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気まぐれ工場長

自分はとても気まぐれな人間。特定の人に対してこみあげていたイライラが、ちょっとしたきっかけで吹っ飛ぶことがよくある。

 工場Aの主任ラホ。私が何度も指示していることが工場で実行されない。レンガを週に3回焼くとか、レンガの材料はなくなる2週間前に注文するとか。12月1日の全体ミーティングが終わった後、個別で話し合い、注意をしようと思っていた。来年4月で彼女の契約は切れるから、「契約更新できないかもしれない」とほのめかすことまで考えていた。

 全体ミーティングの議題は「難民キャンプでコンロを売ることは可能か?」。お金がない難民にコンロを売りつけるなんて、とても非道に聞こえるかもしれない。でも、ダダーブは20年前に作られた「都市」だ。実際、市場にはコンロが600円くらいで売られている。商売にすることで、従業員のビジネス能力が培われ、本当にコンロを必要としている人にコンロが届くようになる。

 しかし、従業員は「売る」ことに関しては否定的だった。自分たちの給料が減る可能性が出てくるわけだから、無理もない。私は「商売にすることで、得られるものは何でしょうか?」と尋ねても、従業員たちは答えない。

 「今、ソマリアが平和になって、祖国へ戻ったら、あなたたちは、自分で工場を運営できますか?」と尋ねたら、過半数が頷いた。そこで、頷いた女性従業員に「では、今、あなたの工場がオープンし、私たちが顧客でコンロを買うように説得してみてください」と促した。その従業員はもう3年も工場で働いているにも関わらず、コンロがどういう機能で、使用する薪の量を節約できるのか説明ができなかった。

 私は、「難民キャンプには、たくさんレストランがあります。あなたが、そこの料理人で、たくさんのお客が料理した物に文句を言ったら、あなたはどうするでしょう?」。従業員の1人が「その料理が、どうすれば美味くなるのか、他の人に聞いたりします」という。

 私は、「そうですね。お客を失えば仕事を失うわけですから、どうすれば料理を美味くできるのか自分なりに努力するでしょう。では、この工場はどうでしょうか?皆さんは、これまでどれだけ、コンロについて知ろうと努力してきたでしょうか。コンロの使い方について説明している図柄が工場にありますが、この図柄について完ぺきに説明できる人は、あまりいませんでしたね。3年、4年働いて、いつでも尋ねることができたのに、なぜ、聞かなかったのでしょう。それは、あなたたちが、コンロを無料で配布し、給料が援助資金で賄われているため、『必然性』がなかった。でも、長期的にみたら、それは、あなたたちのためになっていない」

 従業員たちは、黙って聞いていた。自分たちに対する批判を、素直に受け止めるのは難しい。私は、空気が重くなったのを感じ、「それでは11月の給料を支払います」と話題を変えようとした。

 そしたら、それまで黙っていたラホが、「ちょっと、待って、一つ言わせてください」とゆっくりとした口調で話し始めた。私は、「待ってました」と心の中でつぶやき、いつもの様に彼女が、従業員の弁護人として擁護発言をすると思っていた。しかし、彼女が言ったことは、私の予想とは正反対のものだった。

 「2007年から、これまで色々な工場長の下で働いてきましたが、あなたの様に、私たち1人1人の能力や知識を試そうとする人はいませんでした。私たちの能力を伸ばすために、様々なプログラムを組んでいただき、心から感謝しています」

 ゆっくりと、一語一語、ソマリア語で丁寧に話そうとするラホを見て、自分の胸が熱くなり、眼が少し潤んだ。これは、社交辞令ではなく、胸の内を明かす時の表情。私は、思わず、右手をラホに差し出した。「ありがとう」。ラホも笑顔で、自分の右手を差し出した。

 ラホに会ってから6カ月。感謝されるのは初めてだ。ラホは従業員の既得権益を優先し、私は組織の利益を優先し、いつも対立してきた。

 私は「難民キャンプというのは『緊急援助の場』と位置付けられています。水、食糧、医療、住居、在留資格、などの支援が主で、長期的人材育成のプログラムは乏しい。でも、このキャンプはもう20年もあり、たくさんの可能性を秘めた人材がいる。その人たちが、将来のソマリアを復興するのです。だから、私はあなたたちの可能性を最大限伸ばしたい」

 最年長のユスフが「あなたの言葉は、私たちの胸を突き動かすものがある。キャンプの住人は、将来の祖国のリーダーになるという発想は、私たちにとってとても新鮮です。心から感謝している」と言った。いつも冗談交じりの発言しかしないユスフが、真剣な表情で語りかけている。

 ミーティング後、隣に座っていた通訳兼アシスタントのモウリドがソマリアの諺を一つ教えてくれた。「魚を贈呈するのではなく、魚の釣り方を教えなさい」。私はそれを聞き、ソマリアには自律支援を美徳とする文化が昔からあったことに驚いた。「難民は怠慢」とよく言われるが、ひょっとしたら、援助団体が難民を怠慢にさせてしまったのかもしれないと、危惧してしまった。
 
 ラホに小言を言おうとしていたのが、遠い昔の出来事のようだ。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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