日本に馴染めない日本人 その2 男女平等は達成されている?


毎日新聞時代は本当に良い上司に恵まれた。私の書きたい記事に応じて、全国色々な所へ出張に行かせてもらい、たくさんわがままを聞いてもらった。

それでも、広島の尾道に勤務していたころの上司、Yさん(当時40代)とは、私の記事の掲載を巡り、一度だけ対立した。記者が持ち回りで好きなテーマで書くコラムに、私が男女平等をテーマに書いたら、「20年前とか30年前ならわかるけどさあ、もう、21世紀だよ。男女平等なんてとっくに達成されているじゃないか」と言い、掲載を拒んだ(記事の詳細な内容は残念ながら、どうしても思い出せない)。

私:だったら、なんで、私が料理することを知ると、「え?料理するの?」って驚く人がたくさんいるのですか?色々な国に住んできたけど、男が料理することにこれだけ驚かれるのは、日本くらいです。

Y:その驚く人って、何歳くらいの人なの?

私:すべての世代でいます。この前、支局でシャブシャブしましたけど、残りの肉を私が家に持ち帰ろうとしたら後輩(女性)が「え?それ何にするのですか?」ってマジ顔で聞かれて、答えに困りました。私が、あの肉を家で茹でて、シャブシャブの垂れに付けて食べることに、それほど違和感があるものなのでしょうか? 同じ年代の一人暮らしの男性でも、家のガスコンロを触ったことがないなんていう人、結構いますよ。

Y:俺は毎日ガスコンロつけているよ。

私:男女平等が達成されているなら、なんで、会社内で育児休暇を取る男性が少ないのでしょうか?

Y:何年か前に、育児休暇を取った男性記者がその体験を記事にしていたけどな。

私: 記事にするってことはそれだけ珍しいっていうことじゃないですか。男性社員の育児休暇取得率はどうなんですか?

Y:、、、。確かに、そういう意味では、まだ男女平等は達成されていないのかもしれないな。わかりました。

ということで、記事は翌日掲載された。

Yさんは、当時、読売新聞の地域面が「活躍する女性」の連載をしていたのを見て「いつの時代の話だかなあ。もう、男性とか女性とかいう違いなんてないだろうに」と首を傾げていた。

そのYさんは、数ヶ月後にめでたく結婚。相手は、広島県福山市でこじんまりとしたコーヒー店を経営していた女性Tさん。その結婚式で、Yさんは、結婚への想いを涙ながらに出席者の前で語った。

「一番最初にTさんの手を握った時、とてもざらざらしていた。仕事柄、コーヒー豆を洗ったりするために、手に負担がかかる仕事なのだと実感しました。その時、彼女がこんな大変な仕事をせずとも楽に暮らせるよう、私が守ってあげたいと心から思いました

Yさんの目からは涙が出ていた。Yさんの先輩記者(男性)は「これまでお前がした話の中で一番感動したぞ!」と拍手し、他の約40人の出席者も続いて手を叩き、感動した様子だった。

私は、1人ぽつんと、周回遅れのマラソンランナーの様な気分だった。同じ日本人なのに、発せられている言語の意味が理解できない。

私の目からは、Tさんが女性という特定の性別に属するがゆえに、キャリアの自由を奪われてしまった可哀想な人にしか見えなかった。Yさんは、別にどこかに転勤することが決まっていたわけでもないし、Tさんが妊娠していたわけでもない。
Tさんのコーヒー店にはYさんに何度か連れて行ってもらったことがあったが、カウンター10席くらいの小規模な店で、一杯400円の本格的なコーヒーを楽しみにくるお客さんでいつも賑わっていた。

私が寿司教室を始めた理由の一つに、将来、田舎でこじんまりとしたカフェやペンションなんかやってみたいなあ、という憧れがあったからだ。もしかしたら、Tさんにだって同様の憧れがあって始めたコーヒー店だったかもしれない。

無論、TさんがYさんに「もう、こんな仕事辛くて早く辞めたい」と言っていたのかもしれない。だとしても、Yさんの演説に聴衆が拍手喝采で感動するのは、どうしても理解できないし、明らかに感動を誘うように話していたYさんにも共感できなかった。「女に辛い仕事をさせる男はだめ」みたいに考えているのだとしたら、Yさんが常日頃言っていた「男女平等はすでに達成されている」という文言とも大きな矛盾があるように思えた。

私が記者2年目のころ、毎日新聞大阪本社初の女性部長が誕生するなど、出世していく女性が増えつつあったが、その梯子にのっかる女性は、ほぼ例外なく独身だった。本社のある部長(男性)と飲んだ時「若い女性記者に育休取られると、その後の扱いが困るねん。年次は5年目でも、実際の経験は3年か4年目で、しかもブランク付きやろ」とぼやいていた。私が尊敬するある女性先輩記者は子どもを産むかどうか悩みつつ「女だからって使えないって思われるのだけは嫌なんだよね」と打ち明けた。

内閣府の昨年末の調査によると、「女性は家庭にとどまり家事や育児に専念し、男性は外に出て働くべき」と考える人が5割に達し、1992年以来初めて増加に転じた。しかも、20代での増加幅が一番大きく、「若者の保守化」が懸念された。

しかし、毎日新聞の様に出世していく女性が独身ばかりだったら、自然と若い女性記者は「キャリア」か「家族/出産」かの二者択一を求められることになる。そして、私同様「どんなに偉くなっても、喜びや悲しみを隣で共有できる家族がいないのは寂しい」と考えるなら、その結果として「女性は家庭」と、現実を見据えた選択をしているだけなのかもしれない。

Tさんのコーヒー、美味しかったなー。
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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