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あなたと話がしたい

 11月30日、難民キャンプの国連事務所周辺を歩いていたら、「I Want To Talk To  You!」(あなたと話がしたい)と20代のソマリア難民女性が遠くから英語で言い寄って来た。足元がふらついて、目線がどこか別のところを向いている。呂律が回っていない。敬虔なイスラム教徒のシンボルで、ほとんどの難民女性が頭に被るヒジャブは身につけていない。薄いスカーフを頭にかけているが、短髪の髪型は丸見えだ。午後2時半ごろなのに、すでに泥酔状態だ。

 一緒に歩いていたモウリドが、「彼女はキャンプの有名人ですよ。知っていますか?」と尋ねて来た。私は、深く頷いた。昨年、同じ所を歩いていた時、突然、同じセリフで胸倉を掴まれ、持ち歩いていた水筒を奪い取られた。

 今回も、彼女は腕を振り上げて近づいてきたため、モウリドが前に立ちはだかってくれた。「お酒を飲むと、彼女はいつもこうなるのです」とモウリドは説明した。私が外国人だから、私に話せば欧米諸国へ定住できるチャンスが広がると勘違いしているのだという。夜はセックスワーカーとして働き、生計を立てる。私が車の中に避難した後も、周辺にいた援助団体の職員の胸倉をつかみ「彼と話しをさせろ!ファックユー!」と暴れ続けた。

 人口46万人の都市「ダダーブ」は、様々な意味で特殊な都市だ。その一つが、彼女の様に精神的に病んだ人に出くわす率の高さだ。300万都市のナイロビを歩くよりも数倍の率で、キャンプの市場を歩く日は、少なくとも1度、多ければ3度ほどからまれる。歩いている自分の横に来て「チャンチュンチョン!」と中国語を真似た様な言葉を繰り返し叫び続けてくる人。木の下に寝転がって、独り言を言いながら下半身をさらけ出してくる人。木の杖を振りかざし、腕を掴み引っ張ってくる人。

 祖国で20年間紛争が続き、家族や友人を亡くすなど様々なトラウマを抱え、未来の展望もないまま、飢饉、戦争、そして洪水など、次々とキャンプに押し寄せる人災・天災。

国連やNGOの代表が集まる会議では、食糧、医療、初等教育などの目に見えやすい「緊急援助」に関しては活発な議論がなされるが、長期的な避難生活を余儀なくされる人たちのメンタルケアに関して議論されることは少ない。

明日終わるかもしれない戦争から逃れている人たちに、長期的支援をするのは難しい。「あなたと話がしたい!」という彼女の悲痛な叫びは、難民キャンプの支援の難しさを象徴しているようだ。
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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