初めての一人旅 その2 ーー韓国の田舎に移住する日本人女性たちーー

眼鏡が埃っぽくなったので、フワチョンの市街地を散策中、眼鏡屋に入った。店主が私の眼鏡を拭きながら「どこから来たんだ?」と尋ねた。「日本」と答えると、50代くらいの女性客が「フワチョンに住んでいる日本人、何人か知っているよ。私が知っているだけでも5人はいるんじゃないかな」と言う。
私が「へえええ。会ってみたいですね」と言うと、その女性は、携帯電話を取り出し、フワチョンに暮らす日本人女性、Sさんに電話し始めた。「直接話してみて」と言う。急展開に戸惑いながらも、私は電話を受け取った。

私:初めまして。旅行でフワチョンに来ました。
S:ええ!旅行で来られたんですか?
私:はい。
S:珍しいですね。フワチョンに旅行で来るなんて。
私:フワチョンに暮らす日本人はどれくらいいるのですか?
S:結構いますよ。15人くらいいるんじゃないかしら。

え?そんなに?こんな田舎町に、何をしに来たのだろう?

Sさんは「今、仕事中なので、また後でかけていただけますか?」と電話番号を教えてくれた。

もともと、学びたての韓国語で韓国人と話をするために来たのに、わざわざ、日本人に会うのもどうかと思い、電話をすべきか躊躇した。しかし、15人の日本人がこんな韓国の片田舎で何をしているのか興味が勝り、次の日、「昼ご飯でもどうですか?」とSさんに電話をした。

そしたら、Sさんは、「もうご飯は食べましたが、、」と言いながら、バス停留所で待ち合わせをすることに。

Sさんは他の2人のフワチョン在住の日本人女性にも声かけしてくれ、計3人の女性とお茶をすることになった。電話での印象通り、Sさんは4−50代で、他の二人も同年代に見える。私がSさんに電話をしてから40分しか経っていないのに、平日の昼間に集まれるなんて、すごいホスピタリティーだ。

まず、3人とも、なぜ、日本人男性が一人でこんなところを旅しているのか、韓国人と結婚しているのに、なぜ一人なのか、などなど聞いてきた。

次に私が、彼女たちに色々尋ねた。

私:なぜ、皆さんはフワチョンに住むことになったのですか?
S:私たちはみんな、統一教会です。

Sさんが言った瞬間、何千組のカップルが一緒に結婚する合同結婚式の映像が頭をよぎった。私の統一教会に関する唯一の知識である。

私:へえ。統一教会を通してご結婚された相手が、韓国人だったということですか?
S:はい。
私:フワチョンにいる日本人全員が同じ経緯でこちらに来られたのですか?
S:はいそうです。
私:全員、女性?
S:ええ。

Sさんは、現在、独居老人などの家庭に弁当を配る公共の福祉サービスの事務仕事をしているという。子どもは二人。

隣に座るAさんは、主婦兼農業。子どもは2人。その隣のBさんは、夫が蜂蜜を作っており、その手伝い兼主婦という。子どもは3人。

Aさんが、私に「統一教会は怖いですか?」と尋ねた。「怖いということはないですね。未知の世界であることは確かですが」と答える。

3人とも、韓国に来て15年以上。3人同士の会話は、韓国語と日本語が混ざるほど、日本語を普段使っていないという。

フワチョンにも統一教会の教会があり、信者の数は現在100人という。

私は興味津々で、色々尋ねた。

私:どうやって、今の夫と出会ったのですか?
女:まず、私たちが海外に行きたいという希望を教会に伝えます。その後、海外にいる信者の方を写真で紹介され、それを受諾するか、拒否するか、私たちが決めるのです。
私:なんで、海外に行きたいと思ったのですか?
女:とにかく、日本から出たいって思った。
私:どの国の男性を紹介されるかはわからない。
女:はい。
私:もともと、なんで統一教会に入ろうって思ったのですか。
女:友人の紹介とかで。教えが、すっと自分の中に入った。
私:最初は言葉も通じないじゃないですか。どうやって会話をしたのですか。
女:見よう見まね。当時は、フワチョンに通訳してくれる人がいたからね。
私:韓国語はどうやって学んだんですか?
女:独学ですよ。
私:最初、フワチョンに来たとき、どう思いましたか。
女:田舎で驚いた。何もないって。変な匂いもするし、、。
私:日本に帰ろうって思ったことないですか?
女:それはないです。
私:これまで来た女性の中で挫折して戻られた人は?
女:それはいませんね。

信仰の力って凄い。それまで出会ったことがなく、言葉が通じない人と結婚し、住み慣れない田舎で、言語を一から学び、農作業で生計を立て、布教活動に勤しむ。彼女たちの家も見せてもらったが、決して裕福とは言えない暮らしをしている。

その後、教会にも連れて行ってもらい、韓国人の牧師さんにもお会いした。タイ人の女性信者と結婚している。

統一教会


韓国の田舎町には、ほとんど統一教会があるといい、同じような経緯で移り住んできた日本人女性は数多くいるという。(あるネットでは数千人規模という情報も、、)

3人は統一教会の本を私に贈呈してくれた以外、布教的なことは全くせず、車で自分たちの集落に住む独居老人の家や、集会所などを見せてくれ、夕食は海産物のレストランでご馳走になってしまった。夕食には牧師さんも参加した。

ネットで統一教会を検索すると色々なマイナスな記事が出てくる。信者さんと半日過ごしただけでは、大層なことは書けないけど、国際結婚という形での布教活動は、ある意味、とても実用的である。ビザの問題もない。家族や親戚を通して、言葉も自然と覚え、地域の中にとけ込める。

さらに、「田舎」であるというのは大きなポイント。日本の地方同様、韓国の地方では、結婚相手を見つけられない農家の男性で溢れている。ベトナムやラオスなどの女性と結婚する韓国人男性は多い。

だから、日本人女性と結婚できるというのは、ある意味、信仰を持つ、大きなインセンティブになりえる。無論、私が出会った女性の夫たちがそうだと言いたいわけではないけど。

一番気になるのは、この女性たちがなぜ、ここまで強く「日本を出たかった」と思ったのか。信仰を広めたいだけなら、日本国内でもできる。私のように「ちょっと海外に出てみたかった」という好奇心で、結果的に長居することになったケースとは、180度異なる。彼女たちは、初めから、別の国で新しい人生を出会ったことのない伴侶と始める覚悟で来たのだから。とても個人的な話になりえるので、半日の関係で、深くつっこんで聞かなかったけど、今の日本という国を表す指標の一つになりえそうである。

21歳の時、アイスランドを一人旅した時、現地で出会って、数日お世話してくれた日本人女性も、創価学会の人で、アイスランド人男性と結婚していた。信仰を持って海外に暮らす日本人って結構いるのかもしれない。

私もそうだけど、「新興宗教」とか聞くと、それだけで壁ができてしまう。メディアもマイナスなこと以外は、あまり取り上げない。実は、結構、私たちの身近に存在することなのに。Aさんが、私に投げかけた質問。「怖いですか?」の一言が、すべてを象徴している。私が統一教会に入信する可能性はゼロだと思うけど、宗教の信仰のメカニズムとその影響力には、とても興味がある。
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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