どんな子を産みたいか?

心拍確認した最初の検診時は、私は日本にいたため、付き添うことができず、妻からブーブー言われ続けてきた。2月末、産婦人科で妻の2回目の検診に付き添った。担当医は白髪が混じった50代の男性医師。

医師は「経過は順調です。今回の検査で胎児がダウン症になる可能性がどれくらいかわかると思います。ただ、この検査では100パーセントの正確性は保たれないので、もし、確実に知りたいのでしたら、別の検査もありますよ。費用は15万円くらいです」と言う。

ダウン症かどうか妊娠時に知りえることさえ知らなかった私は、最初、へーーとくらいしか思っていなかった。

ただ数分経過するにつれ、その医師の忠告に違和感を覚え始めた。この医師は、私たちがダウン症を患う可能性について「知りたい」という前提で話している。そして、私たちが「知りたい」と考えうる理由は一つしかない。

医師が妻に食べてはいけないものや、次回の検診の日時について説明し、さあ、そろそろ終わりにしようかという雰囲気が漂ったとき、私は質問した。

「ダウン症の可能性が高いとわかった夫婦のどれくらいが中絶するのですか?」

医師は一呼吸を置いてから、答えた。「夫婦によって考えはまちまちです。倫理観から検査をしないという人もいます。ただ、私が診てきた夫婦の大部分は中絶します」

なるほどー。「ダウン症の可能性について知りたいですか?」と私たちに聞かなかったことは、これで説明がつく。しかし、今度は、別の、もっと深刻な違和感に襲われた。

極端な見方をすれば、大多数の胎児が、特定の「資質」を理由に生存権を奪われているということだ。人種や民族、宗教などを理由に差別されない社会を目指すとかいいながら、「違い」に向き合えない人間の本質が見え隠れする。スイス特有のことかと思ったが、日本も似た傾向にあるらしい。ある米大統領候補による「イスラムの人の入国を制限する」という差別発言が、雨上がり時に車の窓ガラスに残る水滴レベルのささいなものに感じられた。

数日後、妻は私に検査結果を伝えた。「750分の1だって。私の年齢だと特に問題はないらしいのだけど、1000分の1以上の場合、念のため、もう一度検査した方が良いと言われたの。検査をするかしないかは私たちの自由だから、しなくてもいいとは言われたのだけど、一応、来週月曜日にアポとっておいた。ダウン症かどうかとか判断したくはないけど、私も子育てできるか自信があるかと聞かれると、何とも言えないし、、」

私はこみ上げてくる感情を必死に抑えながら、妻に語りかけた。「一緒に俺たちの子の心拍の音聞いたよね。8人に1人が妊娠初期に流産するというデータもある。つまり、今の時期がこの子にとって人生で一番危険な時期だ。死と隣合わせの日々を必死に生きようとしている。俺には、どうしても、この子を私が自らの手で殺すことが想像できないんだ。もし、ここで、子に注ぐ愛情に条件をつけてしまったら、次に生まれてくる子も愛せるかどうか自信がないよ。ダウン症の子の子育てをしたことないから、ただの綺麗事を言っているだけかもしれない。想像を絶する大変さかもしれない。でも、どんなに大変でも、育児ノイローゼになったとしても、最後の最後の瞬間まで子を愛し続けたことができたのなら、私たちの人生に胸を張ることはできるんじゃないかな」

妻は黙って私の目を見ていた。数秒後、「わかった。じゃあ、検査はなしね」と言った。

ダウン症とわかって中絶した人の体験とかをネットで見ることができるが、「自信がない」「幸せになれない・できない」「苦労したくない」という理由が多い。子育ては苦労するものだし、幸せというのは、与えられるものではなく、勝ち取るものだと思う。子育てより仕事を優先して、幼少時にまともに時間をすごさず、子どもと良い関係を作れなければ、それはダウン症を悪化させる要因にもなりうる。私たちの努力でどうにもならない部分は多々あるだろうし、ダウン症の子を持つ親の方たちは気分を悪くされるかもしれないけど、私は子どもからの愛を勝ち取れるよう努力したい。
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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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