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初めての合同会議(4)

最後の質問。

「就業時間は午後1時までと定められているのに、従業員数人が正午で仕事を辞め、帰る支度をしています。あなたが主任だったら、何と言いますか?」

これは、両工場の主任らが入ったグループに出題した。この発表も、私が従業員役となって、椅子で座って休んでいる従業員に語りかけるというシミュレーション方式にした。

主任:就業時間は1時までという決まりだ。仕事をしなさい。
従業員:そんな決まりどこにあるのですか?
主任:君がこの工場に働き始めた時、話しただろ?
従業員:そんなの覚えていません。どこかにルールが書かれているのですか?
主任:書かれたものはないが、口頭で約束したはずだ
従業員:口頭でなんて、覚えていないですよ。今日の課題はクリアしました。もうやることはありません。
主任:やることはいくらでもある。レンガの整理もあるだろ。
従業員:明日やります。

 私は、就業規則がないという、この工場の致命的な欠点について従業員たちに知ってもらいたかった。これがないから、従業員や主任が自己の裁量で色々勝手に決めてしまう。従業員同士の関係もこじれやすい。そもそも、私が工場長に就任した当時、誰一人として明確な就業時間を理解していなかった。これでは、工場がうまく運営できるはずがなかった。私は、現在、他のNGOの人事担当を訪れて、各NGOがどんな就業規則を持っているのか話を聞き、今月中にも、規則を作り、ソマリア語に訳し、従業員全員に同意を得るつもりだ。従業員も主任も、そして工場長も、規則の上に立つことはできない。これについて、このワークショップで話したら1時間じゃ足りないため、私は「これについては、また、後で、話させていただきます」と言い、10分の休憩に入った。

 休憩後、お待ちかねの「劇団ライフライン」のドラマ発表に移った。約2週間、従業員たちは練習にいそしんできた。この日のために審査委員3人を他のNGOや国連から招いた。私が審査したら、負けた工場との関係がこじれる不安があったため(それほど従業員のやる気はすごかった)、審査は外部の人に任せることにした。

まず、工場Aが発表した。

劇は、2人の難民女性が、焚火で料理をしているシーンから始まった。女性たちは、三つの石の上に鍋を乗せ料理しているが、石が不安定で鍋が落ちてしまった。そこに自治会長とライフライン従業員が訪れ、「コンロを差し上げるから、研修を受けに来てくれ」と言った。女性たちは簡単な研修を受け、いざ、コンロを受け取るという時になったら、身長190センチの従業員オケロが、コンロを運ぶ「ロバ」役として登場。尻にはヒモがぶら下がり「尻尾」になり、顔面には木の枠を付けて「耳」を演出している。オケロが「ヒヒーン」と鼻から息を吐くと、会場は笑いの渦に包まれた。オケロは、コンロを運び、出て行った。

 そして、「詩」の朗読。(ソマリア人は詩や諺が大好き!)10人の従業員が横一列になって、「ライフラインは難民全員にコンロを配るNGOです!」などと大きな声で語った。最後に、皆で飛び跳ねながら、退出し発表は終わった。

 次に工場Bの発表。

 劇は同じように、2人の女性が焚火で料理をし、ライフライン従業員たちに研修に連れて行かれ、コンロをもらうというもの。劇の後は、歌。7人の従業員がライフラインの垂れ幕を持って、右腕を上下に動かしながら「ILF!ILF!」と歌いながら工場に入って来た。その後、2人の女性従業員の詩朗読。「ライフラインは、どんな人にも門を開いたNGOです。ダダーブで最も重要なNGOです」と話した。そして、全員が体を左右に振り、手拍子をしながら、「ライフライン!ライフライン!」と歌った。皆楽しそうに笑顔だったのが印象的だった。

 そして、審査発表。私は、表情が固かった工場Aに比べ、皆楽しそうに歌っていた工場Bが勝つと思ったが、結果は2-1でAが勝った。Aの出場メンバー1人1人に、私が着ないTシャツや日本から持ってきたかきの種などを商品として配った。審査員の3人は皆口を揃えて「すばらしい発表だった」と褒めてくれた。劇などと全く縁のなかった彼らが、堂々と発表する姿は確かに感動的だった。

 これで、次、キャンプで何か大きな催し物がある時は、ライフライン代表として、彼らの劇や歌を発表できる。そうすれば、一気に、彼らが毎日やっていることが、周りから認められ、彼らの生活の糧になってくれるのではないだろうか。

 その日の夜、審査員の一人から「あのロバ役は、彼ら自身が考えだしたものですか?」と聞かれたので、「いや、私の提案です(笑)」と正直に返答してしまった。工場長なら、嘘でも、「いや、彼らが自分たちでやったのです!」と称えてあげるところだったのだが、まだまだ甘い。
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演劇の様子が目に浮かんでくるような視覚的なエピソード。元祖コマーシャルだね!
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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