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法の上に皆平等なり

 ダカネとラホの対立をうけ、12月8日、工場Aで全体ミーティングを開いた。

 まず、私は、ダカネとラホにそれぞれの立場を話してもらった。

 ダカネは、ラホによって、日雇い作業の機会が奪われ、ラホの妹が優遇されたことと、自分ばかりが大変な作業を割り当てられることへの不満を話した。ラホは、ダカネに作業をお願いしたら無視され、他のスタッフを仲介して、それについて何度ダカネに尋ねても、返答をもらえなかったこと。日雇い作業の割り当てについては、同じ人が繰り返し割り当てられないよう、配慮した結果だったという。

 私は、ラホに、「同じ人が繰り返し割り当てられないようにしたということは、毎回、誰が選ばれたのか、記録は取っていたのですか?」と尋ねた。「名前は記録していません」と言う返答だった。

 私は、「ダカネが挙げている二つの問題は、大事な共通点がありますが、何かわかりますか?」と全員に尋ねた。

 男性従業員が「お互いの誤解から生じているという点です」と答えた。

 私は「誤解もあると思いますが、この問題に共通しているのは、『従業員が平等に扱われていない可能性がある』ことをほのめかしているということです。二つの問題について、どうしたら解決できるでしょうか?」と尋ねた。

 別の従業員は「工場長が出した提案を私たちは受け入れます」といつもの答えが返って来た。私は、いつも通り、「これはあなたたちの問題です。いつも言っていますが、私は、あなたたちの問題は、できる限り、あなたたち自身で解決してもらえるようになってほしい」と伝えた。

 話し好きのダヒールが「ここにいる従業員1人1人に、ラホの指導に満足しているかどうか尋ね、総合的評価を下すのはどうでしょう?」と提案してきた。

 私は、思わず、「それは、とても危険な提案です」と、少しきつい言い方で返した。(おそらく、モウリドが柔らかい言い方のソマリア語に訳してくれたのだろうが)「人の言動を、主観的感情で判断するのは、最善のやり方ではありません。感情というのは、『この人はソマリア人だから好きだけど、あの人はエチオピア人だから嫌い』という風に、とても曖昧で、流動的で、非論理的なものです。勿論、主観的判断に頼らなければならない時は多々ありますが、客観的事実に基づいた解決策があるのなら、それを探るべきだと思います」と説明した。

 従業員の中に1人でも不満を抱いている者がいるなら、その不満に工場全体で向きあってこそ、組織は成り立つのだと思う。彼の提案だと、少数派の思いが踏みにじられる可能性がある。様々な国籍や部族出身の従業員が入り混じる工場において、それはとても危険をはらむ。

 そしたら、ドゥボウが「皆が嫌がる仕事については当番表を作るのはどうでしょうか?」と提案し、私は「それです!」と思わず声のトーンを挙げてしまった。

 「レンガを焼く作業も、日雇い労働の割り当ても、1人1人がわかるように、誰がいつやるのか紙に書かれていれば、今回の様な問題は起きなかったと思います。主任のラホが、当番表を作っていればよかったのでしょうが、これはラホだけの問題ではなく、従業員1人1人がいつでも提案できたことです。皆で、どうすればスムーズに工場運営ができるのか考えていきましょう」と伝えた。

 その後、ダカネと他の従業員との誹謗中傷合戦が始まった。ダカネが、「ラホの使い手4人が、私に電話をして説得してきた」と他の従業員に伝えた事で、名指しされた4人が、「そんな電話はしていない!」と怒り、「やった」「やってない」の言い合いになった。ラホも「ダカネのしている事は、私たちを部族の違いで分断しようとしている。非難されるべきです!」と感情的になっていった。

しまいには、「今まで言わなかったけど、私は昔、ダカネに『XXXX』と中傷された」という者まででてきて、収拾不可能な議論に発展していったため、私は、「もう時間も経っているし、ミーティングは切り上げましょう。昔の話まで出し始めると、きりがありません。ダカネは確かに、作業を断る理由をしっかりラホに伝えるべきでした。でも、今回の問題はダカネ1人の問題じゃないと思っています。
私は半年前にこの工場に来た時から、この工場にはとても近い親戚数人が働いていることを知っていました。でも、それ自体は問題だとは思っていません。皆一生懸命仕事をしてくれれば、それで私は満足です。ただ、20人の従業員の中に、主任と近い親戚が数人交じっているのなら、従業員1人1人が不平等に感じないよう最善の配慮がされるべきです。当番表を作るのも、日雇い労働を誰が割り当てられたのか記録するのも、1人1人が平等に扱われることを保障するためです。
9月に就業規則を作りましたが、そこには「主任からの真っ当な指示には従う」という項目があります。今回は、ダカネは指示が「真っ当」と思えなかった。これからは、指示が「真っ当」なものであるよう、1人1人が最善の努力をしましょう」とまとめた。

 会議は11時に始めたが、もう午後1時を過ぎていた。私は、「それでは、会議を終わらせましょう」と伝えたら、ラホが「最後に一つだけ」と言ってきた。「こうやって終わらすのは良くない。お互いの手を取って許しあって終わりにしましょう」と皆に呼び掛けた。皆に促されるように、ダカネが渋々と立ち上がり、ラホの前に行き、手を握った。ラホは、ダカネの頭を笑顔で撫でた。ダカネの表情が初めて緩んだ。私も皆に交じって、1人1人と握手をした。

 さっきまで怒鳴り合っていた従業員たちが、いつのまにか笑い合っていた。2日前まで「もうダカネとは働けない」と言っていたラホが、こういった形でダカネに歩み寄りを見せたのには感動した。自分だったらネチネチと怨み続け、そんなにあっさりいかないだろうけど、彼らは違う。切り返しが早い。屈託のないあの笑顔に、私は、とても惹きつけられるし、自分自身が何か救われた気分になる。また、彼らに感謝する事が一つ増えた。
 

 
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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