男性が参加できないお茶会とは?


 「アゼルバイジャンで暮らす外国人のためのガイドブック」という英語本がある。どこに行けば何が買え、家、病院、学校探しのコツから、サッカーやテニス、チェスやマージャン倶楽部まで、どこで何が開催されているかが詳細に書かれている。「友達を作るには」という章もあり、そこには、誰でも参加できる「歴史を学ぶ会」、読書会、ボランティアグループなどが紹介され、「毎週金曜日午前10時半からは、誰でも気軽に参加できるお茶会がある」とも書かれていた。平日夜や週末は家族の時間にしたい主夫にとって、平日昼間に自分のネットワークを広げる絶好のチャンスだと思い、本に書かれている電話番号に連絡してみた。

私:私はヨーコーと言いますが、アンさんですか?
ア:はい、そうですが。

ブリティッシュアクセントの英語で、40-50代と思われる女性の声だった。

私:ガイド本でアンさんの電話番号を見つけたのですが、毎週金曜のお茶会は明日もあるのでしょうか?

ア:、、、、、。ありますが、、、、。

アンは、何かを躊躇っているようだった。

私:明日、参加してみようと思うのですが。

ア:ええ、、、。ただ、参加者は全員女性なのですが。

私:誰でも参加できるとガイドには書いてあるのですが。

ア:ええ。まあ、女性限定というわけではないのですが、15人くらいの女性の中に、男性1人というのも心細いかなと思いまして。一度、男性1人が参加したことがありましたが、あまり、楽しめなかったようで、それ以降は来ませんでした。あなたはアゼルバイジャンで何をしているのですか?

私:妻が国連で働いています。

ア:そうですか。明日は、私は参加できないのですが、とりあえず、行ってみてください。最初、皆、驚くかもしれませんが、「国連で働く妻の連れ合い」と紹介すれば、大丈夫だと思います。私たちはこの他にも、国際女性クラブというのを主催しておりまして、それに参加していただいても大丈夫ですよ。何なら、情報をすべてメールに送らせていただきますね。

 アンから送られてきた金曜のお茶会のチラシには、「外国出身の女性、誰でも大歓迎」とあった。ガイドブックには「誰でも」と書かれていたのに、なぜ?

 アンの応対からして、このお茶会に男性の出現は想定されておらず、私が行けば、かなり場違い的な雰囲気に包まれる可能性がある。

 私は、次の日、ハングル講座を終え、午前10時40分ごろ、お茶会の会場に足を運んだ。会場は、バクー市中心部の噴水公園にあるカフェ.4階建てのビルの屋上外にソファとテーブルが連なっている。

 ドクン、ドクンと胸の鼓動がなる。路肩爆弾が爆発する難民キャンプにいたときでさえ、こんな緊張感はなかった。

屋外テーブルには誰もおらず、カフェの入り口まで歩くと、ガラス越しに、40―50代と思われる白人女性十人ほどが、中でお茶しているのが見えた。店内には彼女たちしかいない。間違いなく、これがお茶会だ。無論、彼女たちは、私に気づいていないし、私が、この会のために来ているなんて思っていないだろう。今なら、引き返すことも可能だ。60を超えていそうな婦人も数人おり、明らかな世代間ギャップにもとまどった。白人の中年女性の中に、1人アジア人の30代男性が混じるのが想像できず、少し、入り口近くで立ち止まり、深呼吸した。一人前の主夫になるには、越えなくてはいけない壁なのだと、自分に言い聞かせ、カフェに入った。

作り笑顔で女性たちのテーブルに近づいた。まず、40代くらいの白人女性と私と目が合い、笑顔で返してくれた。私が「ハーイ」と言いかけると、それまで後ろ向きに座っていた別の白人女性が振り向き、「ヨーコー!」と言う。3週間ほど前、妻を通して知り合ったオランダ人のゲルマだ!まさか、知り合いがいるとは思っておらず、私は、思わず、ゲルマを指差し、「オー!」と声をあげた。おかげで、ゲルマの周辺に座っている女性たちが、「こちらへ座ったら」と、私のスペースを作ってくれた。

ゲルマの夫がアゼルのヨーロッパ連合代表部の職員で、「インターネーション」という、新天地で暮らす外国人同士の出会い系ネットワークを通して、ゲルマと私の妻が知り合い、夫婦二組で夕食を共にしたのだった。

ゲルマが周りに座る女性たちを紹介してくれた。夫が石油関連会社で働くカナダ人女性。夫がBP(英国石油会社)で働くイギリス人女性。(アゼルは国内総生産の五割が石油と天然ガスの資源大国)夫が四つ星ホテルの支配人の南アフリカ人女性、夫がドイツ人外交官のカザフスタン人。私が、アンに電話し、驚かれたことを伝えると「そんなの気にすることないわよ。誰でもウェルカムだから」と言う。孫が5人いるという英国人女性からは、「2年もこの会合に来ているけど、男性は初めてみるわ。よく来てくれたわね」と言ってくれた。

アゼルの前はどこにいたか聞かれ、「ケニア」と答えると、「いいところね!楽しかったでしょう?」と言われ、「、、、、。私は、難民キャンプにいたので、楽しいということはありませんでした」と答えると、「難民キャンプ?どんなところなの?どうやって生活しているの?」などと、色々と質問してくれた。キャンプには大きな市場があると言うと「その資本金はどこからくるの?店を経営するとき、税金はどうしているの?」などと、友人からも聞かれないような専門的な質問が飛び交った。

話の回転は速く、その後、カナダ人がタイやビルマへダイビングに行った話をし、イギリス人が、横断できない道路を横断してアゼル警察に罰金を払わされた話をし、カザフスタン人の登山体験など、多岐に及んだ。私も、週末にアゼル北部に旅行に行くことや、ケニアで登山してヘリに救出された話などをして盛り上がった。

それでも、電話でアンの戸惑った声が頭に残った。私が南アフリカの女性に、いつごろアゼルへ来たのかなど色々尋ねて、話の流れに自分を入れてもらおうとしたのだが、2、3分で彼女が反対側のグループへ顔を向け、そちらの話題へ入っていってしまった。普段なら気にならない行為でも、「私が男性だから避けられているのか?」などと感じてしまう。

気づいたら、時間は正午を過ぎ、支払いをして、店外へ出た。ガイドブックには「お茶会の後は、ランチへ出かけることが多い」と書いてあった。しかし、私は、カフェを出た瞬間、肩の力が抜けるような開放感があり、真っすぐ家へ帰った。

ビルマの話題が出た時、自分のビルマ難民とのかかわりについて話そうかと思ったが、彼女たちが「あそこでのダイビングは凄いわ」などと別世界の話に花を咲かせていたため、切り出すタイミングを逸してしまった。

電話でアンが、「男性も来たことがあったけど、次からは来なくなった」と言っていたが、その男性の気持ちが少しわかる気がする。「平日の昼間から他人の妻と遊んでいる夫」みたいな目で見られるのも嫌だなという思いがあった。

「専業主夫」の居場所のなさを痛感し、次のお茶会に行こうかどうか迷っている時、一通のメールが届いた。

「アンから君のアドレスをもらいました。私も、妻が働いていて、君と同じような立場にいます。もしよければ、今度、コーヒーでも飲みませんか?ハンズ」

アンが、私のことを気にかけて、別の専業主夫に連絡してくれたのだ。「ハンズ」という名前から、ドイツか、その周辺国出身の男性であることを想像し、私は、早速、ハンズに電話してみた。

私:メールを頂いたヨーコーです。
ハ:ああ。元気かい?
私:はい。コーヒーのお誘いありがとう。いつなら都合がいいですか?
ハ:明日でも、明後日でも大丈夫だよ。
私:じゃあ、明日の月曜日、私のハングル講座が12時半に終わるから、その後はどうですか?
ハ:いいね。それでは、昼ごはんを一緒にしよう。
私:わかりました。じゃあ、12時45分に、噴水公園で。
ハ:噴水公園のどこかな?
私:マクドナルドの前はどうでしょう?
ハ:それなら簡単だ。それでは明日。

 低いトーンの声は、私より一世代上の感じをさせた。英語はネイティブ並みで、外国生活が長いことがうかがえる。アゼルバイジャンという辺境地で、同業者を見つけたうきうき感と、変な人だったらどうしようーという、不安感が交錯した。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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