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解雇通知

ハサン(仮名)の横領発覚から二日後、私は工場Bがあるキャンプへ向かった。ハサンに解雇通達をするために。人の人生を大きく左右する通達をするということに少し緊張し、「逆ギレ」でもされたらどうしようという不安もあった。昨年、ある組織で働いていた従業員が上司に暴力をふるって解雇された次の日、その組織の車に石が投げられた事件があった。暴力のターゲットは私だけでなく、横領疑惑の絶対的証拠となった「目撃証言」を提供した他の従業員たちに及ぶ可能性もあるのだ。
 午前7時半からハサンの携帯に何度電話しても出ない。午前8時半には工場に着き、他の従業員に聞いても、ハサンの居場所はわからないという。仕方なく、主任代理のアデンとハサンの家に歩いて向かおうとしたところ、ハサンから電話があった。「今から国連の事務所で会いたい」と私が言うと、「わかりました」と暗い声で返答があった。場所を工場ではなく、国連の事務所にしたのは、そちらの方が数人の警備員がいるため、万が一の時に備えやすいと思ったから。
 工場から約1キロ離れた国連事務所まで、「ピキピキ」と呼ばれるバイクタクシーで行き、ハサンを待った。ハサンは約5分後、同じようにバイクタクシーに乗ってやってきた。いつもの様にイスラム教の円形の帽子をかぶっている。
 事務所の外壁に面して細長い椅子を置き、そこに隣り合わせになって座りながら、話しを始めた。

私「家族は元気ですか?」
ハ「はい」
私「本部と相談した結果、君を解雇することになった」
ハ「、、、、。解雇?どんな理由があってですか?」
私「組織のお金を横領したこと。自分が配布したという150個のコンロについて説明責任が果たせていないこと」
ハ「だから、配ったと言っているでしょう。これは、他の従業員たちが仕掛けた策略です。特定の部族を排除しようとしているのです!」


 「特定の部族」という彼の発言は、20年以上続くソマリアの内戦が泥沼化した事を象徴するかのようだ。アフリカで唯一、国名と主要言語名が一致する国・ソマリア。皆、敬虔なイスラム教徒で、同じ言語・文化・習慣を共有するが、ソマリア民族は、日本の昔の「伊達家」「足利家」の様に、様々な部族・支族に枝分かれしており、主要部族間の権力闘争で内戦が勃発したとされている。
 先日、ハサンが他の従業員を前に「文字の読み書きもできない人たちの言っていることを信じるのですか?」と発言した時、ハサンが従業員に対してではなく、何かもっと別の大きな物に対して「憎しみ」を抱いているように感じた。それが少し気になり、アデンと二人きりになった時、私は「ハサンの部族は何?」と尋ねたら、アデンは少し不意をつかれた様に「彼の部族はこの辺では少数派なのです」と答えた。ソマリアでの部族間にある不信感が、キャンプ内に持ち込まれても全く不思議ではない。むしろ、ソマリアで殺し合っていた人たちが、ケニアに来て平和に暮らすことができるとしたら、そちらの方が驚きだ。
 無論、他の従業員が、ハサンが少数派だから追い出そうとしたとは思っていない。ただ、戦争から逃げてきた人たちの心の奥底に横たわっている、とても複雑な何かを垣間見たような気がした。

私「配ったコンロを一つもあなたは私に見せることができなかった。解雇するにあたり、自転車と身分証明書を返してほしい」

自転車は、7平方キロメートルほどあるキャンプ内を従業員が移動するのに使うために買ったのがだ、彼がずっと私物化してきた。私が口頭で注意し、文書で「組織の物は家に持ち帰ってはいけない」と通達したにも関わらずに。

ハ「身分証明書を返すのなら、推薦書を下さい」

「推薦書」とは、組織を辞める時に通常もらう物で、キャンプで次の就職先を見つける時にとても役立つものだ。しかし、お金を盗んだ人を推薦する組織などあるわけがなく、私は「冗談、顔だけにしろ!」と叫びたくなったが、「それはできません」と冷静に即答した。

ハ「自転車ですが、私は、これまで自分のお金で自転車を何度も修理してきました。そのお金をもらわなければいけません」

私「これまで仕事に関する費用が出た時はすぐ要求してきたのに、自転車修理のお金に関してはなぜ今になって報告するのですか?

ハ「自転車は『私の物』だと思っていました」

私「あれは組織のお金で買った物です。口頭でも伝えてきたし、文書に書いて説明もしてきたはずです」

ハ「もう何度も修理して、修理代が3000シリング(3000円)以上もかかりました」

私は、もう、彼の顔をこれ以上、冷静に見ることができなかった。

私「短期的に雇った門番に払うお金はどうした?」

ハ「別の話をするのはよしましょう」

私「とにかく、今週末までに、自転車と身分証明書が工場に戻っていなかったら、警察に通報させてもらう!」

私は、手で彼を追い払うように「もう私の前から消えてくれ」と伝えた。

ハサンは「ここまで来るのにタクシー代が100シリングかかりました」と言ってきた。「組織から盗んだお金を使ったら」と言いたい所だったが、私は、これで彼の顔をこれ以上見ることがないなら安い金額だと思い、ポケットから100シリング札を出した。彼が、国連の敷地内で知り合いと何やら話し始めたから、私は、警備員に「彼との話はもう終わった!彼を出してくれ!」と伝え、ハサンは無言で門から出て行った。

 私はそのまま工場に戻り、従業員たちにハサンに解雇通知を出したことを伝えた。そして、ハサンがもし報復行為に出るようなことがあったら、すぐに私と警察に連絡し、自転車などについて彼に挑発するようなことは避けるよう指示した。

 私が工場長に就任した時には考えられないことだった。ハサンは、前任者のJから全幅の信頼を得ていた。彼が主任になってから生産量が上がり、従業員の勤務態度も良くなったという。それが、就任後3カ月にもならないうちに、解雇することになってしまうとは。

 おそらく、彼が自転車と身分証明書を返すことはないだろう。合計2万5000シリングの横領。給料約4カ月分にもなる。工場の外では、ソマリアの同胞たちが栄養失調で亡くなっている時に、その人たちを一番支援できる人たちが、組織からお金を盗んでいる。そのお金は、ソマリアの人たちに向けて送られた支援金である。人々の善意に対する背信行為、同胞の苦しみに対する無関心さ。一体、ハサンはなぜこうなってしまったのか?

 彼の背信行為は、私たち支援団体に、とても複雑な問題をつきつけているような気がした。

 ちなみに、私も会社員時代、会社の携帯電話で妻【当時は彼女】に毎晩電話して、上司にその分のお金(5万円)を請求されたことがある。いろいろ、カッコつけて書いてみたものの、ハサンも私も、そんなに変わらないのかもしれない(涙)。(無論、私はハサンと違って自分の失態を認め、謝罪し、お金は戻しましたけどね!)
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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