黒岩のすべらない話


最近、YouTubeで「人志松本のすべらない話」にはまっている。

番組の仕組みはとてもシンプル。数人のお笑い芸人がテーブルを囲み、サイコロを振って、当てられた芸人が数分間で「すべらない話」(面白い話)を披露するというもの。

話の内容も至ってシンプル。高校生の頃、付き合っていた彼女と家で抱き合っていた所を親に覗き見された話や、昔、お姉ちゃんが風呂に入った所をビデオカメラで盗撮しようとした話など。こうやって、文字で要約したら、なんてことない話でも、彼ら芸人が話すと、笑いがとまらない話になってしまう。その「トリック」が知りたく、私は画面に釘付けになってしまう。

主題の選定、話の構成、声のトーン、表情の使い方など、ありとあらゆるものに工夫をこらし、時にはジェスチャーを交えて、ストーリーを展開し、最後に必ず「落ち」があって、会場の笑いを誘う。ものすごい技術だ。

大抵の面白い話って、面白い話を予期せぬ場面で起こるから面白いのであって、「面白い話をして」と期待する人を笑わせるのって、難しい。

いつも思う。社会で人間関係を作る上で、誠実さや思いやりと同じくらい、人を笑わせる能力って大事なはずなのだが、前者は親や先生から教わることはあっても、後者を教えてもらえることって少ない。小学校や中学校時代、先生が私たち生徒を笑いの渦に巻き込んだ場面を思い出すことができない。

アフリカの難民キャンプで、難民が私との別れ際、「ヨーコーとの一番の思い出は、仕事中にわけのわからない冗談を言って、周りを笑わせること」と言っていた。短気で傲慢な私が、難民と一定の人間関係を作れたのも、「笑い」という技術が、言語や宗教など、私と難民との間にあるあらゆる壁をぶち破る力があったからこそなのだと思う。「平和構築学」とか難しい学問作るより、「世界で通用する笑い学」とかやった方が、よっぽど世界平和に貢献しそうな気がする。

よし。こうなったら、私も「すべらない話」に挑戦だ!これから国際機関の本部で様々な国籍の人と最高のチームを作れるようになるためにも、この能力は必要だ。

2月7日。アゼルバイジャンの在留邦人で作る「日本人会」が私の送別会を計画してくれた。おそらく、「それでは、黒岩さん、一言お願いします」という流れになるだろう。この機会に、「すべらない話」をしてやろうと、YouTubeを見ながら、構成を練った。

当日は日本大使館近くのグルジア料理店に約15人が参加。(アゼルの在留邦人は約30人)グルジアの名物であるジャンボ餃子や、鶏肉のニンニクヨーグルト煮など、美味しい料理が出た後、会長が私の所に来て、「あの、すいませんが、最後に黒岩さんから皆さんに一言お願いできますか?」と予想通り、リクエストが来た!

私は、意図的に眉を寄せて、「ええ!聞いてないですよー。僕そういうの苦手なんで」と固辞する振りをした後、「で、今ですか?」と高鳴る胸の鼓動を必死に抑えた。

会長が「それでは、宴もたけなわですが、最後に、今日の主賓である黒岩さんから、皆さんに挨拶をしていただきます」と言い、私は促されるがまま、前に出た。

「アゼルに来てもうすぐ1年になりますが、まさか、こんなに早く出ることになるとは思ってもいませんでした。1年前、皆さんに自己紹介した際、妻か私か、より待遇の良い仕事に就く方に、もう片方が付いて行くという勝負をした結果、私が負け、アゼルで専業主夫になったことをお話ししました。主夫になって、韓国語勉強したり、料理を学んだりと、『主夫っていいなー』と思う自分がいる一方で、自分の社会的な立ち位置を知りたいという自分がいるのもまた事実でした。だから、ただの興味本意で、昨年5月、国連試験を受験しました。受かるなんて思ってもいなかったし、受かったとしても、それはあくまで、『ああ、自分の能力って、一応認めてもらえるんだ』という記念受験的なものだと思っていました。

そしたら、書類選考を通過し、7月31日、東京の外務省で最終面接に招かれました。 すでにこの試験に合格した友人らにアドバイスを求めた結果、『合格した後、希望した派遣先に派遣してもらえるとは限らないから、もし、アゼルバイジャンに派遣されたいなら、面接ではっきり意思表示しておいた方がいい』と助言を頂きました。
妻とはアゼルに来るまでずっと離れ離れだったので、私が合格した場合、アゼル以外の国に派遣されて、離れ離れになるという選択肢はありませんでした。そして、4年前に同じ試験に受かって、すでに私より国連でのキャリアが先行している妻に今の仕事を辞めさせて、付いて来させるという選択肢もありませんでした。つまり、合格した場合、アゼルの国連機関に派遣してもらう以外の選択肢は私には考えられなかったのです。

しかし、アゼルは近年の経済発展のため、国連機関は活動規模を縮小しています。アゼル全体で、国連の外国人スタッフは10人以下です。世界に様々な紛争地がある中、アゼルに派遣してもらえる可能性はどう考えても低く、面接で「アゼルに派遣してもらわないと困ります」と言えば、面接官にあまり良い印象は与えないでしょう。

それでも、私は腹を固めました。妻と離れ離れになりたくない。どんなにキャリアが充実しようと、家族生活が台無しになったら、幸せにはなれない。4年前、27歳で同じ試験を合格した妻が、32歳で受験している私のために、キャリアをストップするなんてありえない。「アゼルに派遣してもらわないと困ります!」と面接の予備練習で、何度も連呼し、本番に備えました。

面接官は3人で、『国連で、あなたが培った経験をどうやって活かせますか?』などの質問がありました。派遣先についての質問はなく、30分、40分と時間は過ぎていきました。

そしたら、女性面接官が英語で『あなたのワイフはアゼルバイジャンの国連で働いるということですが、あなたが合格した場合、派遣先については、どれくらい柔軟に対応できるのでしょうか?』

心の中で『来た!』と叫び、私は、用意していた台詞を吐き出そうと右手を振り上げました。

派遣していただけるのなら、どこでも行かせていただきます!』(右腕を前に突き出し、人差し指を会場に向けながら)


 そこで、私は話を一旦止め、恐る恐る、参加者の表情を伺った。

笑ってる。笑ってる。「ハッハッハ!」と私の顔を見て、笑っている!口を抑えている人もいる。こうやって文字化してしまうと、いまいちユーモアが伝わらないかもしれないが、とにかく、皆、笑っていた。

妻のため、家族のために、かっこ良く面接官に立ち向かおうとしたが、結局、最後の最後で自分のエゴにノックダウンされる私の間抜けさというか、愛きょうに、ユーモアを感じくれたようだった。ああ、良かったー、、!最後の最後で滑ったら、かっこわるいからな。

その後、「黒岩さんの本、まだ在庫残っていますか?」などと4人の方が、私の著書を買ってくれた!!(なんと、たまたま、この日は私が自分の著書4冊を持ち歩いていたのだ)

IMG_8527.jpg

やっぱり、笑いのパワーは凄い!YouTubeで無駄な時間を使ったと思っていたけど、何が人生の役に立つかなんてわからないな。

私の著書は、すでに何人かの在留邦人の方にはご購入いただいているので、アゼル在住の日本人世帯に限れば、購入率が7割以上となり、アゼルでは大ベストセラーということになる(笑)。

こんな強引で傲慢な私に1年間付き合ってくださった在留邦人の皆様、本当にありがとうございました!!!

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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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