最大の憤り

 この難民キャンプで働いていて、一番憤りを覚えること。それは、難民に騙されることでも、栄養失調の子供を目のあたりにすることでもない。それは、難民が、他の人と同等に扱われていないと感じることだ。

昨晩、新しいアシスタントとして雇ったモウリドから携帯メッセージが届いた。「私たちの青年グループが提出したビジネス企画書が書類審査を通過して、明日午前8時から、面接になりました。なので、ミーティングは出席できないかもしれません」という。若者の雇用創出支援の一環として、ダダーブ難民キャンプでは、援助団体がいくつかの青年グループに頭金を支払い、小売店、本屋、レストランなどの新しいビジネス展開を後押しするプログラムがある。この面接は年に一度あるかないかの大事なものだ。私は「わかりました。面接が終わったら来てください」と返答した。

 次の日、モウリドから電話が来ない。午前11時ごろ、「書類審査を通過したグループが九つあって、私たちは最後の順番になりました」と言う。モウリドの話では、9グループの代表全員が午前8時に団体の事務所に集合するように言われ、午前9時に面接に関しての説明が始まり、実際の面接が午前10時ごろから始まった。
 
 冷静に考えてほしい。もし、一般企業の入社面接で、9人を個別に面接するとしたら、果たして全員を同じ時間に呼ぶだろうか?一つの面接がどれくらいの時間を要するか吟味し、それに応じて、個別に異なる時間を伝えるのが筋だ。モウリドは午前8時に呼ばれ、結局午後3時まで面接を受けられなかった。計7時間を無駄にしたわけだ。難民だから、他にすることがないとでも思っているのだろうか?それとも、団体がお金を善意で出しているのだから、受益者に文句を言う権利はないとでも?

 援助する側と援助される側の信頼関係なしに、本当の「援助」はできない。食糧や水を配布するだけの「緊急援助」なら信頼関係はそこまで重要ではないかもしれないが、人材育成などの長期的「開発支援」の場合、信頼関係は必須だ。後者は受益者の「自助努力」が大切で、援助する側が信頼できなければ、努力しようとする気にならない。

「難民にお金を渡してはいけない」とよく言われる。実際、難民従業員にお金の管理を任せて、私は痛い目に遭ったし、ライフライン以外にお金の管理を難民に任せる団体はない。しかし、難民キャンプを歩けば、難民の人たちが、どれだけの規模のビジネスを展開しているかが見てわかる。ホテル、レストラン、タクシー、インターネットカフェ、雑貨店、薬屋などなど、お金の管理能力なしにはありえない市場がある。では、なぜ、「難民にお金を渡してはいけない」というイメージがあるのか。

今年、過去60年で最悪の飢饉で月約3万人の難民が押し寄せた時、難民登録作業が追い付かず、登録なしに食糧配給をする緊急体制がとられた。これにより、同じ人が食糧配給を2回以上受け取るケースが計4万件に上った。毎年、数千人の難民がダダーブから欧米諸国へ定住している。ダダーブの国連事務所には毎日のように「こんな病気があります」「ある武装集団から命を狙われています」と相談しに来る難民がいるが、その中には少なからず、欧米諸国へ定住するのが目的で、作り話をしている難民も混ざっている。「難民」=援助団体の善意を最大限利用する存在、というイメージがこういうところからきているのかもしれない。

でも、それは46万人いる難民の一部でしかない。どんな制度にも不備はあり、その不備を利用しようとする人間はどの社会にもいる。生活に困窮した人が多い社会なら、なおさらだ。

人口50万人の都市「A」があるとして、その一部が犯罪を起こしたら、「Aの住民にお金を渡してはいけない」という風にはならない。一般の社会ならあきらかに不自然なことでも、「難民」という枠組みになると、それが不自然なこととして扱われなくなる。

難民キャンプはテロの温床として、難民は犯罪者の予備軍として、一般社会からは決して良い目で見られることはない。そして、私たち、彼らと一番近くにいる援助関係者が、彼らを同等の人間として扱わなければ、一体、誰が彼らの尊厳を守るというのか。

今回のモウリドの件だけじゃない。難民の青年リーダーが、あるNGOからの連絡待ちをしていた時、そのNGOの関係者にそれを伝えたら、「俺たちは彼らに支援してやっているのだから、彼らに文句を言う権利はないだろ」と言っていた。私が、治安悪化によって、工場に行くことができなくなったことを友人に伝える度、「従業員は本当に働いているの?寝ているのじゃないの?」と毎日、からかわれる。

ライフラインの従業員は私以外は全員難民。難民だけでもしっかり工場が稼働できるということを証明できたら、それは他のNGOに「難民だって信頼できるのですよ」というメッセージを送ることができる。私が、これまで従業員と対立を繰り返してきたことが示すように、難民側の自助努力は言うまでもなく必要だが、私たち援助関係者も、しっかり肝に銘じなければならない。難民も同じ人間で、彼らとの信頼関係なしに、長期的支援はありえないということを。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR