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メタボ主夫にはならない


 主夫会は木曜朝9時から、私の家から徒歩10分のカフェであった。9時に歯医者の予約があった私は、9時半ごろに到着。店内の黒いソファーにハンズら白人男性4人が座っているのが見えた。

 まず、ハンズに「ハーイ」と握手をし、その後、1人1人と握手を交わした。BP(英国石油会社)でワイフが働くアメリカ人のロッドニ―とスコットランド人のグリン。ワイフが英語教師をしているイギリス人のジョン。皆、40代から50代くらいだろうか。ロッドニ―は灰色のフリースに野球帽子、ジョンは厚いあごひげに黒いダウンベスト、グリンはリーボックの黒ジャージ姿。ブランド品のコート、サングラス、アクセサリーを身に付ける人が多かった先週の「お茶会」とは様変わりで、リラックスした雰囲気だ。

 私と同じ時期にアゼルバイジャンに来たロッドニ―が、滞在6年になる古株のジョンやグリンに「今度、デンマークに旅行に行くのだけど、どの航空会社がいいかな?デンマーク人で知り合いはいない?」などとアドバイスを求めていた。

 ロッドニ―は「アメリカでは映像作成の仕事をしていたけど、今は、失業者になったよ」と苦笑いをしながら、「ここでは、フリスビーゴルフをアゼルの子どもたちに教えたい」と言いだした。フリスビーゴルフは、ゴルフの球の代わりにフリスビーを投げ、ホールの代わりに、カゴに入れるというゲームで、私も米国滞在時にやったことがあった。「でも、カゴはどうするの?」と尋ねると「今、アメリカから郵送しているところ」とかなり本格的。「とにかく、何か自分ができることを見つけないと」とワイフに付き添ったために仕事ができなくなったもどかしさを吐露した 。

 私が「テニスをやる人はいる?」と尋ねると、グリンが「やるよ」と言う。「じゃあ、今度、平日の昼間にどう?」と誘うと「いいねえ」と電話番号を交換した。とても日常的なことに思えるが、先週の「主婦会」では、男女の壁が立ちはだかり、誰の連絡先も聞く勇気が出なかった。一度、アメリカ人男性と韓国人女性カップルと私たち夫婦で夕食をしたことがあり、韓国人女性が「昼間は彼が働いているから何もすることがない」と言った。そこで、私が「今、ハングル習っているんで、今度、話し相手になってください」と言ったら、男性の表情が若干強張ってしまい、結局、私は彼女の連絡先さえ聞かなかった。だから、グリンみたいに気軽に平日の昼間にテニスができる人がいるのはとても嬉しい。

 ジョンは、ロンドンで不動産コンサルタントをやっていたが、ワイフが英語を教えていたアゼル人から「私の国で英語を教えてください」と誘われ、6年前に2人の子どもを連れてアゼルに来た。資源大国のアゼルでは、BPなどの欧米メジャー会社が一番人気な若者の就職先になっている。先日出会ったアゼルの大学生は「BPで働きたいから、子どものころから家庭教師をつけて英語を学んできた」と言っていた。地下鉄のホームには英語学校の大きな広告が張られている。ジョンは「未知の世界だし、イギリスで英語教師やるよりも、待遇が数段良かったから、来ることに決めた」と話した。

 「女性に付いて行くことには何も抵抗がなかった?」と尋ねると、ジョンは「まあ、最初は一年だけの滞在のつもりだったから、リフレッシュするには良い時間かなと思った」と言う。しかし、ロンドンよりも生活費がかからない上、給料が高いことから、「貯蓄の増え率が上がったし、子どもたちもここが好きみたいだし、なかなか戻る決心ができなかった」と主夫歴6年になった経緯を明かした。

「毎日どんな日々を過ごしているの?」と聞くと「買い物かな。6年前なんて、今の様にスーパーがどこにでもあるような環境じゃなかったから、食材の購入だけでも、結構時間がかかったよ」と言う。(アゼルは、石油とガスの輸出で、世界でも有数の経済成長率を誇っている。1人当たりの国民総所得は約1万ドルで、2003年に比べ約10倍)

 6年も主夫をやるつもりはなかったけど、妻の待遇が良いことから、現実的な選択を取ったジョンの気持ちはよくわかる。おそらく、他の3人も世界最大規模の石油会社で働く妻の給料が良いということが主夫になった一因なのではないだろうか。

私も、主夫を長年やろうなんて思ってもいないし、どこかの段階で働けたらいいなと思う。しかし、そのためには、妻よりも良い待遇の仕事を見つけなければいけないのだが、納税義務がない国連職員の給料は、毎日新聞時代の私の給料とは比べものにならない。それこそ、ベストセラー作家にでもならない限り「俺についてこい」とは言えないだろう。

 改めて主夫一同を見渡すと、変な傾向に気づく。主夫歴2ヶ月の私とロッドニ―はやせ細だが、主夫歴2年のハンズは少しふっくらし、6年のジョンのお腹は明らかなメタボだ。これはひょっとしたら、「主夫メタボ―コース」みたいなものがあるのかと不安になった。

ハンズが「明日の昼、開業直前の高級ホテルでランチの試食会があるのだけど、行かないか?」と言ってきた。私は思わず「え?試食会?無料で食べられるの?」と聞き、「ああ。無料だ」とハンズは得意げに言い、ジョンと私は「行く行く!」と声を合わせた。

その瞬間、「主夫メタボコース」の修了者ジョンのお腹が再び私の視界に入り、「主夫会は参加するけど、このコースの受講生にはならない」と心に決め、午後はジムに行くことにした。
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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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