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従業員2人を停職処分に

従業員2人を停職処分に

 今日は朝から気が重い。従業員2人に1カ月の停職処分を下さなければならないからだ。無論、こんなことするのは人生で初めて。入ってきたばかりの工場長がこんなことをしたら、従業員からの反発はすごいだろう。もしかしたら、信頼関係に大きなヒビが入るかもしれない。裏で何を言われるのかもわからない。それでも、自分の信念を突き通さなければならないのは辛いなあ。

 処分を下されるのは、どちらも男性。1人は50代のイブラヒム(仮名)。5月と6月の2ヶ月間で無断欠勤が11日。先週、警告を出したら、「出勤しているのに、欠勤扱いにされた!」と逆切れ。出勤簿を見ると6月2日に欠勤とあった。「この日は?」と尋ねたら、「この日も出勤していた!」と豪語してくる。しかし、この日は、私自身が工場に来ていた日で、イブラヒムの姿は残念ながら見なかった。無断欠勤が多いうえに、出勤簿をつける主任の名誉を傷つけた代償は大きい。しかも、何の反省の色も見られない。主任のラホと相談し、停職処分が決まった。

 2人目の方はさらに深刻で、複雑だ。コンロを作るためのレンガを、毎日200個作るのを目標としているが、6月20日は、数人の従業員が欠勤したため100個前後しか作れなかった。しかし、23日に工場で月間報告書を見たら、20日に作られたレンガの数が「200個」と記されていた。報告書をつけた主任代理のアブラシード(25歳)を早速呼び、本人は自らの失態と認めた。私が毎日工場に来ることができないため、月間報告書は、私と従業員の信頼関係をつなぐ唯一の生命線。私は、平静を保つことができず、「この難民キャンプには、仕事がしたくても仕事に就けないたくさんの若者がいるんだ!もっと真面目にやってくれ!」とアブラシードを叱責した。
その日作られたレンガを数えるだけの仕事を怠るなんて。しかも、目標達成されなかった場合のペナルティーなんて何も課されていないのに、なぜ、偽った記載をしなければいけなかったのか?仕事を舐めているとしか思えない。本人に尋ねても、「すいません」「すいません」と言うだけで、何も言おうとしない。本来、従業員の処分は、主任からの警告、私からの警告、そしてそれでもだめなら、停職となる。しかし、今回の事は、あまりにも重大である。警告を飛ばして、即停職処分とした。そして、彼を主任代理として任命したラホを警告処分にした。

 いつも通り朝8時半ごろ工場に着くと、早速、ラホとイブライムを別室に呼んだ。イブラヒムには、私から停職処分を告げる文章を読み、ラホがソマリア語に口頭で翻訳した。イブラヒムは、何も言わず、下を向いたまま、紙を受け取った。「もう行っていい。それから、アブラシードを呼んでくれ」と私は伝えた。

 アブラシードは、硬い表情で入ってきた。彼は英語がわかるため、ラホの翻訳は不要だった。私が、処分を告げる文章を読み上げた後、彼はそれを受取ろうとせず、「本来なら、まず、警告するのではないのですか?」と言ってきた。私は、「残念だけど、君が犯したミスは、警告で済まされるものではない。もし、この処分が気に食わなければ、解雇しかない。どちらか自分で選んでくれ」と強い口調で伝えた。

 ラホが横から「ボス。私も発言してもいいでしょうか?」と尋ねてきた。私は了承し、ラホは「これは彼が犯した初めてのミスです。警告にしてやってはどうでしょうか?」。私は「残念だけど、これはもう決まったことだ。月間報告書に偽りが記されるのなら、もう私たちの信頼関係はない。信頼関係がなければ、仕事を続けるのは不可能だ。工場を閉鎖するしかない」ときっぱり断った。

 アブラシードは、渋々、文章を手にして、部屋を出て行った。そして、ラホと2人きりになり、私は「実は、まだあるんだ」と、ラホに対する警告処分が記された文章を取り出した。私は読み上げ、ラホは黙って聞き、読み終わった後、「サワサワ(スワヒリ語でOK)」と言い、文章を受け取った。私は内心、不安で仕方がなかった。ラホはもう4年以上、この工場で働き、他の従業員から絶大な信頼がある。これで、彼女との信頼関係が崩れるようなことがあれば、これからの仕事に大きな支障がでるだろう。

 この日は丁度、給料日のため、従業員全員を集めて、1人1人に給料を現金で手渡し、受け取ったサインをもらった。給料は1人5000シリング。日本円にして約5000円。週35時間肉体労働をして、月5000円。日本で同じ量の仕事をすれば、少なくとも20~30倍はもらえるだろう。つくづく、人生とは不公平にできているものだと感じさせられる。

 そして、その後、私は「私がここに来てから1カ月が経ちました。皆さん、どうでしょうか?」と皆の前で切り出した。そしたら、ソマリア語で何やら、従業員同士でやりとりが始まった。隣にいるラホに「何て言っているの?」と聞くと「あなたは良い工場長という人もいれば、そうではないという人もいるようです」と教えてくれた。私は、「何が問題なのか、話してもらえますか?」と聞いた。

 そしたら、女性従業員のマラシ(30代、仮名)が、「私たちはこの1カ月、あなたを歓迎しようと心がけた。でも、あなたは、私たちの仲間2人を工場から追い出そうとしている」と言う。私は、停職処分を2人に告げてから数分しか経過していないのに、すでに従業員全員に知れ渡っているということに少し驚き、「それについては、後でじっくり説明します。他には何かありませんか?」と言う。

 今度は、50代の男性従業員、リバンが、「あなたは前任者とは違う。たくさん工場に顔を出してくれるし、それはありがたい。私たちはあなたを尊敬したいし、あなたも私たちを尊敬してほしい。でも、2人の従業員をああいう形で処分をするのはどうかと思う」と言ってきた。どうやら、2人の停職処分がよほど、ショックだったのだろう。これ以外の事について話すのは無理のようなので、私は、彼らにゆっくりと、自分の思いが伝わるように話した。

 「それでは、説明します。私は、この工場長になったことをとても誇りに思っています。あなたたちが毎日作っているコンロは、キャンプの住人たちの生活に役立っているからです。だから、私はあなたたちにとても感謝しています。
 私は日本という国に生まれました。あなたたちは、日本についてほとんど知らない。そして、私も、ここに来るまでソマリアという国について、ほとんど知らなかった。私たちは、それだけかけ離れた場所から来て、全く異なる文化で、色々理解できないことがあるだろう。こういった関係で、信頼関係を築くのは難しいけど、私たちが双方で、努力を怠らないことが大事だと思います。
 イブラヒムは、2ヶ月間で11回無断欠勤をし、さらに主任が彼の出勤簿に偽って欠勤と記したと言いました。実際、その日は、イブラヒムは出勤していなかったことを、私がこの目で確認しています。彼は主任の名誉を傷つけました。
 アブラシードは、月間報告書に偽りの記載をしました。この月間報告書は、毎日工場に来れない私とあなたたちの信頼関係を築く唯一の生命線です。この報告書の信頼性が失われれば、この工場の運営は難しくなります。
 私はあなたたちを理解したいと思っている。だから、私はあなたたちに決して嘘はつかない。だから、あなたたちも決して私に嘘はつかないでほしい」

 マラシは、深く頷いて、理解してくれたようだった。

 私は、「この他にも、この1ヶ月間で、身分証明書の紛失が1件、無断欠勤2カ月が1件あった。イフォ(別の難民キャンプ)の工場では、これまで何の問題もない。頑張りましょう」と笑顔で話し、従業員たちの表情が少し柔らかくなった。

 「他に質問は?」と尋ねると、これまで静かにしていたブラレ(40代男性、仮名)が「停職処分をされた2人はどちらも私の班です。どうか、寛大な処分をお願いできないだろうか?」と、尋ねてきた。もう、これについての話は終わったと思っていた私は、不意を突かれた思いだった。

 私は逆に、ブラレに尋ねた。「あなたが、私だったら、どうするのですか?」と尋ねた。ブラレは、「警告します」と答えた。私は「イブラヒムは、もう3回も警告を受けているのですよ」と言うと、ブラレは「私があなたでも、そうしていたでしょう」と言い、黙った。

 「他は?」と、できるかぎり柔らかい口調で言うと、今度は、59歳のハサン(男性、仮名)が「あなたは私たちの父親で、私たちは、あなたの子供です。家族みたいなものなのだから、2人に寛大な処分をしてあげてくれないか?」と請願してきた。私は「何を言っているのですか。見た目なら、あなたが私の父親でもおかしくない」と笑顔で答えると、皆、噴出した。

これだけ、従業員たちが請願しているのを目の当たりにすると、さすがに折れたくなる。私は、「あなたには子供がいますか?」と尋ねた。ハサンが頷くと、「子供たちがあなたに嘘をついたら、どうしますか?」と尋ねると、「警告します」と言ってきた。再び、私がイブラヒムには警告がすでにされていたことを告げると、「それについてはわかった。でも、アブラシードは、警告処分なしで、いきなり停職になった。本来なら、警告処分からするのが普通です」と言ってきた。隣にいる60歳のシヤード(仮名、男性)も頷いた。

 私は「確かに、アブラシードは警告なしで、いきなり停職になりました。ただ、2人の行った行為は、全く異なるものです。コーラを盗むのと、人を殺すのとでは、与えられる罰が違うように、罰則というものは、事の重大さによって分けなくてはなりません。イブラヒムが何回無断欠勤しようが、この工場の運営にはさほど影響はありません。彼1人がいなくなってもそこまで大きな問題はない。しかし、私とあなたたちをつなぐ唯一の生命線である報告書に偽りの記載がされたら、それは、この工場の存続の危機を意味します。『この工場を潰して、別のところに移転しよう』という声が本部から上がるかもしれません。そして、ここにいるすべての人が職を失う。アブラシードがしたことは、それだけ重大なことなのです」と伝えた。アブラシードは、ずっとうつむいたまま、何も話さない。

 ようやく、誰も停職処分に関して話すものはいなくなった。一体、彼らがどこまで理解してくれたのかは疑問だ。ミーティング終了後、従業員たちは、通常業務に戻った。停職処分を受けた二人は、木のベンチに座ったまま、全く動こうとしない。誰とも会話を交わすこともなく、アブラシードは携帯電話をいじっている。私は、少し胸が痛くなった。
 
 マラシが、ラホを通して、生後6カ月の子供が病気だから、少し仕事を休まなくてはならないと告げてきた。私は笑顔で「それは心配だね。看病してあげて」と伝えた。そしたら、「何日休めるのか?」と尋ねてきた。私は、「ラホに任せるよ」と言った。今回の停職処分で、従業員もかなり神経過敏になっているのだろう。これが良い刺激となるか、悪い爆弾となるかは、明日からのお楽しみだ。とにかく、私は、誠心誠意、彼らに尽くすのみ。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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