初めての合同会議


 9月29日、ライフラインがダダーブで4年前に活動を開始してから初めてのワークショップが開かれた。工場が二つのキャンプにありながら、これまで、一度も従業員全員が集まって親睦を深めた事がなかったというのが、信じられなかった。

 当初、従業員たちに「ワークショップをやりたいか?」と尋ね、皆、頷いたため、「じゃあ、なんでやりたいのか、このワークショップがライフラインにとってどういう利益をもたらすのか、簡単な企画書を書いてくれ」と主任たちに伝えた。従業員たちは「他の工場の同僚たちと色々なアイデアを共有したい」「昼ごはんは、ラクダの肉が食べたい」などと漠然としたことを言うだけで、具体的にワークショップで何をしたいのかという考えを言うことができなかった。

何日経っても、企画書は提出されず、主任たちは「こういうものは普通、NGO側が用意して、難民たちはそれに出席するのではないでしょうか?」と言うのだ。20年間、難民キャンプで暮らし、NGOにすべて用意してもらうのが当たり前という感覚なのだろう。従業員のほとんどは、ワークショップなど出席したことがないし、「なんで必要なのか?」なんて尋ねられたことはないのかもしれない。

 結局、最初のワークショップは私がすべてリードすることにし、次回から少しずつ、従業員に任せられる部分を見つけていくことにした。ワークショップ開催の目的は三つ。

1. 従業員の結束
2. 二つの工場の成果を発表し合うことで競争意識を高める
3. ライフラインの活動についての知識を深める

 ワークショップは全部で4時間。自己紹介、各工場主任の発表、グループ討論、ドラマ発表、工場長からの訓示、そして昼ごはんで解散。本来なら、午後までやりたいところだが、通常の業務時間外になるし、従業員たちの集中力がそこまで続くとも思えなかった。

 会場は、1歳未満の赤ちゃんがいる従業員が2人いる工場Aにし、工場Aの主任に、椅子を他のNGOからレンタルし、昼ごはんのアレンジを頼み、工場Bの主任には、10キロ離れた工場Aまでの車の手配をお願いした。

 当日朝。工場Bの従業員14人が軽トラックの荷台に詰め込まれてやってきた。妊婦2人は助手席に座っている。

 午前8時半、大きな丸い円になって座った従業員34人の前で、私は「それでは、第一回ワークショップを開催します」と伝えた。まずは自己紹介。単に自分の名前を言うだけではおもしろくないと思い、「何か自分が自慢できることを一つ話してください」と伝えた。

 そしたら、これが意外に難しいらしく、「周りの人から『ジョー』と呼ばれてます」とか、「コンロを作るのが得意です」とか、「工場に時間通りに来るのが得意です」とか仕事関連か的を得ない回答ばかり。料理、スポーツ、家畜の世話など、彼らの日常を知る機会になると思ったし、ちょっとした冗談も出て、場の雰囲気が和むと思ったのだったが、失敗だった。自分に自慢できる部分があるなんて考えたこともないのだとしたら、それはとても悲しいことだ。

 次に、各工場の主任からの発表。これについては2週間前から各主任に、過去3カ月の成果、課題、これからの目標を発表するよう指示しておいた。そしたら、工場Aのラホが「ちょっと昼ごはんのアレンジで出なければいけないので、キモに代役をお願いしました」と言って、退出した。自信がないのか?キモは、紙に書かれた物を読むだけで、質問には応じることができなかった。成果は月200個のコンロを作り、課題は「給料が少ない」。これからの目標は、これまで通りの業務を続けるという簡単な内容だった。

 次に工場B。先日選挙で主任に選ばれたアデンが、毎月600個のコンロを作ったこと、課題として前主任が横領したことなどを堂々と述べた。毎月200個のコンロしか作れなかった工場Aとは歴然の差だった。工場Aの課題は団体に対する要求だったのに対し、工場Bは従業員の規律に関して述べている。

そしたら、工場に戻って来たラホが、突然、「二つの工場は違う!」と甲高い声で話し始め、200個しか作れなかった理由などについて長々と演説した。ラホの競争心むき出しの表情はいつ見ても頼もしい。ライフラインは、2007年に工場Aから活動を出発し、工場Bは2009年になってできた。工場Aは自分たちが「元祖」という自負心があるため、工場Bよりも生産量が低いということに我慢できない。

最後に工場Bのアデンが「給料が少ない!」と大きな声で述べると、会場は拍手に包まれ、これまで生産量で競い合っていた工場同士のライバル心が一気に吹き飛んだ。肉体労働週30時間で月5500シリング(約5500円)では確かに少ないが、他のNGOと歩調を合わせると、どうしてもこうなるのだ。文字の読み書きができない従業員が、他のNGOで同等の収入を得ることは難しい。

最初の自己紹介では静まりかえり、工場主任同士の発表ではいがみ合い、給料の少なさに対する不満で結束した。さて、ワークショップはこれからどうなっていくのか?
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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