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ウェムへ


これまで「この子」とか「赤ちゃん」とか言ってきたけど、これからは「ウェム」と命名させてもらうね。もう、ウェムは19週目で、これからどんどん五感が発達し、私たちの声も届くようになる。名前があったほうが、話しかけやすいから、生まれる前から名前をつけることにしたよ。

それで、なんで、「ウェム」なのか?これには、深い意味があるんだ。

お父さんが先月まで働いていた国連難民高等弁務官事務所では、年に3-4回、「Workshop on Emergency Management」(緊急援助ワークショップ)という研修が開催される。これは選抜された職員対象の特別研修で、紛争などで大量の難民を瞬時に助けなければいけなくなったとき、緊急に2-3ヶ月派遣できる職員を養成するものなんだ。

お父さんはこの研修に昨年6月に参加した。今でも、中東からヨーロッパに押し寄せる多くの難民が世界のニュースで取り上げられているけど、お父さんはそういう緊急援助の最前線に行ってみたかった。本部のデスクワークだけでは物足りなかったんだね。それに、緊急援助の現場での経験は、国連でのキャリア構築に重要で、派遣場所で活躍が認められれば、次のキャリアステップになる可能性もあるんだ。

研修後は、お父さんは毎日、派遣要請がくるのを待ちわびていた。そしたら11月初め、「クロアチアに行ってもらいたい」というメールが来た。クロアチアは東ヨーロッパにある国で、シリアやアフガニスタンから多くの難民が来ていた。私は飛び上がって「わかりました!」というメールを打ち、すぐさま出発準備にとりかかった。2-3ヶ月間、お母さんと離れ離れになるのは寂しいという気持ちもあったけど、お母さんも「よかったね!」と喜んでくれた。

そしたら次の日、突然、「すみません。派遣は必要なくなりました。クロアチアの事務所の現地職員の配置換えで対応するとのことです」というメールが来たんだ。要するに、お父さんはクロアチアに派遣されなくなった。そのときは凄い落ち込んだな。

その二ヵ月後、私が日本で別の研修を受けているときに、スイスにいるお母さんから電話があった。「妊娠しているみたい」。最初は信じられなかったよ。お父さんとお母さんは3年近く、子どもを授かることを願い続けてきた。病院に検査に行ったりもしたけど、なかなか授かることができなかった。

それで、計算してみたんだ。いつ、私たちはウェムを授かったのだろうってね。そしたら12月初旬だろうということになった。つまり、もし、私が11月にクロアチアに派遣されていたら、1月か2月までお母さんに出会うことはなかっただろうから、ウェムを授かることもできなかった。派遣されることがなくて落ち込んでいたのに、今度は、派遣されなくて心から良かったと思った。神様の導きだったのだろうと。

それで、なんで「ウェム」という名前なのか、まだ説明できていなかったね。お父さんが参加したこの緊急援助研修「Workshop on Emergency Management」は、頭文字をとって「WEM(ウェム)」と呼ばれているんだ。つまり、お父さんがウェムに派遣されなかったおかげで、ウェムが誕生したわけだね。

ウェムが誕生してくれたおかげで、お父さん、180度人生観が変わったよ。それまでは自分の主張を通すことが第一で、相手の感情なんて第二かそれ以下だった。だから、職場でも人間関係に苦労することは多々あった。ウェムに派遣されていたら、今でも国連で働いて、目立とうと必死になっていたかもしれない。でも、今は、組織にも属さず、ウェムが無事に生まれてくるためにはどうすればよいか、お母さんの精神的安定のためにどうすればいいか最優先に考えるようになったね。お母さんができるだけくつろいで生活できるよう、掃除したり料理したり買い物したり、お母さんが好きな食材の入手先を調べたり。お父さんの履歴書に書けることなんて一つもしてないけど、でも、今はそれで十分幸せだよ。

ゆっくりと、お母さんのこと、ウェムのことを考えられるこの時間がとても居心地がいい。自分の人生を振り返ると、オランダの大学院出て、毎日新聞の記者やって、ジュネーブの国連で働いて、本も二冊出して、自分の社会的地位を築こうと必死だったなって思う。でも、ウェムが誕生して、妊娠初期、8人に1人の割合でウェムみたいな胎児が亡くなることを知ったら、社会的地位なんてどうでもよくなったな。

それもこれもウェムが誕生してくれたおかげ。ウェムが頑張って、一番危険な妊娠初期を生き延びてくれたおかげだよ。ありがとう。今は安定期に入ったけど、流産する可能性はまだあるから、お互い頑張ろうな。ウェムの声が聞こえないから、ウェムが何が欲しいのか、こちらが想像するしかないけど、ネット情報によると、できるだけ鉄分の入った料理を準備したり、部屋の清潔感を保ったり、お母さんに優しく話しかけたり、一緒に散歩したりするようにするのがいいらしい。

これからこのブログはすべてウェムへのメッセージにすることにするね。ウェムに話しかけている時間だけ、自分がもっと優しい人間になっていっている気がする。お互いが成長し合える関係にしていこうな。
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seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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