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生まれて初めての無料ステーキ

無料ステーキ
 ホテルの試食会は12時半と聞いていたので、12時15分くらいに着いたら、すでにハンズとジョンがロビーに座っていた。ホテルは「フェアモント」という北米を中心に世界進出する高級ホテル。

ホテルは、バクー市中心部にある「フレームタワー」(火の塔)という、30階建の炎の形をした三つのビルにある。アゼルバイジャンは「火の国」を意味し、2007年に約350億円の予算で建設が開始されたフレームタワーは、同国の経済発展の象徴的存在だ。夜になると赤いライトが建物の側面に照らされ、闇の中に炎が燃え上がるようになる。

完成間近の建物に入ると、これまで見たことのない高さの吹き抜け天井で、シルバーのシャンデリアに圧倒される。アゼルバイジャンの石油バブルで、ヒルトン、フォーシーズン、マリオットなどの大手ホテルがここ数年でバクーに開業した。フェアモントも今夏の開業を前に、試食会を開き、ホテルの支配人と知り合いのハンズが招待されたのだ。

 ジョンは前日同様、あごひげは健在だったが、もみあげとあごひげをつなげていた頬にあった毛はきれいさっぱり剃られていた。さらに、茶色の背広を着用し、「あれ?今日は見違えるね」と言うと、「一応、高級ホテルの試食会だからな」と、自慢のあごひげをさすりながら答えた。

 私も、前日のポロシャツ姿から一転、白いワイシャツにオレンジのカーディガンを着た。少しして、ロッドニ―が到着。グリムは別件の用事で来れず、4人でレストランへ入った。受付の女性が「わあ!男性の方たちに来ていただいて、とても嬉しいです」と挨拶。店内を見回すと、レストランは端から端まで「マダム」たちで占領されていた。50人はいるだろうか。先週のお茶会で見た顔も何人かいる。今日は金曜だから、おそらく、午前のお茶会の後、そのままこちらへやってきたのではないだろうか。

 私たち4人は、隅の窓側の席を陣取った。「あの4人は仕事していないのかしら?」という目でマダムたちから見られるのかと冷や冷やするが、ハンズは全く動じた様子がなく「私たちがいなければ、ホテルは、男性の視点での評価を聞くことができないのだから、貴重な存在だよ」と胸を張る。メニューには、スープやサラダ各種、サーモン、ジャンボエビ、サーロインステーキなどがあり、「これ、いくつオーダーしても無料なの?」と思わず、聞いてしまう。

アゼルバイジャンの1人当たりの国民総生産は1万ドル(約100万円)と、それほど高くないが、石油バブルのおかげで、高級ホテルやレストランは、すべて「オイル富豪」をターゲットにしているため、おそろしく高い。日本料理屋の味噌汁一杯が700円、ご飯が500円とかする。ボーリングは一ゲーム1100円。(その代わり、一般の庶民向けのものは安い。バスや地下鉄は何キロ乗ろうが一回20円だし、パンは私の胴体サイズのものが100円)。

「こんなところ無料で来たなんて言ったら、妻に怒られるよ」と私が言うと、ジョンは「怒ったら『あなたが家の大黒柱でしょ』って言ってあげなよ」(笑)と言い、ハンズは「写真見せてあげればいいじゃないか」と適当だ。

 「午後は車で子どもを迎えに行かなければいけないから」とジョンとハンズは、お酒の飲めない私と同じクランベリージュースを頼み、ロッドニ―はコーラ。おじさん4人が高級レストランでジュースで乾杯か、、、。

 ロッドニ―は「アスパラガススープなんて生まれて初めて食べたかも」と感動し、私のステーキも、口の中で肉の脂身が広がる感じで、思わず目をつぶってしまった。生まれて初めての無料ステーキ。主夫最高!

 食後のデザートにはプリン、チョコレートケーキ、アップルタルトなどがあり、どれも甘すぎず、美味しかった。ロッドニ―は、デザートが出る前に「やばい!子どもが幼稚園を終える時間だ。迎えに行かなきゃ」と席を立った。2児を抱えるジョンも、「あと一時間くらいで迎えに行かないとな」と、しっかり仕事は忘れていない。

 デザートの皿を引き下げると、ウェーターが試食の感想を聞くためにアンケート用紙を持ってきた。テーブルに一枚だけだったため、私は「私とジョンが同じ意見だとは思わないから、各自に一枚ずつにしてください」とお願いし、ジョンはケラケラ笑っている。

 アンケートは、味、サービス、雰囲気などを10段階評価する欄があり、その下に「サービスは記憶に残るものでしたか?」「何か足りないものはありませんでしたか?」などの質問がある。

 ジョンは、神妙な表情で、一つ一つ記入していた。「記憶に残るもの」の項目には「残らなかった」と記していたので、「なんで?」と尋ねると、「記憶に残るサービスっていうのは、スープをズボンの上にこぼされた時のサービスを言うものだ」と返答し、さらに「足りないもの」の欄には「男性客」と記していた。

 私は、ジョンと別々の紙にして正解だったと胸をなでおろしたと同時に、無料で試食させた対価を受け取ることができなかったホテルに深く同情した。

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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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