俺って実は結構すごい?

俺って実はすごい人間なんじゃないかと思うことがたまにある。

先日、突然財布がなくなった。一泊二日のスキー旅行中で。行き道のガソリンスタンドで財布を取り出したのが最後、スキー場に到着したらなくなっていた。

クレジットカードをすべて中断させるのは電話だけですむが、一番面倒なのは運転免許証。

ジュネーブの運輸局は平日昼間しか空いておらず、職場からバスで30分ほどかかる。しかも、紛失したのが12月22日で運輸局は24日から休業になるため、23日に行くしかなかった。

上司に事情を話し、職場を抜け出す了承を得る。そして、運輸局に電話をし、必要書類を確認。パスポートと現金50フラン(約6000円)が必要と言われる。「お金はカードでも支払えますか?」と尋ね、「大丈夫です」と言われる。財布を盗まれたわけだから、現金がない。妻のカードを借りるしかなかった。

しかし、こういう時に限って、なぜか妻も銀行口座カードを紛失中だった。だから妻も私に渡せるカードは限られていた。

うちの職場は職員が出張する際の日当の支払いを、クレジットカード振り込みでやっている。だから出張経験がある職員はみな、別途、カードが支給され、妻はその出張カードを手渡した。私は、「スージン出張一回しか行ってないよね?50フランも入っているかな?」と確認する。妻は不安そうに「そうね。じゃあ、こちらのカード使って」と言い、プリペード式のクレジットカードを手渡した。スイスの銀行は慎重なのか、私たちみたいに信用のない人には一般のクレジットカードは支給せず、プリペード式、つまり、自分の口座から手動でクレジットカードに移した額しか使えないカードを支給している。(日本にはあるのだろうか?)

いざ、私は午後2時ごろ運輸局へ向かった。失敗はゆるされない。もし、免許再発行されなかったら年末年始は運転ができなくなる。

午後2時半、運輸局へ着き、窓口で手続きを済ませ、「それではそちらの椅子でお待ち下さい」と言われる。十数分後、「クロイワ!」と呼ばれ、窓口へ行く。「それでは50フランお願いします」と言われ、私は、スージンから預かったカードを取り出す。そしたら、メガネをかけた白人の担当者は「オーノー!」と言う。「カードはマエストロしか受け付けないんだ」と言うではないか!スージンからもらったカードはマスターカードだった。そんなこと電話した時は一言も言っていなかった。スイス人ってどこまで適当なんだ!

私は「マエストロもマスターも同じカードじゃないですか。お願いしますよ」と言っても、無理。財布から10フラン札を取り出し、おじさんに「これじゃだめ?」と尋ねても、もちろんダメ。ああー、どうしよーー。仕事を抜け出してきているのに、また職場に戻って、ここまでやってくるなんてありえない。

額に冷や汗をかく私に、おじさんは「この建物を出て左にまっすぐ数分行けば、ATMマシーンがあるから、そこで現金を降ろしてきなさい。あなたの免許はここに保管しておいてあげるから」と私の新しい免許証を見せながら行った。プリペード式クレジットカードは現金を降ろすこともできる。

私は早速、おじさんに言われたままに歩いた。しかし、初めて来る地域でなかなか見つからない。20分ほどしてようやく、郵便局横にATMを見つけた。そこにカードを入れ、スージンから教えてもらった暗証番号を入れ、降ろす金額を「100フラン」に設定した。そしたら画面に「20フラン何とか何とか」とフランス語で表記されてきた。私は、「20フラン紙幣しかないが、それでもいいか」という質問だと思い、イエスボタンを押した。そしたら、出て来た金額は20フラン紙幣一枚のみ!!!なんだこりゃ!と思った瞬間、画面に信じられない表示が。「残額8フラン」。スーーージーーーン!!!お前のプレペードには28フランしか入っていないのかーーー!!もっと入れとけ!!!

私は完全に頭に血が上った。財布をなくしたこと。そのタイミングで、なぜか妻も銀行胡坐カードをなくしたこと。さらに、私が「本当に十分な額が入っているのか?」と口頭で確認したにもかかわらず、与えられたカードに28フランしか入っていなかったこと。

まてよ。確か、私のポケットには硬貨が何枚かあったはずだ。改めて自分の手持ち金額を数えてみよう。10フラン紙幣が一枚。5フランコインが1枚。2フランコインが3枚。1フランコインが1枚。そして、今、降ろした20フラン紙幣を合わせると、42フラン。あ!このカードの残額は確か8フラン!全部合わせると50フランになるじゃないですか!

早速、もう一度カードを入れ、暗証番号を入れ、「8フラン」と画面に引き下ろす金額を設定。そしたら「20フラン何とか何とか」と画面に出て、お金は一フランも出てこない。通りがかりのおばさんに尋ねると、「20フラン以内の額はおろせないということですよ」と言うではないか。私はその親切なおばさんに「なんでですか?8フランあるのだから、8フラン降ろせるようにすべきでしょ!私の8フランがここに入っているんですよ!」と言い寄り、おばさんはそのまま何も言わず、歩き去って行った。間違いなく、「アジア人は気狂い」という印象を与えてしまっただろう。

すでに午後3時。運輸局が午後4時で閉まる。これから職場に戻っても間に合わない。この辺に住んでいる友人はいなかったか?思い当たらない。もう私が考えうる残された道は、二つしかない。一つは新年まで運転を諦める道。そして、もう一つは、、、。恥ずかしくて、ここに文章化することさえ躊躇してしまう。

でも、私はその恥ずかしい道を選ぶことにした。

運輸局に戻り、椅子に腰掛けて名前を呼ばれるのを待つ一般市民約30人の顔を見渡し、品定めを始めた。数秒後、入り口近くの自動販売機で飲み物を買おうとする中年男性に目をつけた。ポケットから硬貨を取り出そうとしている。

私は男性の背後に歩み寄り、「ハロー。英語は話せますか?」と聞き、男性は首を振る。私は、ゆっくりと「アイ、ニード、8フラン。(8フランが必要です)」と硬貨を見せながら男性に話した。男性は理解したようで、自分の手にある硬貨を見て、「2フラン、オーケー?」と尋ねてきた。私は、「オーケー!」と返し、男性から2フラン硬貨を一枚もらった。

残り6フラン。再び、品定めを開始。下手に断られて赤っ恥をかきたくない。お人よしそうで育ちがよさそうな若い白人男性の横に行き、「すいません。50フランが必要なのだけど、今、44フランしかないんだ」と英語で話しかけたら、その男性は財布を取り出し、「これが必要なのかな?」と50フラン紙幣を私に見せた。私は、数十分、ずっと追い求めてきたその紙幣を見て、「イエス!!これです」と言い、何と、男性はその紙幣をそのまま私に手渡したのだ!

私は、「じゃあ、これを受け取ってください」と持っていた44フラン、すべて男性にあげた。硬貨が何枚こガチャガチャ音をたて、「数えてください。全部で44フランありますから」と言い、男性は「いや。君を信じるよ」と笑顔で受け取った。

私は、その50フラン紙幣をそのまま、あのメガネのおじさんに持って行き、「ああ。間に合ったか」と晴れて、免許証を手渡してくれた。

私は、職場への帰り道、達成感に満ち溢れていた。物乞い10分で8フラン。時給に換算すれば、1時間48フラン(6000円)。金に困ったら、物乞いで食べていけるじゃないか!私はどこでも生きていけるんだ!

一ヶ月後、スイス警察から連絡があり、「あなたの財布が見つかりました」という。現金50フラン以外はすべてそのまま残っていた。

俺って本当にすごい人間だ。
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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