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生まれて初めて料理教室を開催する


5月24日は朝5時半ごろに目が覚めてしまった。目をつぶって、もう一度眠りにつこうとしてもできない。結局、6時半ごろにベッドから起き上がり、ネットで新聞を読み始めた。

いつもの朝とは違う、胸の高鳴りがある。今日は、生まれて初めて主催する料理教室の日。教室は午前10時半からなのに、頭の中では「人参とキュウリと卵を買わないと。スリッパは足りるかな?」などなど、教室の事で頭が一杯。

二日前には、日本人の主婦仲間を呼んで、太巻きを作る「リハーサル」もした。準備は万端だ。

午前7時半、携帯が鳴る。「息子が風邪で今日参加できません」と受講者の一人からメッセージが入った。「オーケー。早く良くなる事を願います」と返事をする。
太巻きに入れるキュウリと人参を予め切り、人参を3分ゆでる。今日使う材料を一つ一つ、テーブルに並べておく。トイレが綺麗か確認する。アパートのドアに「寿司クラス」という張り紙をする。

本来なら寿司職人の格好をすべきなのだろうが、そんなものはない。仕方なく、ジーンズとケニアで友人からもらった青いアフリカ系ドレスを着る。普段、髭は週1ペースでしか剃らないが、昨夜はしっかり剃った。剃り残しがないかしっかり鏡でチェック。

午前10時15分、電話が鳴り「今、建物の前にいます」と受講者の一人が言う。部屋番号を伝える。間もなく、サンドラ(コロンビア人女性)とロレッタ(ボリビア人女性)が笑顔で入ってくる。「ようこそ!」と握手で迎える。並べておいた六つのスリッパを指差し、リビングルームへ案内する。「今日があなたにとっての初めての寿司クラスなの?」とサンドラが聞いてくる。「はい。緊張しています」と言うと、「大丈夫。きっとうまくいくわよ!」といきなり励まされる。

「アゼルバイジャンに来てどれくらいなの?」「ワイフが国連で働いているのね?」などと世間話をしていると、再び電話が鳴る。主夫会のメンバー、「オールドジョン」の妻、アリス(イギリス人)からだった。「今、下に来ている」と言う。エレベーターで下へ行くと、アリスの他に、主夫会メンバーのハンズ、アリスの友人のナイダ(アゼル人女性)がいた。3人をリビングルームへ通し、間もなくして、電話が鳴り、最後の受講者である、ビクトリア(アメリカ人女性)が到着。6人全員が揃った。

ナイダとアリス以外は、皆、BP(英国石油会社)従業員の配偶者。アリスは英語を教え、ナイダの夫も石油関連会社で働いているという。皆、40—50代。3週間前にアゼルバイジャンに来たばかりのビクトリアを除いて、全員顔見知り。改めて、アゼルバイジャンの外国人社会の狭さを思い知る。

「皆さん、ようこそ、我が家へお越し下さいました。改めて、私の紹介をさせてください。ヨーコーと申しまして、日本出身です。アゼルバイジャンには3ヶ月前に来ました。韓国人の妻が国連で働いています。

私たち夫婦はアゼルに来る前はアフリカのケニアで難民支援に従事していました。とてもやりがいのある仕事でしたが、仕事上、夫婦が離れ離れになることが多く、『これからは夫婦生活を優先しよう』ということになりました。 そこで、『より良い待遇の仕事を見つけた方に別の方が付いて行く』ということにし、お互い就職活動をした結果、私が完敗したわけです(受講者笑う)。

それで、私は専業主夫となり、韓国語を学んだり、ブログを書いたりする日々を送っています。

私が一番最初に寿司を作ったのは16年前です。15歳でアメリカに留学したのですが、全く英語が話せず、友人ができませんでした。当時、姉もアメリカの大学に留学していて、姉の所へ遊びに行った時、「アメリカで寿司を作るとスターになれるぞ!」と寿司の作り方を教わりました。

それで高校の友人に作って上げたら、本当にスターになりました。「今度は家で作ってくれ!」と誘いを受けるようになり、大学では日本料理屋で寿司を握りました。ヨーロッパやアフリカに住んだ時も、友人に寿司を作り、どの国籍の人にも愛されました。

この寿司教室が人気になれば、将来的に、社会的に弱い立場にあるアゼル人をアシスタントとして雇い、「寿司カフェ」みたいなのを家でやってみたいと思っています。彼らが作った寿司を、私の友人が食べ、アシスタントに「チップ」として代金を払う。これにより、石油景気から取り残されたアゼル人にわずかながらお金が流れるシステムを作ることができると思うのです。

なので、皆さんが今日、受講されてどう感じたか、私に正直に伝えてくれることがとても大事です。ネガティブな意見があっても、私は日本武士の様に割腹自殺などしません(受講者笑う)。
何も質問がなければ、始めたいと思います」

 リビングルームから台所へ移り、まず、アゼルバイジャンで購入できる寿司の材料を紹介した。酢、日本米と区別がつかないカリフォルニア米、海苔、ウナギ、だし、ミリン、などを見せる。

次に、すし飯の作り方。米を磨ぐという習慣がないため、「なんで、洗う必要があるの?」という質問が出る。私は、「ほら、少し洗うと水が白くなるでしょう?」と見せる。

予め炊いておいた4合のご飯を炊飯器から取り出す。酢、砂糖、塩を混ぜ合わせ、それを、電子レンジで少し温める。「なぜ、温める必要があるのか?」と当然ながら質問がでる。「ご飯にかけるとき、冷めないでしょう」と答える。

電子レンジから取り出した後、酢を米にかける。均等に酢が行き渡るよう、しゃもじをつたって酢がご飯にこぼれ落ちるようにする。そしてタッパの蓋で仰ぎながら、ご飯と酢を混ぜ合わせる。「さっきは、ご飯が冷めない様に、酢を温めたけど、今は、ご飯を冷ましているのは何で?」という鋭い質問がくる。先生ピンチ、、、。「ええー。一旦、酢とご飯が混ぜ合わさったら、はやく冷ました方が、すし飯の質が維持されるのです、、」と適当に濁す。受講生は「ほおー」と納得した様子。

混ぜ終わったら、ご飯が乾かない様に、塗れナプキンをご飯の上に置く。(二日前に日本人主婦仲間から教わったばかりの知識、、)

次はだし巻き卵。無論、一回で、普通のだし巻き卵の形を作るのは無理だし、私自身もうまく作れないため、ここは適当にオムレツの様に作る。六つの卵を一つ一つ割ってボールに入れると、ハンズが「変な卵の割り方をするのですね」と言ってくる。私が「何が?」と尋ねると、「テーブルの角で卵を割ったら、白身が床に落ちてしまうでしょ。ボールの縁で割ったらどうですか?」と言う。私は冷や汗をかきながら「ああ!そうですね。それはいい考えですね」と言い、教室に気まずい雰囲気が流れる、、、。

卵に「だしの素」、しょうゆ、砂糖、塩、酒を入れ、フライパンに広げて焼く。「本来なら四角い形にするのですが、それをここで教えるのは難しいので、適当にオムレツの様に作って下さい。寿司の中に入れば、どんな形をしていても、そんなに変わらないので」と言う。

卵が焼き終わり、冷凍ウナギを電子レンジで温める。

「それでは、下準備は大体終わりました。リビングルームに移り、寿司巻きをやりましょう」と促す。

寿司巻きに使う竹の「巻きす」を配り、海苔を一枚載せる。「すべすべした面とざらざらした面があります。ざらざらした方にご飯を載せましょう」と話す。「海苔に載せるご飯の量はそれぞれの好みです。私は、とても薄くご飯を海苔に載せ、中身の味を楽しみたい人です。ご飯でお腹が一杯になったら嫌なので。ただ、私よりもご飯を多く載せる人はいくらでもいるので、皆さんの好みに合わせてください」。

ご飯を載せたら、キュウリ、人参、卵、サーモンを載せ、一気に巻く。「巻く時、二回に分けて寿司を固めます。まず、すべての中身を海苔が覆いかぶせた段階で、一度、固めます。そして次に、最後まで巻き切り、再び、固めてください。固める際、側面だけに力をかけるのではなく、寿司の全面から均等に力をかけるように固めてください」。

皆、それぞれしっかり寿司を巻いている。中には、ウナギが飛び出す人もいたりしたが、全体的に、とてもよくできている。

一人、二本ずつ巻き終わったところでご飯がなくなった。「さて、これから一番、難しい、切る部分です。家から持ってきた、まな板と包丁を出してください」とお願いした。受講者には予め「とても切れる包丁を持ってきてください。もし、切れる包丁がない場合は私のを使ってください」と連絡していた。

まず、私が見本を見せる。「包丁の刃を端から端まで使って切ってください。決して、力で押してはいけません。寿司が潰れてしまいます。まず、2等分し、4等分、8等分していきます」と切ってみせた。黄色、オレンジ、緑、白と黒がうまくマッチングした太巻きを見て、受講生から「うわー」という声があがる。

 受講者たちは、寿司を均等に切れなかったり、一番端の寿司が潰れてしまったりと、いくつか失敗作があったが、大部分はうまい具合に切れていた。「一番端がうまくいかないことはよくあります。中身の具を置く時に、端まで均等に置かないと、切る時にバランスを崩してしまいます。後、切る寿司の母体が小さいほど、切るのは難しくなるので、できるだけ、包丁の上に手を被せて、切る両側の寿司を指で抑えながら、切ってみてください」とアドバイスした。

ハンズが「端の寿司の見栄えをよくするにはどうすればいいのか?」と質問してきた。確かに、端の部分は、両側に切れ目がなく、片面の中身が出っ張った形で見栄えがよくない。「お皿に置く時、切った面を上に向けて置けば、その部分が見えなくなります」と適当に答えた。

そんなこんなで、112個の寿司が完成。緑茶を入れて、お昼タイムにした。

私は、ノートとペンを持ってきて、自分たちの作った寿司を食べる受講者に感想を聞いた。

私:それでは、食べながらで恐縮ですが、今日の感想を聞かせてください。まず、全体としてどうでしたか?

ビクトリア:とても、簡単だった。説明もわかりやすかったし、実際に私たちが作ることができたのが良かった。

サンドラ:新しい事が学べて良かった。切るのが難しかったけど。次回は、詳細な説明書みたいなのを配布したらいいと思う。酢飯の作り方とか、卵の作り方。何をどれくらい入れるのかが紙であったら、受講生も学びやすいと思う。あと、寿司マット(巻きす)がもっと必要だと思う。

私:とても、良いアイデアです。ありがとうございます。それでは、次の質問です。この寿司教室を友人に薦めようと思いますか?

全員:勿論!(私が質問を言い終えた瞬間に反応があった)

私:それはなぜですか?

ビクトリア:これまで「寿司」と聞くと、高級レストランでしか食べられないものというイメージがあった。でも、実際、作ってみると、とても簡単だということがわかった。

サンドラ:そうそう。自分たちで寿司を作れるなんていう発想がなかった。でも、こうやって教えてもらえて、よかった。

ハンズ:寿司を作ったことがあったけど、色々、細かい部分を学べて良かった。寿司を巻く時に、寿司の母体全体に力を入れることとか、ご飯を冷ましたり、ぬれたナプキンを置いたり、知らないことが多かった。受講生の数も6人という少人数で良かったよ。

ロレッタ:後、どの店でどの材料が手に入るのか教えてもらえて良かった。これまで、店に行っても、日本語で書いてあったりして、何が何なのかわからなかった。

私:なぜ、寿司はこれほど人気なのでしょう?

ビクトリア:とても健康的で美味しいから。

ナイダ:でも、今日の卵は私の口に合わなかったわ。

私:ああ。そうでしたか?他に、口に合わなかったものはありませんでしたか?

ハンズ:特になかった。卵も私は良かったよ。

私:それでは、30マナト(約3000円)の受講料についてはどうですか?

ほぼ全員:これくらいの値段は普通よ。

アリス:特に問題ないと思う。バクーは、何でも高いから、これくらいの値段は安い方じゃないかしら。

ハンズ:うん。いいと思うよ。

ロレッタ:今回は、海苔が外側だったけど、ご飯が外側になるお寿司の作り方も学びたい。

私:そうですね。今回のは一番簡単なものでした。次のステップは、ご飯が外側にくる「カリフォルニアロール」。そして、最後に「にぎり」を学ぶ、3段階コースにしてもいいかもしれないと思っています。


約50個の寿司が余った。私は、それを想定し、「タッパを持ってきてください」と予め連絡してあった。「それでは、皆さんで分け合って、お寿司を持ち帰ってください」と伝え、アリスが「それでは、一人一個ずつ、好きなのから取っていきましょう」と提案し、タッパに寿司を入れ始めた。

そして、一人一人、財布からお金を取り出し、「今日は本当にありがとう」と30マナトを支払った。

私の手元には180マナトが残り、材料費を差し引けば、約130マナトの儲けになった。2時間の講習だから、時給にすれば65マナト(約65000円)だが、材料調達、講習準備、教室の宣伝、受講者とのメールでのやり取りなど入れれば、その数倍の時間を費やしている。

皆が家を去った後、滅多に昼寝をしない私だが、この時ばかりは疲れきり、ベッドにひれ伏した。そして、起きたら午後4時を過ぎており、ハングルの先生から不在着信が5回も!ハングル講座を寝過ごしてしまったことに気付いたのだった。

寿司教室2


寿司教室3


寿司教室1

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照り

寿司、受けるよね。握りが出来たらどんなにウケるか…ちなみにすし飯を一気に冷やすのはご飯粒に照りを出すため、と家庭科の授業で教わった気がする。 あと、扇ぐのは冷やす為というより、余分な水分を飛ばしてべちゃっとしたご飯になるのを防ぐ為とか。料理の道は奥が深い。。。がんばってねー。

No title

ありがとうございます!YouTubeで寿司の作り方とかあるので、色々勉強しているところです。これまで考えた事のない質問が結構出てくるので、しっかり準備しないとですね。
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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