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日本人の奥さんみたいにはなれない

金曜夜はジュネーブの国連機関で働く邦人職員の講演会があり、世話人の一人である私は、講演者に渡す花束を買ったり、会場設置準備や写真撮影をやった。講演会後、WHO(世界保健機関)やILO(国際労働機関)などで働く邦人職員ら8人ほどで食事に出かけた。スージンもそこに便乗。半数以上は初めて会う人で、「黒岩さんとスージンさんはいつも何語で話しているの?」という、よく出る質問が出た。「出会った当初は英語で、スージンが日本語を学んでから日本語になって、最近は韓国語です」と言うと、「ええー!韓国語できるの?ちょっと話してみて!」という流れに。

「なんて言えばいいですか?」と聞くと、「じゃあ、ずっと愛しているっって言ってみて」とリクエストされ、「죽을 때까지 같이 있으세요」(死ぬまで一緒にいて)と私は言った。

そしたら、スージンは「『있으세요』(いて)とは言わない。『있어 주세요』(いてください)って言う!」と指摘。「なんだー。韓国語できないじゃん」と私は失望されることに。

そのときは、特に何も感じなかったが、家に帰って布団に入ると、この場面が頭の中から離れない。なぜ、スージンは、初対面の人の前で、私を駄目だししなくてはならないのか?しかも、あそこにいた人で、私の若干の誤ちに気づいた人はいないし、ほとんどの韓国人は私が何を言いたいのか理解できるレベルのものだった。あんな、恥ずかしいこと言わされたあげく、「韓国語できるって言うけど、実はあんまりできない奴」という烙印を押された。

そもそも、韓国語はスージンのために学んできたのに、少しくらい感謝してくれても良いじゃないか。普段から、私のプライドとか、あまり気にしようとしないスージンに対して不満が沸々と湧いてきた。

2週間前、今の家に引っ越して初めて、友人らを招いた時もそうだった。田舎暮らしに興味がないスージンは、この家に移り住むことには反対だった。私が、何度も頭を下げた結果、渋々承諾してくれた。移り住んでから、暖房が壊れたり、お湯が出なかったり、私が出張中、車が運転できないスージンは、2キロ離れた最寄りのバス停まで歩かなければならなかったり。そういった「不満」を遊びにきた友人たちの前ですべて吐き出し、友人たちは「それはかわいそうに」と同情した。私は、「嫌がる妻を無理矢理田舎に引っ越させた夫」みたいな目で見られている気がして、落ち着かなかった。

そこで、スージンとの話し合いを試みた。

私:金曜の夜、あんな風に、初対面の人たちの前で、私の韓国語について駄目だししなくても良かったのではないかな。

ス:間違ってたから、ちゃんと直してあげたかっただけ。

私:でも、そんな大きな間違いでもなかったでしょ。おそらく、ほとんどの人は意味理解できるよね?

ス:そんなに周りから尊敬されたいの?

私:本当に細かいことなんだけどさ、何か積もり積もっている気がする。この前、友人たちを家に招いたときも、引っ越した事に関して、たくさん不満言ってたでしょ。

ス:事実を言って何が悪いの?

私:事実だったら、すべて言っていいってことにはならないでしょ?スージンの家族内で何か問題があったとして、その問題について私がああいう場で話してもいいの?それが事実なら?

ス:そんなプライベートな話はしないでしょ。引っ越しについて、私の気持ちを話すことと、プライベートな情報を打ち明けることとは違うでしょ。

私:何が「プライベート」で何が「プライベートでないか」というのは、私たちが2人で決めなくてはならないことでしょ。

ス:そんな、自分の夫について良い話ばかりする人なんていないでしょ。あの会でもいなかったじゃない。

私:別に良い話をしてくれとはいってない。私の気分を害することを極力言わないでほしいというだけ。

ス:だったら、引っ越して辛かったけど、幸せですって言わなければいけないってこと?

私:うーーん。そんな極端にしなくてもいいけどさ。100ある事実の内、一番最悪な10だけを話すのではなくて、最高の10を最初に話すとかさ。この前、散歩して気持ちよかったって言っていたじゃない?あと、「1時間かけて家まで歩かなければいけない日があった」って言ってたけど、本当の事実は「30分待てばバスがあったけど、待つのが嫌だったから、1時間歩いた」でしょ?同じ事実でも話し方で、ニュアンスが大分異なる。「やっと運転免許をこちらのに切り替えたから、少し運転を練習すれば、大分楽になります」とかさ。ポジティブに話すことっていくらでもできると思う。

ス:私は、色々なストレスを周りに話す事で、ストレス解消になっているの。日本人の「奥さん」みたいに、いつも夫をたてることなんてできない。自分に降り掛かった災難について話して、笑って、癒しにしているの。それができなくなるなら、自分が自分でなくなっちゃう。

私:別に話すなとは言ってない。不満があるなら、私一人に話してくれたらそれでいい。

ス:でも、あなたに話しても、いつも、「解決方法がない不満について話すのは時間の無駄」って言うじゃない。

この言葉が、胸にグサっときた。確かに、スージンが新しい家について不満を言う度、私は「じゃあ、他のところへ引っ越す?それができないなら、できるだけポジティブに考えるようにしよう」と言ってきた。私はあくまで論理的に、解決方法を探すことばかりに集中し、スージンの「ただ話を聞いてほしい」という感情的な部分に配慮してこなかったのかもしれない。

それにしても、「日本人の奥さん」との対比は面白い。韓国人女性は、日本人女性よりも気が強いといわれる。日韓夫婦の大部分は、韓国人男性と日本人女性の組み合わせで、私たちの様な組み合わせは、まだ出会った事がない。スージンの分析は、韓国人女性は気が強いから、自分のプライドを気にする日本人男性とは合わない。逆に、強い女性に慣れている韓国人男性は、女性にとても優しいから、日本人女性から「紳士」に見られるのだという。案外、当たっているのかも、、、。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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