初めての合同会議(5)

 最後は私からの訓示。前の晩、パソコンに向かって概要を用意した。最初は、ありとあらゆる小言を一つ一つ書き連ねていったが、書き終わった後、「批判ばかりしても、彼らは受け入れてくれない。しっかり褒めることからしなければ」と自分に言い聞かせ、文書の最初の部分へスクロールを戻した。そして、主に5つのポイントを挙げて、従業員たちに称賛の文章を綴った。

 訓示に入る前に、「今日のワークショップはどうでしたか?」と尋ねたら、「とてもよかった。色々新しいアイデアを学べた」「初めてで、他の工場の従業員と話ができて良かった」「演劇について学ぶことができた」などなど、ポジティブなコメントが多く出た。ただ、「具体的に何が良かった?どんなアイデアを学んだ?」と尋ねても、はっきりとした答えは返ってこなかった。

 私は「この5カ月間、あなたたちと働いて、私は5つの点であなたたちのことを尊敬しています」と訓示を始めた。

「第一に、あなたたちの強さ。家族を戦争で亡くし、栄養失調や麻疹などの病気と日々戦いながらも、あなたたちはこの工場で一生懸命働いている。とても勇気付けられます。

 第二に、あなたたちの適合力です。この5カ月、私はあなたたちに色々指導してきましたが、その度に、勤務態度や仕事の成果が上がりました。コンロがあまり使われていなかったことを指摘したら、数日後、コンロはしっかり難民に使われるようになりました。

 第三に、あなたたちの隠された能力です。今回の演劇や歌にしても、あなたたちが難民にコンロの使い方を説明する時も、あなたたちの奥底に秘められた能力にはいつも感心させられます。

 第四に、あなたたちの優しさです。私は日本人で、宗教も文化もあなたたちとは全く異なっている。それでも、あなたたちは私を温かく迎え入れてくれた。家に行けば、お茶とかランチとかを出そうとしてくれる。

 最後に、あなたたちの評判です。外部から見学者が来るたびに、あなたたちの働きぶりに皆感心します。そして、あなたたちがこのキャンプの人々のために大きく貢献していることに感動します。それを聞いて、私も鼻高々です。

 この5カ月間、本当にありがとうございました。」

と、これで称賛のパートは終わり、課題に移ろうというところだったが、ここまで褒めてしまうと、なかなか、批判をしづらい雰囲気だ。いつもは私語を慎むことを知らない従業員が、この時ばかりは皆、私の目をじっと見つめている。おそらく「褒められる」という機会はあまりないのだろう。私も、胸の中が熱くなっている。

 停職処分や解雇処分を出したことなど、簡単に話したが、紙に書いた概要はほとんど飛ばして読んでしまった。私も、自分の気付かない部分で従業員たちに情が移っている。裏切られることもあったし、対立することもあったけど、それ以上に従業員たちは私に笑顔で接してくれた。新しい指導方針にも何とか付いてきてくれている。19歳から60歳までの従業員34人。なんだかんだ言って、私は彼らのことがとても好きなんだ。好きだから、ダダーブがどんなに暑かろうと、飯がまずかろうと、下痢になろうとも、ここでの生活を投げだそうとは思わないのだろう。

 私は、他人の失敗に対して言及することに何の抵抗も感じないくせに、他人への愛着とか友情を表現するのは、なぜか恥ずかしい。本当は逆であるべきなのに。相手を見下すことで、自尊心を保とうとする嫌な人間。でも、そんな自分を受け入れてくれる従業員たちに感謝の気持ちは忘れないようにしよう。

 初めての合同会議は、この後、昼食のパスタを食べて幕を閉じた。皆、満足そうだったが、工場Bはドラマ発表で負けたことが悔しかったらしく、「次は勝つ!」と燃えていた。

 スピーチを終えたところで、何人かが拍手をしてくれた。おそらく、批判の部分がなかったら、もっと大きな拍手だったのだろうな。
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No title

この5つを言われたら、上司のこと好きになるだろうな。揺光さん、成長してるね!最近忙しすぎて余裕が無く怒りをグッとこらえることができずに小言を連発していた私も学ぶなくては。

No title

それは、HPCのワークショップでインド人と喧嘩してた私と比べて言っているのかな(笑)?お世話になりました。

No title

よーこーもあきのちゃんも、確実に成長してるよ!
私も現場に行って色々経験したら、もう少し自分に自信が持てるのだろうか?
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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