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パンドラの箱が開かれる日 (前篇)

 ソマリアは部族社会だが、普段の仕事上の会話でそれを悟るのは難しい。日本の非差別部落に似たもので、部族について語るのは「タブー」とされている。12月5日、その「タブー」に少し触れることになった。

以前にも書いたが、私が工場長になる以前、新しい従業員の雇用は、主任のラホに任されてきた。それによって、彼女の妹、親戚ら、ラホの部族の人たちが次々に雇用され、ラホの独裁政権が築かれていた。工場Bと違って、従業員内の対立がない代わりに、従業員の慣れ合い感がすさまじく、偽りの報告書記載や無断遅刻・欠勤などが横行していた。主任が従業員の既得権益を守ろうとするため、工場長にとっては新しいポリシーが実行しづらい状態だった。

 12月5日、モウリドが「ラホとダカネが対立して、私1人じゃ解決できないレベルです」と報告してきた。これまでラホに楯突く人間はほぼ皆無だったため、私は驚きを隠せず、事情を聞くために工場へ向かった。

 従業員たちは通常通り仕事に励んでおり、ダカネ(43歳)も黄色いTシャツに帽子をかぶって、握手を求めて来た。「個別に事情を聞く方がいいのか、一緒に聞いた方がいい?」と尋ねたら、ダカネは、「どちらでも」と答えたので、モウリドとラホとダカネの4人で別室に行った。

 まず、ラホから話を聞いた。

「11月29日に、レンガを焼く作業をダカネにお願いしたら、『できない』と断られた。できない理由を聞いても、答えがなかった。その後、他の従業員がダカネに聞いても、答えがなく、ダカネは私に『このままだと、大変な事になるぞ』と言ってきた」

要するに、ダカネがラホの命令に逆らったということだ。ただ、ダカネの最後のセリフが気になる。まるで、ラホの弱みを握ってるかのようなセリフ。次に、ダカネの言い分。

「11月17日に、私はレンガを焼く作業をしたから、11月29日は、私の番じゃなかった。しかも、同じ日、レンガをトラックに積み上げる日雇い労働があり、私が(賃金を稼ぐために)やりたかったのに、ラホは、自分の実の妹である、ミンシャにこの仕事を与えた。最後に、この対立について、私が工場長に告げ口しようとしたら、ラホの使い手の4人が私に電話をし、口止めを図った」

 コンロの骨格となるレンガをオーブンで焼く作業は最も辛い仕事だ。私が工場長になる以前は、週に1度か2度焼くだけだった。しかし、そのペースでは、工場Bに十分なレンガを輸送することができず、頭を悩ませていた。それで9月下旬、「もう少し、焼く頻度を上げられないか?」と尋ねても、「焼いた後はレンガが熱く、1日以上、放置しなければならないのです」と従業員が言う。試しに、レンガが焼かれた翌日に触ってみたら、全く熱くなく、「ぽかぽか暖かい」という表現が適切だった。つまり、従業員は、『熱い』というのを言い訳に、仕事を楽にしようとしていたのだ。私は「全く熱くない!これからは週に最低3回は焼いてください!」と指示を出した。これも、従業員同士の慣れ合いが引き起こす非効率な工場運営の例である

 誰もこの仕事を率先してやりたくないため、10月初旬、私はラホに「当番制にして、各従業員が平等に作業を担うようにして」とお願いした。

 そこで、2人の対立する争点の一つ「11月29日はダカネの順番か?」という点。報告書を見ると、11月17日、21日、24日、27日、29日に、レンガが焼かれた。ダカネが17日に作業をしたことは目撃者の証言で判明。その後、4回目のレンガを焼く作業で、ダカネの当番が回ってくるというのは、論理にかなっているのか?

 ラホに、「この作業をできる人は何人いる?」と尋ねたら、「10人」と言う。私は「10人いるなら、10回焼いて、やっと次の当番が回ってくる計算だけど、ダカネは4回目で回ってきているのは、なぜかな?」と尋ねた。

(ちなみに、文章にすると、会話がとてもスムーズに行われているように読めるが、通訳のモウリドが、論理的な返答が返ってくるまで、ソマリア語で何度も何度も繰り返し同じ事を言っているのが行間に消えているだけだ)。

 何度か的外れな返答をした後、ラホは、「私も、色々な作業をして忙しいのです。当番が誰なのかわからない時だってあります。でも、それなら、ダカネは『今日は私の当番じゃない』と言えば良かった」。ダカネは、「それは伝えた」と言った。

 そして、妹に日雇い作業を割り当てた件は、ラホは「確かに彼女は私の妹だけど、それは単なる偶然でしかない。私が雇用したわけではないのです。彼女がたまたま、その日、手が空いていたから、彼女にその仕事をお願いしただけです」と答えた。

 ラホが妹を優遇しているということを証明するのは難しい。ただ、問題は、ダカネが、ラホの妹の件を、外部の私に公然と告げ口したことだ。ソマリア人は同胞内の信頼関係をとても大切にする。難民として世界へ散らばったソマリア人たちは、同胞内にできたネットワークで、国境を越えてお金の貸し借りをし、新しい仕事を始めるなど、生活の糧にしている。

ダカネは、工場で自分の立場が危うくなるのというリスクを犠牲にしてまでも、私に、自分の不満を伝えようとしている。ラホが主任を辞めさせられたとしても、文字の読み書きができないダカネが後任になる可能性はない。つまり、物質的に得することは何もないのだ。「ラホによる特定部族の優遇は納得できない。このままでは、私はこの工場では働けない」とダカネは言う。

今回の事件は、氷山の一角で、おそらく、ダカネの中には、溜まりに溜まった不満があるのだろう。ラホのいる前で、すべてを吐き出すことは難しい。私が工場長に就任した半年前からずっと気になっていた「ラホの独裁政権」の実態を、私は知りたかった。

私は、「ダカネと2人きりにしてください」とラホに退出を願った。 (続く)
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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