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分断統治

 英国がアジアの国々を植民地にした際、各植民地の住民からの抵抗を抑えるために用いた方法の一つが「分断統治」だった。その国の主要部族ではなく、少数派の人たちを植民地政府の主要なポストに置き、忠誠を誓わせ、主要民族の動きを「監視」させた。私は、この「分断統治」を、工場で試してみることにした。
 工場Aの主任ラホとの対立(8月5日記事)の後、工場のエチオピア人スタッフのキモ(仮名)から「ラホはあの日、工場長が帰った後、スタッフを全員集めて『もし、私がこれ以上叱責されるようなことがあったら、みんなで仕事をボイコットしよう!』と言っていました」と伝えてくれた。ソマリア人が主流を占めるダダーブ難民キャンプでエチオピア人は人口の全体の2パーセントにも満たない。敬虔なイスラム教徒のソマリア人と違い、彼らはキリスト教徒で、ソマリア人よりも肌色が黒く、背も高い。
前にも書いたが、工場Aの従業員の大部分はラホによって雇用された。ラホの親戚や同じ部族の者ばかり。それによって、職場の「慣れ合い感」は頂点に達し、その日作ったレンガの数が間違って記録されても、コンロの使い方についての説明表が半年間、道具箱の中に封印されていても、誰一人、それについて指摘することはなかった。工場内の問題について外国人工場長に報告するということは、彼らにとっては「同胞殺し」になるからだ。
しかし、今年2月から、エチオピア人従業員が2人入り、彼らは、他の従業員から聞くことができない内部情報を教えてくれる。先週、キモから電話があり、「今日、アデンが9時に出勤したのに、出勤簿に『P』と記しました」と言う。Pとは、Participationのことで、勤務開始時間から終わりまで働いたことを指す。遅れてきた場合は「L」(Late)と記す決まりになっている。アデンは、停職処分2人を出した後に、救世主として工場の主任代理として働き始めた人物だ。私が工場長になってから雇った唯一の従業員で、英語はラホより堪能だ。
アデンは、ラホや他の従業員とは違う部族出身だ。ダダーブに暮らすソマリア人の過半数は、ダロッド部族に属する。ダロッドの中にもさらに支族が枝分かれしており、キャンプで一番大きいと言われるのがオガデン支族(オガデンの中にもさらに小さな支族があり、その中でも勢力が異なるという)。ラホたちはオガデンに属するが、アデンは同じダロッド部族だが、支族はオガデンではなく、別の少数派支族になる。
私が、自分よりも英語がうまいアデンを主任代理に抜擢し、ラホには2回も警告文を出したため、アデンによると、ラホは「アデンを主任にする気なのでは?」という危機感を抱き始めていた。これで、ラホはアデンのミスを、アデンはラホのミスを、そしてエチオピア人は双方のミスを私に報告するようになり、工場内の情報の流れ一気に良くなった。
アデンが「P」と記したことは、ラホにとっておきの攻撃材料となった。「私は彼に注意したのですが、彼は私の言うことを聞かないのです」という。

早速、アデン、ラホ、キモ、私、そしてキャンプの青年組織幹部の5人でミーティングを開いた。青年組織幹部を呼んだのは、アデンが青年組織から推薦されて雇われた人物であり、彼の失態は、1000人のメンバーを抱える青年組織の名誉に関わるということを彼に伝えるためだ。

私「先週の8月17日、アデンは何時に出勤したのですか?」
ア「8時8分」
私「キモ、アデンは何時に来ましたか?」
キ「9時くらいです」
私「ラホは?」
ラ「私は風邪で休んでいました」
ア「説明させてください。私が遅れたのは、仕事をしていたからです。私はコンロに使うネジを買いに行っていたのです」
私「それは、誰かに命じられて行ったのですか?」
ア「いえ」
私「それは、私かラホの了承はとりましたか?」
ア「工場に着いてから、ラホに電話しました」
私「そういう事は、事前に電話して了承を取ってください」
ア「でも、私は、組織のために仕事をしていたのです!」
私「『組織のための仕事』というのは誰が定義するのですか?従業員1人1人が勝手に『組織のための仕事』を定義するようになったら、大変なことになります。私かラホの了承を取ってください」
ア「、、、、。私は、キモに色々指図されるのが気に食わないのです!彼は、いつも私の仕事をチェックし、何かあればすぐに『工場長に報告するぞ』と脅してきます」

 アデンは、その大きな体で、声も大きく、一気に捲し立てるような口調で話した。そこには他人が口をはさむ余地などあたえない勢いがあった。それにつられて、私も自然と声が大きくなり、周りからみたら「怒鳴っている」と言われても仕方がない口調になってしまていた。

アデンが、自分の部下にあたり、しかもエチオピア人のキモに色々チェックされるのが気に食わないのはわかる。しかも、今回の事を私に報告されるなんて、思っていなかっただろう。私は工場長として、従業員が犯したミスに関しては徹底的に追及し、すべての従業員を平等に扱う姿勢を貫きたかった。主任のラホばかり叱責し、アデンのミスに対して甘かったら、工場長としての威厳を失うのは目に見えていた。

私「とにかく、今回、あなたがしたことは大きな過ちです。どういった理由であれ、上司の了承なしに仕事に遅れてきたのに、出勤簿に遅刻と記さないのは、あなたが私に『嘘』を付いたことだと思います。もし、もう一度、こういうことがあったら警告文を出します」

 アデンは静かに頷いた。

私は、そのまま続けた。

私「もう一つ。あなたは、私と面接した際、肉体労働もいとわないと言っていましたが、この二カ月間で、コンロ製造に関わったのは何回ですか?」

ア「一回です」

私「この二カ月で一回だけとはどういうことですか?」

ア「住民がコンロを持っているかの実態調査、配布作業、そしてモニタリングなどでキャンプ内を歩き回っていたので、製造に直接かかわることがありませんでした」

キ「アデンが何もしていない時、私が手伝ってくれと頼んでも、『それは俺の仕事じゃない』と言って断られました」

ラ「他の女性従業員が同じようにお願いしても、『それは俺のレベルの人間がやることじゃない』と断られたと言っていました」

私「コンロの作り方がわからなければ、モニタリングに行っても意味がない。モニタリングでは、コンロの作り方を住民に教えなければいけないこともあるのです」

ア「一回やったからわかります」

私「とにかく、これからは、実態調査や配布作業などは他の従業員にやってもらい、アデンにはコンロ製造に集中してもらいましょう」

アデンは納得しない様子で、頷いた。アデンの様に高等学校まで行っていると、肉体労働に対して強い忌避感を抱く若者は多い。実際、工場に面接しに来た若者の中には、「こんな汚い仕事できません」と言って、面接前に姿を消した人がいた。アデンも面接前に会った時は「肉体労働ならできません」と言っていたが、面接では「何でもやります!」と断言していた。教養が高ければ高いほど、ビジネスが好きなソマリア人の若者は、襟付きのシャツを着てオフィスで働くのに憧れる。

間もなくミーティングは終わった。工場からの帰り道、私はアデンと2人きりになった。アデンは、複数の人の前で叱責されたことが気に食わなかったらしく、「ああいうのは、一対一で注意すればいいじゃないですか?」といまだに興奮した口調で話した。「キモはひどい奴です。私を脅すのですから。今日は、彼にとっての一番幸せな日だったでしょうね!私を陥れることに成功したのですから!」と言う。

私は「とにかく、ラホやキモに攻撃材料を与えないことだ。遅刻したなら、遅刻したと正直に記せば良かった。君が工場にいるおかげで、色々な情報が入ってくるから嬉しいよ」と伝えた。

エチオピア人のキモ、少数部族のキモ、そしてラホ。工場内の勢力を三つに分け、お互いを監視させることで、工場内の様子を工場長が把握しやすいようにさせた。

もちろん、リスクもある。キモとアデン、もしくはラホとアデンが、これから衝突することだってあるのだ。しかし、信じられないような職務怠慢が当たり前の様に行われる工場よりは、少しくらい従業員の間に緊張感があったとしても、それが刺激となって真面目に働くようになるなら、リスクを冒すべきではないだろうか。

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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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