タブーの世界で生きる女性たち

 ダダーブ難民キャンプの人口45万人のほとんどはソマリア人で敬虔なイスラム教徒。女性はヒジャブという布を全身に被り、目と手以外の肌は見せない。女性の清潔さがそれだけ大事にされる社会でも、生活苦などから性を売って生活する女性たちがいる。

 性的少数派を支援するNGO「National Council of Churches of Kenya(NCCK)」は、現在107人のセックスワーカーに、エイズ教育や就職支援などの活動をしている。年齢は18歳~50歳まで。18歳以下もいるが、そういった人たちは未成年支援を専門とするNGOが受け持っているという。

 9割以上が、夫から離婚され、複数の子供を養う最終手段として性ビジネスに足を踏み入れるという。離婚される理由は様々で、一夫多妻が認められる中、「男性にとったら『飽きた』というだけで離婚できますから」とNCCKのウィルソンは言う。

 彼女たちはお客1人を相手にするごとに500シリング(約500円)を稼ぐ。コンドームを使用しない場合は相場がさらに高くなるという。高等学校を卒業した「エリート」の難民が、NGOで一カ月働いて5000シリング稼ぐことを考えれば、魅力的な収入源だろう。

 お客は難民だけでなく、支援物資を運ぶトラックの運転手や、キャンプ内の支援団体の建物を建設する業者の人たち。エイズ感染は深刻で、すでにNCCKが把握しているだけでも8人がエイズに感染しているという。

 私は、「彼女たちに別の収入源があれば、性ビジネスから足を洗うのでしょうか?」とウィルソンに尋ねた。私の工場で雇うことで、彼女たちがエイズからの危険から逃れられるのなら、それはとても有意義なことではないか。

 しかし、ウィルソンの答えは曖昧だった。「女性の間でも、性ビジネスに抱く感情は様々です。彼女たちも人間ですから性的欲求があります。一度この世界に足を踏み入れ、それ以外で他の男性とスキンシップをする機会がないとしたら、この仕事で寂しさを紛らわす人もいます。実際、私たちの支援で肉屋を開業し成功した女性がいるのですが、その後も、時々、不特定の男性を相手にしているようです」

 性的欲求。女性の目や顔以外の肌を見ることがないソマリア人社会において、その言葉を聞くこと自体が新鮮というか、何かしっくりこなかった。皆、薄黒い地味なヒジャブで全身を覆っているから、自分の中で自然と「ソマリア人女性」のイメージが形成されていたのだろう。

 私はウィルソンに彼女たちとの面会を希望した。工場で働くということに対して、彼女たちの反応が知りたかった。

 9月23日午前9時、約束の時間になっても、NCCKの事務所に彼女たちの姿はない。ウィルソンは「キャンプの女性たちは家事・育児、すべてやりますから」と言う。9時半ごろになり、ようやく、1人、1人と部屋に入って来た。目線が合わないソマリア人の15歳くらいの少女もいた。ADHDだろうか?20歳前後の妊婦も2人いた。お客から身ごもった子供だという。親子もいた。精神的に病んだ母親が性ビジネスに走り、子供たちも巻き込んだのだという。幼児に母乳をしている女性もいた。ソマリア人だけでなく、コンゴ人、ブルンジ人、エチオピア人など計15人が集まった。

 私が、工場について説明し、誰かを雇いたいということを話した瞬間、彼女たちから拍手が起こった。「とにかく仕事なら何でもしたい」という彼女たちの強い希望が伺えた。しかし、全員雇えることはできない。多くても3人だ。「私は、午前8時から午後1時まで、週6日、毎日来れますか?」と尋ねたら、妊婦や幼児がいる女性たちは少し渋い表情になった。

とにかく、雇うからには、真摯に取り組んでくれる人が欲しいため、私は「一カ月の研修期間」を設けた。研修期間は無給で、毎日、時間通りに一生懸命仕事をするかどうかを見極め、正規採用につなげる。

 1人1人面接している時間もないし、初対面から、色々込み入った事を尋ねることもできない。仕方なく、簡単にグループ面接をした後、ウィルソンたちにどの数人の女性を推薦してもらうことにした。

 一つ、心配があった。性ビジネスに足を踏み入れた女性たちというのは、ソマリア人社会では最も汚れた存在だ。そんな女性たちが、工場の従業員たちと果たしてうまくやっていけるのか?差別などは起きないだろうか?

 ウィルソンは「心配ないと思います。これまでそういった女性ということを知りながら結婚した男性もいます。相互扶助の精神が強いソマリア人社会で、貧困に立ち向かおうとしている人に手を差し伸べることも大事なことなのです」。今日会った女性の中には、英語も、ソマリア語も、スワヒリ語も話せない女性がいた。つまり、工場の従業員とコミュニケーションすらまともにとれないということだ。でも、逆に言えば、そんな彼女たちに、このキャンプでどんな就職口があるというのか?

 タブーの世界で生きる彼女たちに少しでも陽を当ててやることができればいいのだが。
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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