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病人の妻を怒鳴る主夫

 5月21日、BP(英国石油会社)の配偶者クラブ主催「アゼルバイジャンでキャンプをするコツ」の発表会に出席した。BPが従業員の配偶者の社会活動を推進するために賃貸している海岸沿いの高級マンションの一室に、約20人のマダムたちが集まった。勿論、私が唯一の男性。この部屋は、麻雀大会やお茶会が頻繁に開催され、アゼルの主婦の溜まり場になっている。マダムに囲まれたあの金曜日の「コーヒーモーニング」以来、こういうイベントからは足が遠のいていたが、キャンプ大好きな私は、どうしても発表会が聞きたかった。それで、日本人と韓国人の主婦仲間2人を誘って、初めてこの「溜まり場」に足を踏み入れることになった。

 60平方メートルはありそうなリビングルームでコーヒーとクッキーが振る舞われ、様々な国出身のマダムたちと挨拶をした。「今日は仕事を休んだの?」などと聞かれ、「いいえ。そこまでのキャンプ好きじゃありません。妻が仕事しているのです」と、これまで何十回としてきた説明をさせられる。司会役のアンが「レイディーズ!ウェルカム!」と私たちを呼んだ後、私と目が合い「あ!すいません。レイディーズ、エンド、ジェントルマン!ウェルカム!」と言い直した。

 発表会は11時半ごろ終わり、3人で近くの中華料理で昼ご飯を食べ、午後1時ごろ家に戻った。そしたら、誰もいるはずのない家にスージンがいた!「アレルギーがひどくなって、早退したの」と言う。鼻水をティッシュでかみながら、台所でうどんを作っていた。

スージンはアレルギー体質で、花粉だけでなく、新しい環境になると鼻水が止まらず、目や花がかゆくなることが頻繁にある。「プールで鼻の中に水が入って息ができなくなる様な気分」とかなり辛そうだ。アゼルに来て、アレルギーで会社を早退するのはこれで二度目。ちょっと心配である。

私:とりあえず、病院に行ってみたら?
ス:原因がわからないから、薬もらって終わりだよ。どの病院に行ったらいいかもわからないし。それに、もう発症しているから、薬もらっても仕方ない。
私:次、発症した時のために、どんな薬が良いのか、教えてもらうだけでもいいでしょ。とにかく病院に行った方がいいよ。

問題は、英語もまともに通じないアゼルバイジャンでどこの病院に行くべきか、である。私は、「アゼルバイジャンで暮らす外国人のためのガイドブック」を持ち出し、そこで推薦されている「病院」を調べてみた。「Urology」「Obstetrics」など聞き慣れない英単語を辞書で調べながら、アレルギー専門の病院を探したが、見当たらない。いくつかの病院に電話を入れても「英語が話せる医者が土曜日しかいない」などと良い対応をしてもらえない。

他人の病気のために病院を探すなどした事のない私は、苛立ち始めた。午後はハングルの勉強でもしようと思っていたのに、、、なんて考えながら。

リストにある別の病院に電話をかけた時、「花粉症」を英語でどういうか分からない私は、スージンが「ヘイフィーバー」(花粉症)と言っているのを「ハイフィーバー」(高熱)と思い違いをし、電話で「妻がアレルギーと高熱にかかっている」と言った。そしたら、スージンが「『高熱』じゃない。ヘイフィーバー(Hay Fever)。)」と、私が電話でやりとりしているそばから話してきた。私は「ちょっと、直接、話してくれる?」とスージンに携帯を渡そうとしたら「鼻が詰まって話せない」と言う。私は自分の英語力を見下された気分になり、心の中で「今、お前のために、色々調べて電話しているのだから、邪魔しないでくれ」と、さらに苛立った。

私は、仕方なく「妻がヘイフィーバーにかかっている」と話すと、スージンが、また電話口のそばから「ヘイフィーバーって言ったら、ハイフィーバーに聞こえるから、アレルギーって言わないとだめだよ」と話し、病院のオペレーターの女性の声が全く聞き取れなかった。私の堪忍袋の緒が切れ、「うるさくて何も聞こえないだろ!話せるなら、お前がやれ!」と電話をテーブルに置き、ガイドブックを閉じた。

スージンは、怒っているのか、悲しんでいるのか、よくわからない目で黙り込み、台所を出て行った。うどんはまだ半分くらい茶碗に残っている。

私は、気を取り直して、もう一度、その病院にかけ直し、「今、新しい患者の受付はしてません」と言われ、諦めた。

私は、電話を置き、「なぜ、病人の妻に大声を出す様なことをしてしまったのか?」と考えた。「色々お前のためにやっているんだぞ」という自負心か。妻に英語力を見下された屈辱感か。それとも、、、、。もしかしたら、「妻のためにここまでする夫は他にいないぞ!」という、胸の奥底にある男のプライドが一瞬、表面化したのかもしれない。「男なのに」料理をしてやっている。「男なのに」妻のために病院を探してやっている。「男なのに」、、、してやっている自分に対して、なんだその態度は??

「男女平等」とかたくさん書いているけど、結局のところ、私の中にも、無意識の内に「男のプライド」は植え付けられている。

少し冷静になった後、妻がいる寝室に行った。YouTubeで韓国のバラエティー番組を見ているスージンに「ごめんね。大きな声出しちゃって」と言い、肩をさすった。スージンは何も言わず、少し時間を置いて「夕ご飯、鶏肉の骨でダシを取ったスープが食べたいから、鶏肉買ってきて」と平常モードに切り替えてくれた。

次の日、スージンは元気になり、通常通り出勤した。

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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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