こんないとも簡単に発覚できる嘘がまかり通ると思うほど、ハサンの判断力が鈍いとも思えない。その晩は色々な事が頭の中を巡り巡って、あまり寝付けなかった。

 次の日の朝、午前8時半ごろ工場Bに着くと、ハサンはいつものように主任席に座っていた。表情にいつもの笑顔がない。私は簡単に挨拶をすませ、工場外にある別室で二人きりになって話しをした。

私「先週、火曜日と金曜日に二度、コンロを配布したということだけど、それでいいのかな?」

ハ「はい。火曜日に150.金曜日に170です」

私「金曜日に、コンロを配布した数が記されていないけど?」

ハ「これまで数は記してきませんでした」

私「いや。4月も5月も記しているよ」(生産表を見せる)

ハ「私の頭の中で覚えているから大丈夫です」

私は、こんな小さい事に時間を割いている場合じゃないと自分に言い聞かせ、本題に入った。

私「従業員たちは、先週、配布したコンロは金曜日に170だけと言っている。火曜日には配布していないと言っているよ」

ハ「火曜日は勤務時間外の午後2時、別のNGOから電話でコンロを配布してくれと要請が来ました。だから、私は1人で工場に行き、1人で配布したのです」

私「つまり、火曜日、従業員が勤務を終えた時点で、150個のコンロが工場にあり、水曜日の朝にはそれがなくなっていたということで、いいのかな?

ハ「はい。」

私は、彼とのミーティングを終了させ、全体ミーティングを開いた。通訳はハサンではなく、主任代理のアデンにお願いをした。

私「ハサンは、先週、火曜日と金曜日の二回、合計320個のコンロを配布したと言っています。皆さんの意見を聞かせてください」

従業員は、皆、私と目を合わそうとしなかった。自分たちが見たことを正直に発言することの意味の重さを、彼らは十分理解しているようだった。

 1人の女性従業員が工場の外を向きながら「配布は一回だけでした。金曜日だけです」と言った。別の男性従業員も「金曜日に165個配布しただけです」と付け加えた。

 私は、内心ホットした。ハサンの働きかけで、口裏合わせが行われ、一晩で従業員たちの証言が変わる可能性も考えていたからだ。

 私は、従業員の名前を1人1人呼び、意見を求めた。皆、配布は一回だけで、火曜日に150のコンロは工場に存在しなかったと言った。

 ハサンは「彼らは私を陥れようとしているだけです!いいですよ!私がこの工場を辞めるくらい、たいしたことじゃない。別の組織で働くことだってできる」

と、言った。従業員たちは「別に陥れようとしているわけじゃない。見たことを正直に話しているだけです」と言う。

 私は、「もし、150個のコンロが工場からなくなっていれば、誰の目にも一目瞭然でと思いませんか?」とハサンに言うと、「彼らにコンロの数がわかるのですか?」と言ってきた。「彼らは文字の読み書きもできないのですよ!私とは違うのです。彼らの言っていることを信用するのですか?」と尋ねてきた。

 私は、正直、彼を罵倒したかった。特定のグループの人間の尊厳を傷つけるということに、何の罪悪感もないハサンが心底、許せなかった。彼のこのコメントで、私は、これまで抱いてきた一つの大きな疑問の答えが見つかった。なぜ、ハサンは発覚容易な嘘を平気でついたのか?それは、彼が文字の読み書きもできない従業員を心底見下し、彼らの証言が聞くに値することでないことと、本気で思っていたからではないか。

「もう、ハサンがこの工場で働くことはない」この時点で、すでに、私の腹は固まっていた。すでに10人の目撃証言という絶大な証拠はあるにせよ、集められる証拠はすべて集めた方がいい。「従業員がハサンを陥れる策略を立てた」という可能性を限りなくゼロにさせるために。

 私は、まず、火曜日に配られた150のコンロの受け取り表を見せてくれとハサンに行った。「家にあります」という。工場にあるべき物が、なぜ家にあるのか、理解に苦しむが、もうそんなことはどうでも良かった。タクシーを呼び、ハサンとアデンと3人で、ハサンの家に向かった。普通ならタクシー運転手と値段交渉をするところだが、そんな事に時間を割いている精神的余裕は私にはなかった。私は、ハサンが誰とも連絡できないよう、携帯電話を取り上げ、後部座席に彼と隣り合わせに座り、アデンを助手席に座らせた。

 ハサンの家に着き、黒いノートを私は手渡された。そこにはたくさんの名前が書いてあり、最後の日付は6月27日だった。ハサンはそのリストにある90人近くの名前は、火曜日に配布された人のリストだと主張した。私は「日付がないけど?」と尋ねると、「その日は、とにかくたくさんの人を1人で相手にしたので、わけのわからない状態でした」という。

 私は「では、コンロを受け取った人たちの所へ連れて行ってくれ」と言い、タクシーを再び走らせた。そこでは、何軒かの家を回ったが、誰も火曜日に受け取ったという人はおらず、90人近くの名前を読み上げても、誰一人、知っている者はいなかった。横の連帯が強いソマリア人コミュニティーで、近所に住んでいる人の名前がわからないということはありえない。

 その地区の代表の所へ行き、90人のリストを見せても、首をかしげることしかできなかった。ただ、この代表は、「60個のコンロは火曜日に受け取った」と証言した。「ただ、今は少し忙しくて、そのコンロをあなたに見せることはできない」と言う。私はハサンに、「他の90個のコンロは?」と尋ねたら、「もうあの日は大変で、フォローすることはできません」と受け取った人の名前も住んでいる所もわからないという。

 私はハサンに伝えた。「私は、あなたが組織のお金を横領した疑いがあると思っている。上司と相談して、君のこれからのことを考えるから、それまで自宅で待機していてくれ」。

 ハサンは「私が嘘をついていると言うのですか?今はラマダンで、断食をしている。誰も嘘を付けるわけがない。私は、これまで組織のためにすべてをかけて働いてきたのです!」と言った。「ラマダン」とはイスラムの断食の月の事で、約一ヶ月間、日の出から日の入りまでは飲み食いすることを慎み、飢えに苦しむ人たちに思いをはせる時間なのだという。

 私は、彼の言っていることを無視し、タクシーで彼の家まで送って行った。アデンとハサンが何やらソマリア語で言い合っているが、私は、上の空だった。

 工場にアデンと共に着き、アデンは「疲れた!」と座り込んだ。私は、従業員に「これからどうしよう?」と尋ねた。

 従業員たちは、ハサンは工場を解雇されるべきで、新しい主任は、自分たちの中から選出されるべきだと言った。私は、民主的な形で主任が選ばれれば、彼らも自分たちの下した決断に責任を持つだろう。「君たちの好きなように、主任を選んでくれ。それまでは、とりあえず、アデンが代理として主任の役割をしてください」と頼んだ。

 私は、早速本部に事の経過をメールし、本部はハサンを解雇することで全会一致だった。ハサンと出会って3カ月足らず。彼は小さなミスはたくさん犯してきたし、何度か主任を代えるべきかと考えたこともあった。しかし、「いや。簡単にあきらめちゃいけない。自分の常識はここでは通用しないのだから。ハサンに一つ一つ教えてあげれば、いつかは立派な主任になれる」と自分に言い聞かせてきた。その自分の思いは、いとも簡単に裏切られ、私は人間不信、いや「難民不信」に陥った。

 あーあ。ハサンに解雇通達するの、気が重いなあ、、、、。
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元メータオ・クリニックのAikoです。ブログを読んでいて私も気が重くなりました。職場の人間関係を緩和させられる役割をseventh starさんに現地の人は期待しているのではないかなと思います。上にたつ者はつらい決断をしなければいけないときもありますが。。。今後の展開が気になります。またブログお邪魔させてください!

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AIKOさん。ありがとうございます!本当、従業員の人たちの役に立てたらいいのですが。これからもアドバイスなど頂けたら幸いです。
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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