4カ月経って、振り出しに戻る

工場長就任してもうすぐ4カ月だが、これまで従業員同士のいさかいなどで、私の視界はほとんど工場内に閉ざされてしまっていた。

私たちの作ったコンロが実際、難民の家で適切に使われているのかどうかを調査するのが、本来の私の重要な任務の一つだ。9月24日、私は、初めて、従業員と一緒に、コンロが配布された家庭を見回ってみた。

今月初めに従業員が行った調査報告書には、コンロを受け取った難民は皆「とても役に立ちます」と従業員に返答していた。しかし、リストにあるすべての人間が口を揃えて同じ事を言うだろうか?不在の人だっているだろうに、リストに、空欄は1人もなかった。「本当に、一軒一軒、従業員は調査しているのか?」と自然に疑問を抱いてしまった。

アブラシードとキモの二人で、先週コンロを受け取った家を目指して工場から歩いた。そうすると、信じられない光景が私の前に立ちはだかった。最初に訪れた4軒連続で、コンロを使っていないのだ!難民の人たちは、これまでの彼らの習慣通り、石を三角形に三つ置き、中央に薪を燃やして料理をしていた。従業員が汗水たらして作ったコンロは、きれいさっぱり、薪の横に置かれたままだった。

「なぜ?」と難民に尋ねても、「今夜から使います!」と言うだけで、はっきりとした理由を言わない。その後、コンロを使用している人も何人かいたが、マニュアル通りに使っている人は皆無に近かった。例えば、本来、平らな地面の上に置かなければいけないのに、穴を掘ってそこにコンロを入れて使うなどしていた。

コンロを配布する前、30分から1時間かけてコンロの使い方について説明をしているはずだ。その説明がうまく伝わっていないのだろうか?

そして、私は、さらに驚きの事実を知らされることになった。一緒にいたキモに、「なぜ、コンロが平らな地面に置かれなくてはならないのか、わかる?」と尋ねてみると、「、、、、。わかりません」というではないか!彼は、私が工場に入る前から調査役を任されてきた。コンロの機能について理解していない人が、どうやって、コンロが適切に使用されているのか調査ができるというのか?

驚きはそこで終わらない。次の日、工場で5か月前から働いているミナマ(仮名。18歳女性)に、「コンロを使ってくれない難民にコンロを使ってもらえるように、何て言って説得するの?」とテストしてみたら、「コンロを使うことが大事だと伝えます」と言う。「なんで、大事かわかる?」と尋ねても、彼女は答えることができなかった。つまり、彼女は、コンロの作り方は習ったが、なぜ、コンロを作る必要があるのか、誰からも教えられなかったということだ。そんなことがありえるのだろうか?私は、この4カ月、一体、何を見て来たのか?一気に、振り出しに戻った気分だ。先日はブログで、どうすれば従業員に「生きがい」を感じてもらえるのかと自問したが、コンロを作る理由さえ知らない従業員が、どうやって工場で働く生きがいを見出すことができるというのか?

私は、さらに他の従業員を試した。コンロの使い方について難民に説明する時に使う、布製の絵柄がある。コンロの中に薪を置く際、薪を下向けに置くことで外からの空気の循環を良くし、火力に勢いを付ける方法が絵で表されている。「この絵について誰か説明してくれ」と工場にいる1人1人に尋ねた。しかし、主任を含め、誰一人として、適切な返答をできる人がいなかった!

この工場運営の最大の目的は、従業員がソマリアへ戻った時、自分たちの力で工場を運営し、コンロを売って、自分たちの仕事を確保し、さらに、森林伐採を食い止めることにある。つまり、工場は彼らの将来の「会社」で、コンロは彼らにとっての「商品」だ。しかし、その肝心の「商品」を彼らはお客さんに売り込む方法を知らない。すでに2年以上働いている者もいるのに。この工場は、従業員の自律支援とは程遠い形で運営されてきた。

なぜ、こんなことが起きるのか?それは、この工場が、外部からの「支援」で成り立ち、「利益」で成り立つ一般の民間工場と決定的に違うというところにある気がする。

私の従業員は、どんなコンロを作ろうが、それが使われようが、使われまいが、運営費が支援に依存しているわけだから、毎月、同じ給料をもらう。それに対して、他の民間工場は、質の悪い物を作ったり、自分たちの製品をうまくセールできなければ、他の工場に顧客を奪われ、潰れてしまう。この「危機感」の有無というのは、とても大きな違いのように感じる。

「支援する」というのはとても聞こえのいい物だ。私がダダーブに来て一年半になるが、私がここで上げた成果について誰かに説明しなければいけないという機会は、これまでほぼなかった。皆、私がダダーブで働いているというだけで、「それはすごいこと」と言ってくれる。

それは、この工場にもそのままあてはまる。私がこの工場について外部の人に説明する度、「難民の人たちは滅多に就職口がないのだから、その人たちに毎月給料を払えるだけの工場を運営してあげるのは良いことだ」と、皆言ってくれる。実際、コンロが使われているのか、従業員はコンロについて知識はあるのかなど、私を含め、誰も疑問に抱くことはなかった。

難民の人たちの働きぶりや成果を全く問わないというのは、「思いやり」なのかもしれないが、逆に、長期的な目で見たら、それは残酷なことなのではないか。支援を受けることが当たり前という「支援依存症」に陥り、自分から新しいことを提案する動機もなければ、自分が生産した物に責任を負うこともない。どれだけ仕事をさぼれるか、どれだけ支援団体からお金を横流しできるか、そんなことばかりを考えるようになる。

これまで従業員との一連の対立の根源もそこにあるのだと思う。報告書に偽りの記載をすることも、横領や賄賂をすることも、遅刻や無断欠勤することも、すべて、「私たちは支援を受け続けることができる」という神話が彼らの行動を支えているのかもしれない。

これまで、前任者のJについて色々批判してきたが、結局、Jに何の指導をしなかった本部も、それを取り巻く「援助業界」も、どこかで責任の一端を負っているように思う。

 ソマリアの内戦が終わる時、「支援依存症」に陥った彼らが果たして国の再建を担えるのだろうか?とても悲観的にさせられる一日だった。
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No title

「支援依存症」ってさまざまな場面にありますね。
あなたの場合、難民の経済的、精神的自立をめざしているわけだからより深刻かもしれません。
でもくさらないで頑張って。ぐっすり眠って朝起きたら元気に働いている。それがあなたのいいところ。

No title

ありがとうございます。最近、共同テントで寝ていて、ぐっすりとまではいかないですけど(笑)
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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