スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

主夫の朝は忙しい


 主夫の朝は大変だ。

アゼルに来てから目覚まし時計をかけて寝ることのない私だが、なぜか、ほぼ毎日朝6時半から7時ごろ、自然と目が覚める。朝に弱い妻は、私が寝室にある浴室で、トイレを流したり、顔を洗っても、ベッドの上でピクリともしない。台所に行って、カリフォルニア米3合をゆすぎ、炊飯器にかけてから、パソコンで朝日新聞を読む。本当は毎日新聞の方が好きなのだが、知っている元同僚の署名記事を見ると、変な嫉妬心に駆られてしまう。

 一通り読み終えた7時半ごろ、妻がトイレに入る音が聞こえる。再び台所へ行き、鍋にお湯を沸かす。先日、妻の家族が住むカンボジアを訪れた際に仕入れた煮干しと昆布を鍋に入れる。

 毎週火曜日に中国人から購入するモヤシを冷蔵庫から取り出し、水で洗う。鍋が沸騰して数分してからモヤシを入れ、アゼルで市販されている日本の味噌をお湯で溶かしていれる。普段、味噌を売るスーパーは数軒あるが、最近、何度足を運んでも、品切れ状態。「後、何回、味噌汁を作れるだろう」と考え込む。

 昨日の昼ご飯に作った麻婆豆腐をフライパンで温めなおす。さらに、冷蔵庫から、タッパに入った「あんかけ豆腐ステーキ」を取り出す。これは一昨日の夕食に私が作り、昨日、妻の弁当にして持たせたのだが、あいにく妻の上司が昼ご飯を御馳走したため、会社で食べることができず、そのまま家に持って帰って来たものだ。1日中、常温で放置されたため、私は念のため、臭いをかいだ。ちょっと変な臭いがしたが、せっかく作ったものを捨てる気にもなれず、電子レンジで温めた。

 食卓に、ご飯、モヤシ味噌汁、豆腐ステーキと麻婆豆腐が並ぶ。私は適当に食べ始め、妻も洗面と着替えを終わらせて台所へ来る。「麻婆豆腐、弁当に持っていって。それで、朝ご飯は、豆腐ステーキを食べて」と妻に伝える。妻は「ステーキ、まだ大丈夫なの?」と聞くが、「大丈夫だよ。大体、私がせっかく作った弁当を食べなかったスージンが悪いでしょ」と責める。スージンは「それはもう説明したでしょ。上司が私の知らない間に昼ご飯を持って来てくれたのだから、食べないわけにはいかないでしょ」と反論しながら、タッパに麻婆豆腐とご飯を詰める。

 食卓での会話はもっぱら、5月の週末の予定。「28日が祝日だから、27日に休みをとれば4連休。どうする?」「ドバイでも行って、ビーチでリラックスしながら美味しい日本料理でも食べるか?」「11、12日に○○さん夫婦とどこか行こうと計画してたけど、向こうの都合が悪くなって、18、19日に変えられる?」などなど。

 そしたら、妻が席を立ち上がり、「麻婆豆腐を食べたい」と電気コンロ台へ向けて歩き出した。しかし、豆腐ステーキがまだ手付かずのまま残っている。「できたら、古いものからなくしてほしいのだけど?」と言うと、「あなたも麻婆豆腐食べているじゃない」と動じない。「私は、昼ご飯に麻婆豆腐が食べれないから今食べているだけ。あなたが持ち帰って来た豆腐ステーキを、責任持って食べてほしい」と言う。結局、妻はステーキを食べず、お皿を片付け始めた。私は、「豆腐を手に入れるのだけで大変な作業なのに、なんで、こうやって無駄にするの?」と問いつめる。「食べたくないのだから仕方ないでしょ。あんかけがなくなったから、豆腐に味がないし」と言う。「醤油でもかけて食べればいいじゃん」と言うが、「美味しく食べたいの。そんなに無駄にしたくないなら、あなたが食べたらいいじゃない」と言う。

 私は、仕方なく、自分が食べられる分は食べ、少し残った豆腐ステーキはゴミ箱に捨てた。 麻婆豆腐を作ったフライパンをコンロから流しに移そうとした瞬間、想定外の物が私の視界に入った。フライパンに麻婆豆腐の豆腐が二切れだけ残っているのだ!あんかけ豆腐ステーキは1日放置されたから食べたくない気持ちはわからなくもなかったが、麻婆豆腐の豆腐を二切れだけ残していく行為に弁解の余地はない。私は、感情の抑制が効かなくなり、言語をハングルから英語にスイッチした。

私:なんで、豆腐二切れだけフライパンに残っているの??弁当に持っていけばいいじゃん?なんで、人が作ったものをこうやって祖末にするの?もっと、作った人の気持ちとか考えてくれないかな?

妻:そんな声を上げる話じゃないでしょ。弁当に入れればいいんでしょ。(タッパを持ってきて、私が、豆腐をその中に入れる)

私:いつも、ちょっとだけ残すの止めてほしいんだよね。作る方の気持ちを考えてよ。

妻:「いつも」っていつ?

私:いつもだよ!

妻は、そのまま台所を出て、出勤の準備を始める。私は、ぶつぶつ言いながら、皿洗いをする。ケニアに居る時は、皿洗いを食事の直後にすることなんてなかったが、ここに来てから、直後にした方が、汚れが落としやすく、効率的だということを学んだ。

皿洗いを終えて、私がいつもの様に、14階の部屋の窓を開けて、外を眺めながら歯磨きをしていると、スージンが「じゃあ、行くね」と声をかけてくる。

私は、玄関へ行く。「クリーニングに出すものはどこだっけ?」と尋ね、「これ」とソファーの上に置かれた3着のコートを妻が指差す。私が「印刷物忘れないでね」と妻に念を押す。家に印刷機がないため、印刷はもっぱら妻にメールで送って会社でやってもらっている。「今日、何か買っておくものはないね?」と妻に聞き、「うん、特にない」と妻はドアを開け、出て行く。

15分後、私は、コート3着を持って、毎週木曜朝に開かれる「主夫会」に出席するため、出かける。

それにしても、料理したものを残されるのがこれほど腹立たしいということとは全く知らなかった。子どものころ、味噌汁に入ったワカメやキノコを残し、母親が「いやねえ」とこぼしていた気持ちが、今になってよくわかる。お母さん、ごめんね。あの時は無理してでも食べるべきだったよ。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。