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日本語がわからなくても本は書ける

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私が本格的にものを書き始めたのは、10年前。タイの難民キャンプに行った時だった。20年近くある難民キャンプに10万人以上の難民が暮らしている現実が受け入れ難く、そこで暮らす人々との会話があまりにも刺激的で、自分の胸の内だけに留めておくことができず、家族に読んでもらおうと、パソコンに向かい始めた。その文章が、東京のビルマの民主化支援団体のニュースレターに掲載され、「伝える」醍醐味を実感した。出版社にツテがある母親が、その文章を売り込み、2009年に出版された。17ページのあとがきを、なぜか私の母親が書くという、奇妙な本で、明らかに、母親におんぶにだっこされた出版だった。

毎日新聞に入る時も「難民の現状を紙面で伝えたい」と面接試験で言ったものの、日本語教育が中学で終わっている私の日本語知識は乏しく 、最終面接直前に配られたアンケートで「座右の銘」の意味がわからず、困り果てた。試験官に「『ざうのめい』ってなんですか?」と尋ねると「自分で考えてください」と言われた。「自分で考えられないから聞いているのです」と言おうとしたが、選考過程に悪影響が出たらまずいと思い、やめておいた。

そのアンケートは面接の待合室で配られ、他にも数人、面接待ちの受験者がいた。アンケート配布前までは、「緊張するねー」「他にはどんなところ受けているの?」などと、仲良く会話をしていたから、もしかしたら、「ざうのめい」の意味を教えてくれるかと思い、彼らに目線を向けた。そしたら、偶然か必然か、全員、アンケートから目を離そうとしなかった。私が試験管に質問した時は、間違いなく、こちらに目線があったにも関わらずにだ。「せっかく最終面接まできたのに、変人と関わって、落とされたら困る」とでも思ったのだろう。人間とは無情なものだ。

結局、「ざうのめい」は空欄で出し、幸い、面接でそれに関する質問はなかった。適当に「犬」とか書こうかと思ったが、やめといて正解だったと、後からわかった。

こんな私が、毎日新聞に合格したのは奇跡としか言いようがない。

そんな奇跡を起こして入った毎日新聞を3年半でなぜ、辞めたのか?難民問題を書きたくて入ったのだが、入社半年後、私はNPOや人権担当ではなく、警察担当を希望していた。 殺人事件などは世間の関心も高く、警察官は、一番、情報を取ってくるのが難しいことから、「事件記者」は新聞社でも花形的存在。「海外の支局に行きたかったら事件で特ダネ書け」と上司から言われ、実際、難民救済キャンペーンでアフリカなどに取材に行く記者は、警察や検察を担当して活躍した記者が多かった。自然と、「俺も、事件もので特ダネを書かなくては」と思うようになっていった。

記者2年目になると、「最低月に一本は全国版に記事を掲載する」と勝手に自分で自分に重圧をかけた。(地方支局の記者は、全国版に何本独自記事を掲載できるかで力量が問われる)いつのまにか、私は、入社当時抱いていた「難民の現状を伝えたいから書く」という原点を忘れ、「全国版に載せたいから書く」という態度になってしまい、取材対象者と十分な意思疎通をとらず記事を掲載し、気分を害してしまうことまであった。

 「自分が本当に書きたいと思うことを、書けるようになりたい。自分が心から感動したことを、他の人に伝えられるようになりたい」。2009年9月、毎日新聞を退社し、2010年3月、アフリカの世界最大の難民キャンプの国連事務所に入った。(続く)

(注: 伝えたいものを伝えられなかったのは、あくまで、私個人の問題、人間の弱さとか記者としての非力さとかで、毎日新聞という組織に問題があったということではない。事件記者が花形になるのは、警察組織で刑事が花形であるのと同じこと。毎日新聞は、記事の書き方を一から教えてくれた恩人であり、退社して3年半たった今でも、元先輩や同期たちから、さまざまな助言を頂いている)
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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