パンドラの箱を開ける日 後編


 私とモウリド、ダカネの3人になり、お互い顔を近づけ会わせ、声のトーンを下げて話し始めた。

 私は「今回の事を話してくれてありがとう。こういう閉鎖的なコミュニティーでで、こういう事を外部の私に言うということは、とても難しいことです。でも、こういう問題点を指摘してくれる人がいるから、組織は強くなっていく。今回も、あなたのおかげで、これからしっかり当番表を作り、任務の割り当てに不公平が出ないよう心がけるようにします。
あなたの話を聞いていると、他にも色々な不満があるように聞こえました。この機会に、私に話してくれませんか?」と尋ねた。

ダカネは何の躊躇もなく、話し始めた。

「この工場は、ラホの支持者とそうでない人に分かれています。私を含め、8人の従業員は後者で、これまで不平等に扱われてきました。例えば、支持者の人が無断欠勤しても、出勤扱いにされ、私たちが5分でも遅刻すれば、欠勤扱いにされました。
 
 3年前、ここで働いていた従業員が結婚休暇で数日いなくなり、ラホは親戚を1人連れてきて、その従業員を解雇し、親戚を代わりに雇用しました。
 ラホは、仕事をさぼることが多かった。自分の使い手にレポート作成をやらせてね。

 今回の事だって、ラホは、誰が当番なのかもわからず、私に辛い仕事をやらせようとしただけです」

主任による特定集団への優遇措置。これが本当の事だとしたら、とんでもない話だ。ダカネは一つ付け加えた。「あなたが工場長になったから、こういう問題が明るみに出るようになりました。これまでは、工場長が工場に来る回数が少なかったし、主任以外の従業員と話すことはありませんでしたから」

 私は、ラホを呼んだ。

 「ダカネの言っている事についてどう思う?」と尋ねたら、「ああやって私についてデマを言うのは納得できない。彼とはもう仕事はできない!」と感情の高ぶりを抑えられない様子だ。

私は、率直に彼女に私が抱いている違和感を伝えた。

「10月初旬、私が、レンガを焼く作業を何人かにお願いしたら断られた。その時点で、この作業が最も辛いもので、誰も率先してやりたがらないものだということがわかった。だから、私はあなたに、任務を平等に分けるように伝えた。しかし、11月の週予定表には、ダカネが毎回レンガを焼く作業に充てられていた。私が主任だったら、特定の人間に、最も辛い作業を毎回与えることはしない」

ラホは、またしても、何度か的外れな返答をした後、「私は、彼がこの作業を誰よりも巧くやるという自信があったから割り当てました。これはポジティブに考えるべきことです」と言う。

 私は「自分が良かれと思ってやったことが相手に対してはそうでないことはよくある。その場合どうするべきかわかりますか?」

 ラホは、「彼に仕事を割り当てる前に、尋ねるべきでした。でも、彼がやりたくないということは知らなかった」

 私は「それはおかしいですね。10月初旬の時点で、私がレンガを焼く作業を皆にお願いした時、誰も率先してやる人はいなかった。つまり、あの時点で、ダカネが率先してこの作業をやると予測するのはおかしいのではないですか?」

ラホは、黙っていた。彼女の論理は常に破たんしていた。いや、彼女は論理など考える必要がなかった。独裁者に論理はいらない。

ミーティングを終え、私はモウリドに尋ねた。「どう思う?」

モウリドは、「これは『革命』ですよ。でも、今、ラホを代えるのは難しい。ダカネが告げ口したことがあまりにも明白で、ラホの部族が、ダカネを襲うこともあり得ます。来年の4月、ラホの契約が切れる時が一番自然なタイミングかもしれません」

 しかし、これから、ダカネが工場で肩身狭い思いを強いられないだろうか?ラホは、どんな手を使っても、ダカネを追い出そうとするだろう。そうなれば、工場内の亀裂は取り返しのつかないものになりかねない。

 パンドラの箱を開けてしまった。開けることができたことを誇りに思う反面、開けなければ、解決しなくて良かった問題が、あふれ出てきたことに、少し戸惑いもある。工場は、また、新たな局面に入った。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR